別れたならあたしでもいいってことじゃん?
「別れたならあたしでもいいってことじゃん? そう思わないすか、先輩」
あまりにも暇すぎて映画文化研究部の活動に顔を出せば、珍しい顔がそこにはあった。
校則ガン無視のシルバーの毛髪に、だらしなく第三ボタンまで開けられたワイシャツ。
首元には黒いワイヤレスヘッドホンをかけた眠そうな目をした少女。
太陽の光を目一杯受けて育っていそうな名前の割に、思いっきりダウナー系の不思議ギャル一年生だ。
「え? どういうこと? 俺の彼女になりたいって意味?」
「そんなわけないじゃん」
そんなわけないよな。
「小雨様っすよ。蕗先輩の友達の。弓削先輩と別れたんでしょ?」
「よく知ってるな」
「当たり前じゃないっすか。あたし、ガチ恋勢なんで」
にへらにへらと、どこまで本気なのかわからない表情で笈瀬は笑う。
そう、何を隠そうこの映画文化研究部の唯一の一年生部員である彼女は、俺の友人である藤田小雨の大ファンだった。
「ちなみに、本当に別れたんすよね?」
「まあ、それは本当だよ」
「ざまあ。弓削先輩って、なんか腹黒そうだったから、小雨様には相応しくないと思ってたんすよね」
「それ、お前が言う?」
「いやいや、あたしは別に腹黒くないんで。性格悪いの、隠してないし。ガングロっす」
それガングロの使い方合ってる?
「蕗先輩。手伝ってくださいよ」
「何をだ」
「あたしが小雨様にお近づきになること」
「別にいいけど」
「え!? まじすか? やるじゃん。話せばわかるぅ」
常時テンションの低い笈瀬が珍しくキャピキャピと声を張り上げている。
今更当たり前だけど、藤田ってモテるんだな。
こんな癖強そうな他学年の女子にも好意を持たれてるなんて。
「だけど、手伝うって、何したらいいんだ?」
「それは蕗先輩が考えてください」
「マジかよこいつ」
こいつ俺のこと舐めすぎだろ。
「そもそも、なんで藤田のことお前好きなの? なんか絡みあるんだっけ」
「いや、別にないっすけど」
「じゃあなんで?」
「え、イケメンを好きになるのに理由とかいる?」
たしかに。
百里ある。
「あんな顔整い中々いないっすよ。まじで尊い。貢ぎたい」
「お前と話していると本当に泣きたくなってくるよ」
「どんまい」
黙れ。
「でも藤田はモテるからな。そう簡単に付き合えると思うなよ」
「わかってるし。なんで蕗先輩がドヤってるんすか」
「こう見えて、俺はあいつの友達だからな。つまり、好感度で言えば俺はお前に勝ってるんだ」
「なんか張り合ってきたんですけどウケる。さすが小雨様。こんな童くさい男子高校生まで虜にしてる。はあ。ほんと好き。最高かよ」
完全にアイドルに恋する少女の顔をしている笈瀬は、もはや俺の方を見てもいない。
笈瀬が藤田と仲良くなることを手伝うって言ったけど、めちゃめちゃやる気なくなってきたな。
「二番目の女でもいいから、なんとかならないかなぁ」
「まあ、一番目は俺だからな」
「だる。小雨様、友達選びのセンスだけマジない。でもそういう欠点があるのも、それはそれで推せるからいいけど」
そんな軽口を叩きながら、ふと考えてしまう。
今のあいつの、一番って、実際誰なんだろう。
なんてことを思ってる俺も、十分に藤田小雨の大ファンだよな。
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