第12話 剣

「じゃあ、あたしとグオンが報告しに行くからレインとカイトはいつもの宿で部屋とっておいて」


「あぁ、分かった。じゃあ行こうか、レイン」


「はいなのです」


 冒険者協会でクレアたちは別れ、レインと共に昨日と同じ宿屋に向かった。はぐれないようにレインとは手をつないで一緒に歩いているが、はたから見れば小さな子どもを引き連れている人に見えるだろう。と言うか、実際レインは何歳なのか。それにそもそもグオンとクレアの年齢も俺は知らない。ここまで気にしていなかったし、別にそれを知ったところで俺に何か有益な情報がくるのかと思えば、そうではないが気になるものは気になる。


「カイト、宿の前でどうしたのです?」


「あぁ、いや、ちょっと考え事を」


 いや、聞けるか!無理だわ、普通に。女性に年齢を聞くのは流石に無礼だ。やめておこう。


「三人部屋と一人部屋をお願いするのです」


「はいよ、これは部屋の鍵だ」


「俺も一人部屋の方が良いんだけど」


「ダメなのです。そしたら、お金を無駄遣いしてしまうのです」


 俺が苦悩している横でレインは宿の店主から鍵をもらっていた。あらかじめ話しておけば良かった。


「俺、端な」


「レインは真ん中がいいのです」


「今日もまた昨日みたいに俺のベッドに入ってくるなよ」


「…………。カイト、もうお風呂入っちゃうのです?」


「今、あからさまに話らしたよな。それにまだ風呂には入らなくていいだろ。クレアたちが来るのを待ってからにしようぜ」


 露骨ろこつに話を逸らし、まるで反省していないレイン。今日は来ないといいんだが。


 クレアたちが戻ってくるまでレインと他愛のない会話をし、ようやく戻ってきたのか、部屋のドアが開いた。


「お待たせー」


「随分と遅かったな」


「そうだね。ちょっと説明に戸惑ってさ。まぁ、二日連続で上等級の魔物を倒したら流石に嘘みたいに聞こえるし、仕方がないんだけどね」


 倒した俺たちでさえ、困惑しているのだから、それを他の人に説明するのは相当苦労するだろう。


「カイト、少し外にいかないか?」


「うん?あぁ、分かった」


 グオンは扉から少し顔を出して俺を誘った。一体何をするのかわからないが、仲間の誘いを断るわけには行かず、素直についていくことにした。


「頼んでおいた服と武器があっただろう?それを取りに行こう」


「そういえば、確かに頼んでおいてたな。完全に忘れてた」


 グオンの提案に乗り、俺たちはさっそく頼んでいた物を取りに向かった。


 街灯で照らされた路地を歩く。そういえば、グオンと二人っきりというのは初めてか。クレアやレインとは普通に話せたが、グオンとなるととっつきにくい印象があるせいか、話しづらい。


「そういえば、鎧はどうだ?使いやすいか?」


「だいぶ使いやすいな。動いてもガチャガチャ音立てないし、普通の服みたいに着れる。まぁ、れるから今は着てないんだけどな。そこが唯一の欠点かもしれん」


「そうか。気に入ってくれたのなら幸いだ」


「あぁ。多分あの鎧しか使わない」


 鎧というのは重く、それでいてうるさいというイメージであったが、グオンのくれた鎧は軽く、音を立てないイメージとは真逆の物であった。それを鎧と呼べるのか分からないほどの代物で、だいぶ俺に合っている。


「店主、服貰いに来た」


「はーい、どうぞ。上下2セットと下着ですね。確か無地でしたよね」


「はい、ありがとうございます」


「いえいえ、冒険頑張ってくださいね」


 店員が渡してくれた服は俺が想像していた通りの出来上がりだった。触り心地もいいし、小さすぎず、ダボダボになるほど大きすぎず。最初の日は絶望したが、ようやくこれで俺も着替えには困らなくなった。


「次は武器か。俺に合った武器を作ってくれるらしいが、本当に大丈夫なのか?」


「あの鍛冶屋の店主の腕は本物だから安心しろ」


 店主が勝手に武器を作ってくれるらしいが、俺的には魔法で戦うよりも剣士となって活躍したいというのがある。それに今の所覚えてる魔法が遠距離向けだし、そろそろ近距離戦にも対応できるようにしておきたい。


「おーい!店主いるかー!」


「……」


「いるみたいだな」


「いや、どうしてそう思う」


 グオンの呼びかけに対して、静かなままの鍛冶屋。流石にこの静けさはいないと思うが、グオンは引き返すことなく鍛冶屋にズカズカ入っていく。


「怒られても知らんぞ」


「そんな器の狭いやつなんかいない。ほら、いた」


 グオンが不意に止まり、しゃがむとそこには横たわっている店主の姿があった。近づき、呼吸を確認するとただ眠っているだけのようだった。


「うん、死んでるみたいだな」


「あぁ、そうみたいだ。で、これはこいつの最後の作品になる」


「俺のために全力を尽くしてくれたというのか。俺、この武器で頑張るよ。お前のためにも!」


 ずっしりとした重さの箱を持ち、店主に一礼して俺たちはその場を後にした。店主の分まで俺が頑張らないとな。


「で、この武器はなんだ?箱の長さ的に剣か杖かの二択なんだが」


「さあな。そこのベンチで開けてみるか?」


「そうしよう」


 街灯の下のベンチで中身のわからない箱を開ける。


「おぉ!剣だ!」


「良かったな」


 箱の中身は剣だった。恐る恐る持ってみると剣にしては少し軽いような気がするが、これもあの店主の工夫ということなのだろうか。鞘に収まっている剣を取り出すと、街灯の灯りを反射させてキラリと光った。


「ちょっと試しに振ってみてもいいか?」


「良いが、気をつけるんだぞ」


 人がいないことを確認して俺は剣を持ち、一連の動作を試してみた。ブンッと空を切る音。カチャッとさやに収まる音。その音と感覚に俺は感動した。


「凄えよ、これ。いやぁ、これは次の冒険が楽しみになってきた」


「それは良かった。冒険は楽しんでこそだからな」


「あぁ。グオン、付き合ってくれてありがとうな」


「気にすることじゃない。……そろそろ帰るか」


 グオンと共に宿の方へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る