感想は?
「彼女ができた感想は?」
放課後の図書室。
本棚の間で俺は、無機質な声に呼び止められる。
もうその声で誰だかはわかっていたので、俺はうんざりした気分で振り返った。
「最高だよ。毎日超エンジョイ。人生に感謝」
「……本当に高橋ってキモい。どうしてそんなに一々私の癇に障るようなことを言えるのか不思議」
弓削三智花。
小柄な外面だけはいい性悪女がまたなんか絡んできたらしい。
「つか何の用だよ。お望み通り藤田と俺はもう一緒に帰るようなことはしてないぞ」
「知ってるけど? てかそんなの当たり前だから。そもそもゴミ橋に小雨くんと一緒に家に帰る資格ないし」
じゃあ本当に何なんだよ。
こいつもこいつで俺にやたら絡んでくるよな。
藤田イズムって奴か?
「ならもう俺に用事ないだろ」
「モブ橋に私が声かける用事なんてあるわけないから。ただ梅ちゃんもこんなクズが彼氏で可哀想だなーと思って。私だったら恥ずかしくて学校来れないもん」
どの口が言ってるんだこいつ。
どう考えても柊さんと俺を無理やりくっ付けた張本人なのに、まるで他人事のように俺をディスってくる。
高校生にして認知が歪みまくっているのかも知れない。
「まあ捨てる神あれば拾う神ありっていうもんな」
「は? きっしょ。そもそもカス橋と付き合って何が楽しいんだろうね? こんな神経を逆撫でしてくるだけの汚物。私なら一秒も耐えらない」
言いたい放題だなこいつ。
一秒も耐えられない割に何分もペラペラと語っている気がしますけれども。
「視野が狭いな、弓削は。もっと広く世界を見ようぜ。蛇が苦手な奴もいれば、蛇をペットにする奴だっているのさ」
「うっざ! 高橋のそういうところが本当に無理。いつでも余裕ぶって。自分は全部見透かしてますみたいな面して。馬鹿にされてんのがわかんだよクソ橋がよ」
「図書室だぞ。お静かに」
「キモ!」
馬鹿にしてるつもりはないけどな。
呆れてるだけで。
どうしてこいつは俺に対してだけこんな年中イライラしてるのだろう。
高橋アレルギーかもしれんな。
「こんなキショ橋と付き合ってる梅ちゃんのこともなんか嫌いになってきたかも。梅ちゃんも、いつもなんか人の目ばっか気にしてダルいし。何の取り柄もないモブ——」
「おい。やめろよ」
——カチッ、と頭の中で一つ音がした。
俺は一歩踏み込んで、弓削との距離を詰める。
「は? なに急に? それ以上近寄んな——」
「柊さんのことを、お前の下品な口で話題に出すな」
俺のことはいい。
どうでもいい。
いくら悪口を言われたって、嘲られても構わない。
弓削に何を言われても響かないから、何でもいい。
でも、俺以外の人は、違う。
他の彼らは、彼女は、俺とは違う。
俺ほど頑丈じゃないことを、知っている。
「な、なに? 一丁前に彼氏気取り?」
「関係ない。ただお前の言動が許せないだけ」
「はあ? 何様? ウザ橋の分際で」
「何様はお前だろ」
別に柊さんの彼氏に本気でなったつもりはない。
来週にはもう別れることになるだろう。
大切だから、守ろうとしているわけじゃない。
「俺、お前、嫌いだわ」
「……っ!」
本当は別に、弓削のことは嫌いでも好きでも、何でもない。
その辺を歩いている通行人か、ネットニュースの向こう側の人くらいどうでもいい存在だ。
でも、あえて嫌いという言葉を使ったのは、なんとなく弓削がその言葉を嫌がる気がしたから。
そこで俺は踵を返して、図書室を後にする。
少し弓削を刺激しすぎたから、エスカレートして後で変なちょっかいをかけられる可能性があるが、それはもう気にしなくていい。
あいつが何かしてくる前に、先に俺がケリをつけるから。
弓削より俺の方がよっぽど性格が悪いことを知った時に、感想は?って、早く聞きたいなと思った。
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