お代は結構

響はある日、町外れの喫茶店に向かった。最近オープンしたらしい。


響は入り、メニューを見る。メニューはコーヒー500円と最近の喫茶店としては普通の値段。だが、響は喫茶店に入ったことがないから相場がわからない。相場がわからないから『高いな〜』とぼやいた。


ぺらぺらとめくると最後のページに一文あった


「すこしお体貸すのでしたらお代は結構です。」


響は手を上げて店員を呼んだ。


「あの、これのお代は結構ですってなんですか?」

「ええ。お代は結構というのはそのままです。お客様がすこしの間だけ記憶が飛ぶような体験をしていただければお代はいただきません。もちろん、薬を盛るようなやり方はしません。」


響はお金がない。そもそも、すこし冷やかしできた節があった。このお代がいらない文言は響には輝いて見えた。


「そのコースお願いします。」

「はい。では、ご注文を」

「えっと。お腹減ったから、カレーセットで、コーヒー。あと、食後にチョコケーキ!」

「かしこまりました。」


奥から香辛料を炒めるいい匂いがした。家庭用のカレーの匂いではない。香辛料を独自でブレンドした匂いがした。奥からカレーとコーヒーが来た。


「お待たせいたしました。カレーとコーヒーです。」


響はカレーを一口ほおばった。家はで味わえないカレーだった。香辛料を使えば手間と時間がかかるような料理だったから、家では味わえない。それをコーヒーで流し込む。一瞬にして至福のひとときが始まった。


カレーをもう一度ほおばる。


次の瞬間、カレーがなかった。コーヒーも飲みきっていて、食後のチョコケーキも平らげていた。響には満腹感があった。


響は店員を呼んだ。


「おい!これはどういうことだ!なんでカレーがなくなっているんだ!ケーキも食べていない!」


店員はいう。


「いえ、あなたはカレーもケーキも食べましたし、コーヒーも飲みました。だから言ったではありませんか。お体をお貸ししますと。あなたの体を幽霊に貸したのです。お代はいりません。すでに幽霊が払っているのですから。」

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カフェの不思議話 @a-eiji

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