ただのクラスメイトとして見るのをやめてもいいか?
「なあ、高橋。お前をただのクラスメイトとして見るのをやめてもいいか?」
夏季休暇がそろそろ迫ってきて、これまで以上に学業に身が入らなくなってきた頃。
美術室の掃除当番の役目を全うしていた俺に、要領の得ない問いかけがかかる。
声がした方を見てみれば、見慣れたガンギマリの瞳が二つ分。
俺と同じで今週の美術室掃除当番
頭が良すぎてある意味俺以上にクラスで浮いている少年が、気づけば真顔で横に立っていた。
「……話が見えないんだが、つまり告白ってことか?」
「ああ、ある意味な」
どんな意味だ。
冗談に真顔で返されて、そこで俺のボキャブラリは枯渇した。
「自分はずっと、お前を賢い奴だと思っていた。でも、それだけだ。多少賢い奴なんて、いくらでもいる。だからといって自分に影響を及ぼすような奴は滅多にいない。山下彩月というアイデンティティを揺るがすような存在なんて、少なくとも在学中に出会うことなんてないと思っていた」
「あれ? なんか俺、軽くディスられてる?」
多少賢いけど、それだけの奴。
どう考えても褒め言葉ではない。
「でも、違った。高橋、お前は違う。お前は、特別だ」
お、やった。
なんか俺、特別らしい。
山下に褒められると、普通に嬉しい。
「ついに気づいてしまったか。俺のスペシャリティに」
「ああ、自分としたことが、解に手間取ったよ。この前、弓削三智花を潰しただろ? あれは見事だった」
「潰したって人聞き悪いな。俺はただ女装しただけだぞ」
「創造性ある突飛な行動に、確固たる独自理論。多少賢ければ、その片方を武器にできる奴はいるが、両方を組み合わせ結果に繋げられる奴は少ない。お前は特別だよ、高橋」
「えーと、なんか、ありがとうございます」
山下の独特な琴線に触れたのか、あの例の一連の問題行動がお気に召したらしい。
理解されないことを前提にしていたせいで、こういう評価のされ方をするとなんだか気まずい。
でもよくわからないが、好印象ってことだよな?
まじでなぜ好印象なのか全く理解できないが、感心されてるってことですよね?
「だからただのクラスメイトとしてお前を見るのを、やめようと思うんだ」
「お、おう」
ある意味告白って、そういうこと?
あの友達いらない宣言をしていた山下が、俺を名誉ある友達第一号として認定するとかそういう話か?
わお。
それ、結構テンション上がるぞ。
「それってつまり友達——」
「今日から自分はお前のことを、ライバルとして見ることにするよ」
「——は?」
ライバル?
敵と書いて友と読む感じですか?
「高橋、お前は危険だ。丁寧に時間をかけて作り上げた山下彩月という存在に影響を与えかねない。だが、これに関してはお前に非はない。だから最初に、宣言と謝罪をしておくよ。悪いな、高橋。でもお前は今日から、自分にとってはライバルだ。もう、お前の好きなようにはさせないよ」
そう言い切ると、銀縁眼鏡の奥の瞳を光らせ、山下はクールに立ち去っていく。
箒を片手に、ライバル(?)を見送った俺は、埃が舞う美術室を見渡しながら、思う。
あのー、まだ美術室の掃除、終わってないんだけど。
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