お前ってバファリンと成分同じだっけか?



「お前ってバファリンと成分同じだっけか?」


 学校の昼休み。

 すでに昼食を食べ終えた俺がスマホで今日の更新分の漫画を読んでいると、どこかぼうっとした様子の藤田が喋りかけてくる。

 なんとなくいつもの覇気がない感じがして、俺はスマホの画面から顔を上げた。


「とりあえず半分は俺であってるな」


「だよな。助かった」


「すまん、適当に喋った。話が全く読めてない」


 バファリンの半分は優しさでできている。

 そしてもう半分は人類の誰も知らない、触れてはいけない国家機密となっている。


「なんか、若干熱っぽくてさ。だからちょっと蕗で回復しようと思って」


「風邪か? 残念ながら、風邪に効く成分は残りの半分に含まれてるから、俺の近くにきても意味ないぞ」


「そこをなんとか」


「そこをなんとかってなんだ。なんともならないよ」


「けち」


「理不尽すぎるだろ」


 どうやら藤田は風邪気味らしい。

 たしかに言われてみれば、若干顔が普段より赤らんでいるような気もする。

 暑かったり、寒かったり、最近の梅雨の時期は気温が安定しない。

 体調を崩しやすい季節といえば、そうだろう。


「てか、真面目に具合悪いなら保健室とかいけば?」


「蕗、冷たくね?」


「いやいや、冷たくないだろ。普通に心配してるんだって」


「そう? なら、いいけどさ」


 調子が悪いせいか、いつもに比べて、藤田は若干子供っぽいというか、変に突っかかってくる。

 飄々として、精神的に大人っぽいイメージだったから、意外に思う。


「でも、なんか新鮮だな」


「ん? なにが?」


「藤田でも、元気ないってか、余裕ない時あるんだな」


「なんだそれ。そりゃあるっつうの。そういうこと言うと……」


「そういうこと言うと、なんだよ?」


 すると、藤田は急にニヤニヤといつもの掴みどころのない微笑みを見せる。

 とてつもなく、嫌な予感がした。


「こうしてやる!」


「お、おい!? やめろって!」


 何を考えたのか、突如藤田は俺に抱きついてくる。

 完全に油断していた俺は、見事に背中側から捕まえられてしまう。

 体調不良のくせに、無駄に細マッチョな肉体に捉えられ、俺は中々抜け出せない。


「ば、ばか、離せって!?」


「やだー。離さなーい」


 へらへらと笑う藤田は彼にしては珍しく子供っぽいことを言う。

 なんだこいつ。

 風邪引くと幼稚になるタイプか?


「風邪気味なのにわけわからんことすんなって! 悪化するだろ!?」


「我が生涯に一片の悔いなし!」


「いや絶対あるだろ!」


 そこでやっと俺は藤田の拘束から抜け出す。

 ハァハァと肩で息をする藤田は、案の定さっきより具合が悪そうな顔をしていた。


「……はぁ、はぁ、ちょっと、はしゃぎすぎたわ」


「……ふぅ。ったく。あほか。ほんと何やってんだよお前は」


 俺も息を整えて、深呼吸を繰り返す。

 なんでせっかくの休息時間にこんな疲れなくてはいけないのか。


「やっぱ、保健室、行こうかな」


「おう、行ってこい」


 そして、そこでやっと自らの不調を認めたのか、藤田は保健室に向かうことにしたらしい。

 まじで本当に何しに俺のとこ来たんだよこいつ。



「保健室まで送ってやるから」


「……さんきゅな」



 いまだに肩で息をする藤田の背中を軽くさすりながら、俺は廊下の方へと一緒に歩いていく。

 いつも俺のことを助けてくれるこの友人は、時々こうやって俺に弱みを見せてくる。

 まったくもってずるい男だ。


 


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