ヘアオイル
僕の手には今、ヘアオイルがある。所謂、洗い流さないトリートメントというやつ。これは去年妹がくれた誕生日プレゼントだ。元々使う習慣がなかったから、貰ってから使うまでにかなり時間がかかり、つけるとベタベタするのが嫌でほとんど使ってこなかった。奥さんと結婚して一緒に住むようになったときに、せっかく貰ったのに使わないなんてもったいない、と言われ、それからというもの、お風呂上りにドライヤーを使う前に奥さんから、ヘアオイルつけてね、と言われるようになった。僕が忘れてドライヤーを始めてしまうとドライヤーの音に負けないくらいの大声で、ヘアオイル!と叫ばれることもしばしば……。ちなみに今日は叫ばれた。
それからしばらく経って、時々自分でヘアオイルをつけることが出来るようになってきた。仕事や飲み会で遅くなって奥さんが先に寝てしまったときはお風呂上りに奥さんの部屋を見ると、ヘアオイルをつけなきゃという考えが頭に浮かぶようになり、自分の成長にとても感心した。奥さんも僕が自発的につける姿を見て先にヘアオイルつけてね、と言わなくなった。
そんなある日、お風呂を上がって奥さんの見れば、いつものように座椅子を倒して寝転がっていた。テレビはついているが、今はスマホでマンガを見ている。マンガを見ているときは大体部屋の入り口側に背を向けているため顔は見えない。寝ているのかと思い、ぐうたらさん?と声をかけるとはーい、と返事が聞こえた。洗面台の下からドライヤーを出しコンセントに差したところでヘアオイルをつけていないことに気が付いた。ドライヤーを床に置き、棚からヘアオイルを取って髪につけている。
「ヘアオイル、忘れなかったね~」
奥さんの声が聞こえた。振り向くと先ほどと同じ格好で寝転がっている。
「なんでわかったの?」
「ヘアオイルを棚からとる音聞こえたよ」
相変わらず耳がいい。しかも、その音が何の音かがわかるとは。僕は聞こえる自信も音を判別する自信もない。だから、つい口から出てしまった。
「怖……」
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