僕の奥さんは怖い

郵便受け

　僕と奥さんが住んでいるアパートの郵便受けはダイヤル式の鍵が付いている。不動産屋に鍵を受け取りに行った際に郵便受けの暗証番号を教えて貰った。0〜9とA〜Dの英数字の組み合わせと右回し、左回しという指定がある。僕はダイヤル式の鍵が付いている郵便受けを初めて見たが、奥さんは実家も同じだと言って僕に使い方を教えてくれた。

　一人暮らしの時はいらない広告を郵便受けから出さずに何日かに一度重要書類が無いか確認するくらいしかしておらず、奥さんが家に来るたびに中身を出した方がいいと思う、と言われていた。毎回まだ一杯になってないから大丈夫と返事をして怪訝な顔をされた。そういう事をしていた事をよく知っているからか、ダイヤル式の開け方と閉め方を教えて貰った時に、必ず毎日確認する事と不要な広告をそのままにておかない事を強く言われた。一緒に住むのだから、そこは奥さんに従う事にした。

　それから約束した通り帰宅したら必ず郵便受けを開けて確認し、たとえ要らない広告1枚だけだとしても家に持ち帰るようになった。生活能力のある大人に一歩近づいたと思う。

　そんなある日、奥さんと出かけた帰りに僕が郵便受けを確認していると後ろから奥さんが、

「最近、郵便受けを開ける時に自分の前に開けたのはどっちかが分かるようになったんだよね」

　と、探偵のような事を言い出した。僕は郵便受けを閉めながら、僕と奥さんで何が違うのかと聞くと、

「閉める時にダイヤルを回すでしょ？その方向が逆なの。だから開ける時にダイヤル見ると暗証番号の最初の番号が、私だと10時の方向にあって、君だと4時の方向にあるの」

　という返答が返ってきた。閉めたばかりの郵便受けを見れば確かに最初の番号が4時の方向にある。本当によく見ているなと思った。そのうち僕の行動の全てが奥さんに筒抜けになりそうだ……。だから、つい口から出てしまった。

「怖……」