第9話 冒険
「それでその
「冒険者協会に保管してある。協会はいつも人の目があって防犯対策も最高レベルだ。だから、装備なんかをそこに保管する冒険者も多い」
なんかその言い方だと鎧はもう誰かに盗られているような気がする。グオンにフラグポイントを1
「冒険者協会の中に入って右奥にあるのが保管庫だ」
「あたしも初めてきたんだけど中ってこうなってるんだね」
冒険者業が長そうなクレアもここに来るのは初めてらしい。この保管庫の中は少し薄暗く、ところどころに
「クレアも初めてなんだな」
「あたしはグオンと違って無駄に武器とか揃えないからね」
「俺だって入らないものだとは思わなかったんだ。よっと、ほら、カイト。これがお前の新しい装備だ」
「おー……。お?とりあえず、その汚れを落とさなきゃいけないな」
グオンが持ってきたのは埃が被りまくった鎧だった。ただ、本当に使われていないのか、表面に傷一つもない。
「あの鎧ってどこで手に入れたんだ?」
冒険者協会を出て近くの河辺に行き、クレアとレインに水や風の魔法で鎧の汚れを落としてもらっている中、俺はグオンにあの鎧の出所を聞いてみた。
「俺がクレアと出会う前にこことは少し離れた街で貰ったんだ」
「クレアと出会う前か。それっていつ頃なんだ?」
「五年も前になるな」
「五年!?クレアってまだ未成年だろ?」
「あぁ、だから俺はちっちゃい奴がそういう遊びでもしてるのかと最初思った。でも、あいつは本気で俺も心打たれて一緒になって助けるようになった」
クレアはそんな前から俺みたいな初心者を助けるために頑張っていたのか。そりゃあ、街でもあんな人望厚い人になるわけだ。
「カイトっ!鎧綺麗にしたよ」
「おー、ありがとな」
「いえいえー。じゃあ、ちょっと着てみてよ」
「おう」
クレアから渡された鎧は倉庫……じゃなかった。保管庫から取り出された時とは見間違えるほど綺麗になっている。表面はツヤツヤで光り輝いているし、中の匂いも気にならない。丁寧に洗ってくれた努力が見えた。
そして、ようやく装備を装着する瞬間が訪れた。鎧を着てみると確かに、しっかりと守られている感じがするが、鎧は軽く足が遅くなるというほどではなかった。それにゴテゴテしい見た目をしているわけではないから普通に生活できるようなものだ。
「こりゃあ、凄え!」
「そうか。なら、良かった。存分に使えよ」
「あぁ、大事にする」
想像していた鎧よりも利便性に秀でた鎧に感動する俺はグオンに握手する。これは一生物だ。
「それでやりたいことは終えたわけだけど、これからどうする?あたし的には冒険か、冒険か、冒険かのどれかが良いな」
「じゃあ、宿で休憩だな」
「ちょっと!」
「冗談だ、冗談。まぁ、この鎧も試したいし、何か任務は受けておきたいよな」
クレアの選択肢とも言えない過激な冒険推しに俺は冗談を言ってからかった。まぁ、冗談抜きで体が筋肉痛でボロボロだから休みたい気持ちもあるが、今はこの鎧を試したい一心だ。どれだけの防御力があるのか、試させてもらおうじゃねえか。
「じゃあ、少し簡単な討伐クエスト受ける?上等級とかは流石にあたしたちでも手に負えないから中等級の魔物で試してみようよ」
「あぁ、そうしよう」
「よーし、決定だね!じゃあ、カイトが討伐クエストの敵選んで良いから一緒に協会に行こう!」
「おう、めちゃくちゃ弱い奴選んでやるぜ!」
グオンとレインを外で待たせて俺たちは急いで協会の依頼掲示板へと向かった。正午にだんだん近づき、人が活動しやすくなる時間帯に近づくほど依頼掲示板のところには人が集まりやすくなる。俺も強制おしくらまんじゅうに
「はぁはぁ、ようやくここまで来れた」
「あれ?まだカイト選んでないの?」
「この波に押し負けるなんてまだまだだね。あ、あたしが取ってきたのはどれも簡単な採取任務だよ」
「俺は討伐任務だけど、何取ったのかよくわからん」
「なになにー、『中等級が初等級の洞窟に常駐している模様。それを倒してきてほしい。難易度:中』。ほーん、良いの選んできたね!」
「まじか?」
俺の取ってきた紙をクレアが目を通すとそんなことを言ってくれる。
「うんうん、洞窟は結構教えることあるし、難易度も中の下くらいだからちょうど良いよ」
「洞窟か。男心くすぐられるものがあるな」
「洞窟には財宝もあるかもだからね」
「それは良いな!」
洞窟で探検というロマン溢れるものに俺は心を踊らした。それに宝箱なんかに財宝が入っていることなんかを想像すれば、早く探検に行きたい。
「じゃあ、早速グオンたち呼んで行こっか」
「あぁ。楽しみだな」
その後、売店でホクホク顔で肉まんを食っていたグオンとレインにクレアがぷんぷん怒り、肉まんを食べて休憩するという時間が発生したが、採取任務はどれも簡単なものばかりでだんだんと慣れてきたおかげもあって思ったよりも早く採取任務を終えることが出来た。
「ふぅ、休憩もなしに立て続けに任務をこなすと疲れるな」
「そうだねー。このあたしでも流石に休憩が欲しいよ」
腰をずっと曲げての採取の作業というのはかなりしんどい。四つ目の任務も終わり、一区切り着いたところで平坦な場所にシートを広げて休憩することにした。
「お水なのです」
「お、サンキュー」
「サンドイッチもあるのです」
「ちょうど小腹が減ってたんだ。ありがとな」
「えへへ、嬉しいのです」
「これ、レインが作ったのです」
「レインが!?凄えな!」
「ふへへ、いっぱい褒めてくれるのです」
「ちょっと、カイト。レインのこと甘やかしすぎないでよ」
「いや、これが普通の反応なんだよ」
このサンドイッチはどうやらレインが作ったらしく、それに驚いて称賛すると二個目のサンドイッチを食べ始めたクレアがそんなことを言ってくる。俺的にはこんなちっちゃい子が献身的になってサポートしてくれるだけでありがたいのに、手作りの料理まで用意してくれるなんて、称賛しないわけにはいかないのだ。
「あたしも、料理とかしてみよっかな……」
「ん?なんか、言ったか?」
「な、なんにも言ってないよ!」
ボソボソ何か言ったクレア。俺のことを見て言っていたから俺に向かって喋っているのかと思ったが、そうではないらしい。
慌てるクレアにグオンがサンドイッチを見ながら話し始める。
「まぁ、この料理が炭になるよりはレインに任せた方が良いだろうな」
「ちょっと、グオン!」
「あー、炭な。俺、一回やったことあってさ。パンを真っ黒くしたことあって。全部食べたけど、その後はずっとトイレに居たわ」
炭で思い出したが、パンを真っ黒に焦がした昔の話をした。古いトースターなんかはタイマーがちゃんと反応しないから、タイミング良く見に行かなきゃいけないが、色々やっていると忘れるもので気がついた頃にはもう哀れもない姿になってしまっていた。
「分かる!あたしとカイトって同類なんだね!」
「同類って。それに料理が下手はマイナスポイントだろ。そんな喜ぶなよ」
「いやいや、あたし的には安心したよ」
料理を炭にした共通の話で喜ぶクレアだが、正直そこまで喜ぶほど料理が下手という共通点はいいものではない。俺もいつかはレインみたいな料理上手になりたい。
「いつか、レインに教わってもらう日が来るかもな」
「いいかも!で、味見役はグオンね!」
「俺の胃がダークマターに耐えられるかどうかだな」
「そこまで酷くないよ!教えてもらって作るだけだし!」
「クレアはすぐアレンジをつけ加えたがるからな」
「出た。典型的な料理下手の要因、アレンジしちゃう」
「もう!何!?良かれと思ってやってることなの!」
クレアはダメみたいだな。料理が下手なうちは自分が料理下手であることを自負しないと上手にはならない。勝手なアレンジを加えるなんて尚更だ。
「あーもう!そんな目で見ないでよ!はい、休憩終わり!洞窟に行くよ!」
「まだクレアのポンコツトークが聞きたいんだが」
「カイトも洞窟楽しみにしてたでしょ?早く片付けて行こうねー」
「分かったよ」
どんどん自分の弱さを
「よし!みんな準備はいい?洞窟に向かって出発だよ!」
「「おー!」」
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