第13話 奇跡のウヌボレウスって知ってるか?
「ちょっと!遅いよ!」
「あぁ、すまんすまん」
「どこで道草食ってたの?」
「道草を食ってたわけじゃない。カイトの服と武器を取りに行ってただけだ」
「あ。そんなのもあったね。そういえば」
完全に忘れてただろ。その言い方的に。
宿に戻ると宿の前でソワソワしているクレアの姿があった。あまりにも帰るのが遅い俺たちを心配してここにいたらしいが、服とか武器のことを忘れているようだった。
「まぁまぁ、そんなことはいいじゃん!無事に帰ってきてくれただけでも嬉しいよ。早く部屋に戻ろ。あ、そうそう。明日は休暇にしない?」
「休みの日にするのか?」
「うん。二日連続で冒険して多少の疲れはあるだろうし」
「確かにそうだな」
初めての冒険で流石に俺の体力にも限界が来ていた。それに恐怖を覚える上等級の魔物と二回も対峙したのだから、そこから来る疲労感もある。ここいらで体を
「分かった。明日は休みにしよう」
「うん。じゃあ、グオン。またね」
「あぁ、おやすみ」
宿の部屋に戻り、風呂を済ませる。どうやら二人は先に入ってしまっていたようだった。今日見繕ってもらった服を着ると、体を動かしやすい大きさ、気にならない優しい肌触りで、仕上げは想像以上だった。
「はぁ、上がった上がった」
「お、カイト。あ、それ頼んでたやつ?無地の服にしたんだ」
「あぁ。いつでも使えるしな」
まぁ、俺が無地以外あまり着たくないというのもあるが。
ベッドの上でレインとカードゲームをしているクレアは、俺が風呂から上がったのを見てカードを片付けようとした。
「あ、負けそうだからってそんなのズルいのです!」
「負けそうって何!?あたしはカイト待たせるの悪いなぁって思って切り上げただけだけど!?」
「俺のことは気にしないでいいぞ。服とか剣取りに行って待たせちゃったからな」
「そ、そんな優しさ、今はいらないよ!」
カードを片付けようとクレアにレインはズルいと言った。そのゲームを知らないから俺はなんとも言えないが、まぁ、レインの言っていることが正しいんだろう。
「逃げちゃうのかー、クレア。子ども相手に逃げちゃうのかー」
「あぁ!もう分かったよ!ここで奇跡のウヌボレウスを出して勝ってやる!」
「奇跡のウヌボレウス?」
「な!?それは!頭、両手、両足、王冠、アクセサリー二種類を揃えることで完成し、場面問わず自分の勝利になるというモンスター!でも、揃わなすぎて、そこの枠に強キャラを入れた方がいいと言われた古のギャンブルデッキ!もしかして揃っちゃうのです!?」
「うおりゃー!!」
いつにも増して意気揚々と
「うっ、負けた……」
「まぁ、当然の結果だな」
「これでレインの七連勝なのです」
「そんなに負けてんのか」
クレアは勢いよくカードを引き、クッククと不気味な笑みを浮かべる。最初は本当に揃ったかと思えば、何もせずにターンエンド。そして、レインが無慈悲な攻撃をして勝負が着いた。
「それに一枚も揃ってねえじゃねか。奇跡のウヌボレウス」
「揃うわけないじゃんか!」
「カイトもやってみるのです?」
「いや、俺はいいよ。ルールとか分からないし」
クレアが投げ飛ばしたカードを見るがどれもウヌボレウスらしきものはない。これでどう揃えようとしていたのか。
勝負が決着したレインは俺の腕に掴むとこのゲームに誘ってきた。確かにこのゲームは面白そうだが、ルールが分からない以上、俺が出来ることはない。そう思って断ったがクレアが怒涛の勢いで寄ってきて目を輝かせていた。
「やろうよ、カイト!ボコボコにさせて!」
「そんな誘い方でやる奴がいるか!」
「はいはーい、カイトはレインのデッキ使ってね。よし、じゃあ始め!」
「強制かよ」
強引にレインのデッキを俺に渡してゲームを開始した。クレアはルールの知らない初心者の俺に勝って気持ちよくなりたいだろうが、残念だったな、クレア。俺の右腕に宿しレインが俺の守護者となって勝利を導いてくれる!
「お、おい!寝るな、レイン!俺は今、お前だけが頼りなんだ!」
「フッフッフ。この勝負もらったね」
「クソ、俺の作戦が」
「先行はそっちからでいいよ!あたしがどうせ勝つしね」
最高戦力を失った今、俺の勝算はほとんどなくなってしまった。しかし、俺は諦めない。
「行くぞ!」
「来い来いー」
すでに勝てる喜びでニマニマしているクレアなんかには負けたくない!
三十分後。
「死ねええええぇぇ!!!!」
「やめて!お願いだから!カイト!
カイト!」
「これで終わりだ!!」
長い長い激闘の末、俺は必死で命乞いするクレアの最後のライフを削り、勝利した。
「いやぁ、このカードゲーム面白いな」
「面白くないよ」
「クレアは、やり方が単調なんだよ。もうちょっと工夫しないと」
「一戦勝っただけで調子に乗らないで」
初心者の俺に負けてやる気を失ったクレアはカードをいそいそと片付け始めた。俺もレインのデッキを整理して、俺はベッドに横になった。
「そのレインどうする?」
「ガッチリホールドウーマンだから、このまま寝るよ」
「そう?じゃあ、あたしも!」
「おいおい、来んな来んな」
激戦の中でも起きなかったレインは俺の腕をガッチリと掴んで離れることはなさそうだった。俺の腕とレインは強力な磁石でくっついているらしい。そして、クレアも何故か俺の左腕を掴んで横になる
「なんでレインはいいのにあたしはダメなの?」
「もうこいつは寝ちゃってるしな」
「スヤー。あたしも寝てまーす」
「こ、こいつ……!」
寝てるフリをして対抗するクレアは退く気配を見せない。しかし、ここで諦めればずっとクレアもレインも俺の横で寝る羽目になるかもしれない。そんなのは嫌だ。どうにかしてクレアだけでも離さなきゃいけない。
「そんな強く抱きしめると胸当たるだろ?どうすんだ。俺はお前のこと思ってだな」
「そうやって女の子扱いして退かそうとしても無駄ですぅ」
「くっ。と、トイレ行きたいな」
「さっき行ってたでしょ?」
俺の作戦は失敗に終わった。女の扱いに慣れていないクレアなら照れて退いてくれるんじゃないかと思ったが今のクレアは一味違うらしい。
「明日休日だけど、カイトは何するの?」
「そうなんだよな。風呂場でも考えてたんだけど、何しようか迷ってる」
「じゃあさ、一緒にこの街散歩しようよ。まだ紹介しきれてないし、この街に長くいるんだったら、どこに何があるかと覚えてた方がいいだろうしね」
「お、マジか?頼むわ」
「オッケー。じゃあ、明日はそれで決まりね」
急に話を逸らしたクレアは明日の予定について話す。俺の手元に娯楽がない今、時間を潰すのは難しいだろう。休息だけじゃ一日は終わらない。それにクレアがこの街を案内してくれるのは安心できる。明日はのんびりクレアと共に散歩しながら街を知るいい機会になるだろう。
「じゃあ、おやすみ」
「おい、とりあえず離れてからだろ」
「なんのこと?あー、今日は疲れたなー。早く寝ないとー」
「棒読みやめろや」
無反応になってしまったクレア。左腕と右腕が女によって拘束されている今、この状況は良いものかもしれないが、自由に体を動かせないのは不安を感じる。もっとこの状況を楽しんだ方がいいのだろうか。
「もう、いいや。寝よう」
考えることを放棄した俺は、目を瞑って夢の世界へ逃げることにした。
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