孤独な人

健人は街に一人だった。街にだれもいない。生まれてこのかたずっと一人だった。


物心ついたときには、周りに誰もいなかった。孤児院のようなところで暮らしていた。テレビをつけたら番組はやっている。しかし、俳優もテレビタレントも実際にみたことがなかった。


朝起きればご飯があって、昼になればご飯がテーブルにあり、夜になれば勝手にご飯が置かれている。どれもが一般家庭で食べるであろう目玉焼きやラーメン、唐揚げなどの料理だった。


健人はそれが当たり前だった。しかし、テレビで自分の姿と似ている生物が本当に存在するのかがわからない。


健人は13になり外に出た。外は温かい気候だった。テレビからは4月3日と言っていた。孤児院には桜の木があった。満開だった。


そこからちょくちょく外に出た。マックに入っても誰もいないがメニューを指差してほしいと思って目を瞑ると眼の前に頼んだものがあった。食べてみたら美味しかった。それからは他の店にも行き、ただで食べ、飲み、家に帰ってなぜか置かれた勉強ドリルをする日々だった。


そのような生活をしてはや3年になった。ある日、町外れの喫茶店に行こうと思った。ある日突然喫茶店が出ていたのだ。


喫茶店に入ると、奥の二人席の席に座る。メニューをみると、おすすめはブラッドオレンジだった。健人はメニューを指差し、目を瞑る。


数秒目を瞑ると机に紙があった。紙にはこう書かれていた。


「頼み方がなっていない。声を出して頼んでくれ。」


健人は紙を手にとって読んだ。健人はいう。


「ブラッドオレンジをくれ!あんたはだれだ!」


健人は目を瞑る。数秒後、目を開けるとまた紙があった。


「言い方がなっていない。くださいだ。あと、人には丁寧な言葉を使いなさい」


健人は紙を凝視した。健人は何度も紙をなぞって読んだ。そして、健人は


「どんな言い方をすれいい!」といい、目を瞑る。目を開けると眼の前に紙がある。


「『ブラッドオレンジをください。あなたはだれですか?』だ。」


「ブラッドオレンジをください。あなたはだれですか?」


健人は目を瞑る。目を開けるとブラッドオレンジが出てきていた。紙にはこう書かれていた。


「よくできました。僕はこの喫茶店のマスターだ。マスターと気軽に言ってくれ。」


ブラッドオレンジを一口飲み、健人はいう。


「あなたはどんなひとなんですか?僕と同じ形をしているの?」


目をつむり、紙が出る。


「どんな人はか君の主観だ。形は君と同じだ。テレビでみているような人だよ。」


健人はいう。


「ぼくからはわかりません。他に人と会ったことがありません。」


目を瞑り、紙が出る。


「では、僕は人間第一号だ。紳士に振る舞うとするよ。ブラッドオレンジは美味しかったかい?もしそうならまた来るといい。今度は大人の味、コーヒーを教えるよ。」


健人はいう。


「とても美味しかったです!また来ます!」


健人はそういうと喫茶店から出た。健人はこれまでにない晴れやかな顔だった。


その後ろから黒いスーツの人が健人を見ていた。スーツの人は近くにいたマスターにいう。


「だめですよ、会話したら。彼は見た人を石にしてしまう危険な人物なんです。」

「ほう。君は危険だからといって、彼を一人ぼっちにする権利があるというのか?この喫茶店は僕の所有物であり、国だ。憲法の通る場所であり、人であれば誰でもきていい。一人くらい、得体のしれない人がいてもいいじゃないか。」

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