友達なんて、いてもいなくても一緒だろ?
「なあ、高橋。友達なんて、いてもいなくても一緒だろ? お前って、そう思ってるよな?」
ホームルームの時間。
もう六月も終わっていく季節。
今日は、藤田がいない。
案の定風邪をひいて休んでいるらしい。
今は九月末にある文化祭に向けて、生徒たちで出し物についての第一回の相談会をしている最中。
みんなが教室の前の方に集まって、模造紙を広げながらああだこうだと活発な話し合いをしている中で、俺はみんなから少し離れた席に座ったままだった。
そんないつも以上に孤独な俺に話しかけてくるのは、痩身で銀縁のメガネをかけたインテリ少年。
俺のクラスメイトの一人だ。
「なんだよ薮からボーボーに」
「それ、薮だから草がぼうぼうに生えるのと棒をかけてるのか? 面白いな」
「説明するのやめて。恥ずかしいから。あと面白いと思ってるなら笑えよ」
「笑ってるだろ」
「いやどこが!?」
山下は目がガンギマリ気味の真顔だ。
だがそれはいつものことなので、今更特になんとも思わない。
藤田ほどの頻度ではないが、こいつもたまに俺に絡んでくるが、べつに友達というわけではない。
なんか妙に味のあるやつなので、俺としては友達カウントをしたいところだが、残念ながら片思い。
山下サイドに丁重にお断りされている。
「……べつに俺は友達いなくても一緒とか思ってねぇよ。つくりたくても、できないんだ。言わせるなよ」
「そうなのか? いらないだろ、友達なんて。高橋は自分と似てるからな。わかるよ」
「いやいや、なにもわかってない。お前と同じにしないで」
「自分は友達なんて、いらない。無意味だから」
そう、この山下という少年は、自ら友達いらない宣言をするタイプの痛々しいやつだった。
そのくせ、ちょいちょい俺に絡んでくるのは若干可愛らしいところだ。
顔はいつもガンギマリだから怖いけど。
「いつも藤田と絡んでるのだって、学校生活を楽にするためだろ? 生存戦略ってやつだ。賢いよ、お前は。藤田を味方につけるのは正しい。自分は勉学という武器を選んだが、藤田も悪くない選択だ」
「人聞きの悪いこと言うなよ。べつにそんなメリットデメリットみたいな関係性じゃないよ俺と藤田は。普通に友達なだけ」
「そんなことありえるのか? お前と藤田だぞ? つるみようがないだろ?」
「物事ストレートに言い過ぎ。釣り合ってないのはわかってる」
「どんな汚い手を使ったんだ?」
「だからストレートすぎるって。なんだよ汚い手って。友達つくるのに技なんてねぇよ。感覚と運だよ」
「自分はストレートに人に物を聞ける。なぜなら友達がいないから。余計な忖度が必要ないんだ」
山下は俺とは違って、自分の意志で他人との間に壁をつくっているが、それが許されている。
なぜならば、彼は成績が学年トップクラスに良いから。
微妙に進学校に属する俺の高校では、成績上位者はある種の尊敬を持って接せられる傾向にあった。
だからこんなふうに、俺友達いらないんで、みたいに場合によっては痛々しい尖り方をしても、山下は天才っぽいからセーフみたいな雰囲気で許されているのだ。
「今日は藤田がいない。どんな気分だ?」
「どうって。なんだよ」
「寂しい? 解放感がある?」
「まあ、ふつうに寂しいよ」
「ほら、それが自分は嫌なんだ」
「どういう意味だよ」
「最初から友達がいなければ、友達がいなくなった時に、寂しさなんて感じないだろ?」
いつもと同じ真顔。
でも、その台詞を言う時の山下は、ほんの少しだけ感情を瞳に滲ませていた気がした。
「だから自分は友達なんて、つくらない。自分は今、寂しくないからな」
そう言い残して、山下は俺から気まぐれに離れていく。
今日は藤田がいない。
藤田が俺の隣にいることは、当たり前じゃない。
藤田がいることに慣れてきてしまった俺は、たしかにぼんやりとした曖昧な不安感を時々覚えることが多くなってきていた。
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