第14話 異世界で散歩

 目が覚める。視界に入らずともレインの痛い視線を感じた。なんでそんな目で俺を見る。何か俺が悪いことしたのか。


「おはようなのです。カイト」


「あぁ、おはよう」


「なんでクレアと一緒に寝てるのです?」


「クレアがレインを真似まねたんだよ。俺だってやめろと言ったけど、聞く耳を持たなかったし」


 レインは俺の腕を独り占めできなかったことにご立腹のようだった。俺だって、必死に抵抗した。ただ、やられるよりやる方が強いのだ。それは承知してもらいたい。それに人の腕を借りてる時点でお前も何か言える立場ではないだろ。


「それに、別に俺の腕は二本あるんだから、一本誰かに取られても問題ないだろ」


「レインは独り占めしたいのです」


「そ、そうか」


 こいつらの距離感というのがいまいち分からん。クレアもレインも出会って一週間も経たない俺に信頼を置きすぎている。他の冒険者にも同じようなことしてれば、スキンシップの多い痴女と噂されても仕方がない。


「レインはよく他の冒険者にも抱きついてるのか?」


「そんなことないのです!カイトの腕が一番良いのです!フィット感といい、抱きやすさといい。唯一無二なのです!」


「おぉ、分かったから落ち着け」


 俺の腕について力説し始めるレインを止める。そこまでは求めてないがどうやら俺以外にはやっていないようだった。それが良いのか悪いのかわからないが、なりふり構わずやっていないならよしとしよう。


 問題はこいつだ。今も穏やかな寝息を立てて俺の腕ですやすや眠っているクレア。聞いた感じ、彼女は何人もの冒険者を救った。そして、クレアは距離が近い。初心者を助けていると母性が湧くのか親身になって対応してくれる。そして、こんな行為までしてくるやつだ。


「痴女か……」


「聞こえてるよ」


「うお!?」


 クレアの今日までの行動を省みると結果的にそう思うしかなく、ボソッと言うと目を瞑っていたクレアは口を開けた。起きてたんかい我。


「あたしがなんで痴女扱いされなきゃいけないの?」


「いやだって距離近いし、一緒に寝ようとするんだぞ。それ以外の何者でもないだろ」


「……確かに。でも、他の冒険者と泊まるのは初めてだよ。だから、腕に抱きついたことなんてないし、話す時だって別に近くないでしょ?」


「そうか?」


「そうだよ!思い出してみて」


 そう言われれば、そんな気がしてきた。元気な声で喋るから近くにいたと錯覚していたのか。そう思えば、まだ俺にしかやったことないと考える痴女ではない……いや、結局そうなると俺に信頼を置きすぎているという事実は変わらんな。


「なんで、そんな俺のことを信用できるんだよ」


「なんでって、逆に信頼しない要素はどこにあるの?」


「いや、クレアたちから見れば十分怪しいだろ」


「そうかな?今の所怪しいところはないけど。それに最初から疑ってかかっちゃダメだよ。思いがけない出会いもあるし、裏切られたら裏切られたらで、あたしの厚い人望でこの街中の人が敵になるだろうからね」


「怖いこと言うなよ」


「だって本当のことなんだもん」


 怖いことをサラッと言うクレア。ただ、確かにクレアの人望があればこの街一体が敵になってもおかしくないというのがまた怖いところだ。


「痴女呼ばわりしてすまなかったな」


「うん、それでよろしい。ところで今日なんだけど、どう回ろっか」


「全部クレアが決めていいぞ。俺はなんも分からんからな」


「そう?じゃあ……、うん、決めた。早速行っちゃう?」


「朝食食べてからでいいんじゃないか?」


 朝から体を動かすのは億劫だ。だから、少しのんびりした散歩も悪くないだろう。


「分かった。レインは今日何して遊ぶの?」


「グオンと一緒に遊ぶのです。最近作った初見殺しのデッキで一泡吹かせるのです」


「そう?なら、いいけど」


 レインもグオンもそれぞれ用事があるようだった。レインに話を聞いたのもクレアなりの気遣いだろう。暇な時間を与えないようにしたいという気遣いが感じられる。


「ちゃんと朝ごはんは食べておいてね」


「クレアと違って自分で作るので良いのです」


「また、そう言う。別に料理できなくたっていいでしょ。料理できない人はできないなりに、遠慮してるの。せっかくの食材が使えなくなったら困るでしょ」


「失敗なくして成功なしなのです」


「……。カイト、行こ!」


 口論で大敗したクレアは俺を掴んで足早に宿から出て行った。分が悪いと言えば悪かったし、しょうがないと思うが、あんな万能の言い返しをされたら何も言い返せない。


「じゃあ、行こっか。今日はいいお散歩日和だし」

「ああ、行こうぜ」


 雲一つない快晴。今日は絶好の散歩日和だ。

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