なんか久しぶりな感じしない?


「よ、よっ! なんか久しぶりな感じしない?」


 待ちに待った放課後。

 やっと家に帰れると思ったら、藤田が校門の外で俺に手を振っている。

 すらっとした華奢な体に、中性的な顔。

 いつも思うが、教室の外の藤田は雰囲気が少し変わるよな。


「そう、だな。こういう感じは確かに、久しぶり感ある」


「でしょ? どう、寂しかった?」


「さすがに寂しいとかはない。ついさっきまで一緒だっただろ」


「あはっ。それも、そうだね。ごめん、今のぼくなんかテンション変かも」


 今の藤田はやけにテンションが高い。

 と言っても、昼間は別に普通というか、なんならこれまでと比べて大人し気味だった気がしなくもない。

 放課後になってからのこのはしゃぎぶり。

 こいつもついに帰宅部としての才能に目覚めたんだろうか。


「それで、一応訊くけどさ」


「おう」


「蕗、本当に振られたの?」


「人生山あれば谷あり。捨てる神あれば拾う神あり。花は枯れるたびにもう一度咲き誇る権利を得るのだ」


「うっわ、まじなんだね。ドンマイ!」


 なんか急に恥ずかしくなってきた。


「ちなみに理由は?」


「言っただろ。彼氏が学校でいきなり女装するなんてヤバすぎる」


「あー、ね」


 隣同士。

 俺より遥かに長い足をしてるくせに、歩く速度は一緒。

 合わせてくれてるのか、意外にのんびり家さんなのか判断はつかない。


「じゃあさ、蕗はさ」


「おう」


「もし自分の彼女が男装してたら、別れる?」


「あー、逆に?」


「そそ。逆に」


 それは不思議な質問だった。

 女装癖を恥ずべきものという前提で、俺は藤田と弓削の仲を切り裂いた。

 

 そのくせに。


 俺自身は別に、女装とか男装とか、そんなもの何も気にしていないことに気づく。

 自分で決めた前提を、そもそも俺が受け止めていない。

 言われてみれば、それは確かに不思議な気がしなくもなかった。


「いや、別れないな」


「そう、なんだ。自分はそれが理由で別れても当然って言ってるくせにね」


 藤田が、ビー玉みたいに透き通った瞳を、俺にまっすぐと向ける。

 夏風が頬を撫でて、俺の友達の柔らかい猫っ毛を踊らせる。

 


「ふふっ、変なの」



 くしゃっと、そこで藤田は嬉しそうに笑う。

 俺の胸の奥に、うまく言い表せない感情が芽吹く。

 

 違う。

 そんなわけない。


 俺が弓削と藤田が別れるように仕向けたのは、藤田と柊さんのためだ。


 だから違う。

 違うはずだ。


 俺は、俺のために、あんなことをしたわけじゃない。

 そんなふうに、必死で自分自身に言い聞かせる自分が、やけに情けなく思える。



 あまりに居心地の良い藤田の隣に戻った俺は、どうしてか前より上手に笑えなくなっていた。

 

 


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