自分より背が高い女子ってどうだ?
「なあ、蕗。お前、自分より背が高い女子ってどうだ?」
午前中の授業を終え、やっと辿り着いた昼食の時間。
冷凍食品を適当に詰め込んだ弁当箱をあけ、冷め切ったシュウマイを頬張る俺に、またいつものように藤田が絡んでくる。
だが昼の時間に関していえば、べつに藤田は毎日必ず俺に絡んでくるというわけじゃない。
こいつの俺に絡んでくるタイミングの基準は、正直まだ謎が多いところがあった。
「なんだよまた唐突だな。お前の彼女って、たしかべつにそんな高身長じゃないだろ」
「いやいや、僕の話じゃなくてさ。
「俺個人の趣味ってことか?」
「そういうこと」
俺の身長は169cmという絶妙になんとも言えない数値。
というかほとんど170cmだよね。
これもう170cmって言っていいよね。
だめかな。
厳密にいうと違うけど、ほぼそうだからいいよな。
だけど厳密に言うと違うからだめかな。
やっぱだめか。
「んー、べつに特にこだわりないけどなぁ。高身長だから嫌ってこともないし、高身長がいいってこともない」
「ほー、なるほどな」
「なんでニヤついてんの? 藤田が喜ぶ要素どこにあるんだよ」
「じゃあ179cmは? あり?」
「いきなりピンポイントだな。ありというか気にはしない。というかそれ、お前の身長だろ」
「僕は181cmだ。惜しいな」
「ほぼ一緒だろ。刻むな」
「全然違うね。蕗の身長が170cmじゃなくて、169cmだって事と一緒だよ」
「身長1cmよこせ。それでバランスがとれる」
「んー、どうしよっかなぁ? 欲しい? 蕗がどうしてもって言うなら、譲ってあげよっかなぁ?」
「うざすぎだろ。なんだこいつ」
なんでこいつ俺の身長しっかり把握してんだよ。
鬱陶しすぎる。
「まあでも、安心した。蕗は179cmの女子はオッケーと」
「だからなんでそれで藤田が安心するんだよ」
「いや、実はさ、僕の妹がさ、片思いしてる相手より自分の方が背が高いから、自分の足の骨切るって言いだしてさ」
「なんとも極端な妹さんだな。思い切りが良すぎる」
というか自分の足の骨を切る手術って、どっちかっていうと、身長を伸ばしたい時にするものではなかったか。
むしろ身長を低くするどころか、さらに高くなってしまう気がする。
「だろ? なんつーか、行動力が変な方向に振り切ってる奴なんだよ。若干思い込みが強いっていうか、自分がこう! って決めたら、普通のやつなら躊躇うようなことも平気でやるっていうか」
「ある意味大物なのかもな」
「まあな。顔も可愛いし」
「誰も顔の話はしてない。このシスコンめ」
「ちょっと変わってるけど、世界一可愛い妹さ」
藤田って妹いたんだな。
一方的に絡まれることが多いわりに、べつに俺と藤田の付き合いはそこまで長くない。
だいたい一年生の時の冬頃から、今みたいな関係性になったはずなので、まだ仲良くなってから一年も経っていない。
だから俺はべつに藤田の家族とか、個人的な情報にそこまで詳しくなかった。
それにしても、藤田の妹か。
見た事ないけど、こいつと血が繋がってるくらいだから、相当な美人なんだろうな。
少し顔を見てみたい気もするが、いきなり妹の顔見せろよっていうのも、ちょっとキモいからやめておこう。
「蕗は妹とかいないの?」
「俺は姉が一人いるだけだ」
「へー、そうなんだ。可愛い?」
「……まあ、俺の姉にしては頑張ってるよ」
「蕗のお姉さんだし、面白い人なんだろうな」
「それこそ、ある意味面白いかもな」
「どういう意味で?」
「悪い意味で」
「まじかよ。ウケんな」
藤田は爽やかに笑うと、じゃあ彼女のところ行ってくるわ、と言い残して俺の机から去っていった。
あいつ、彼女との約束があったのに、わざわざ俺に絡みにきてたのかよ。
勘弁してくれ。
また後でネチネチやられそうで嫌だな。
あれ、でも、待てよ。
そういえば、結局、なんで俺が自分より背が高い女の子がアリだとあいつが安心することに繋がるんだ?
藤田の妹が片思いしてる相手より背が高いことを悩んでいるって話は、べつに答えになってないよな?
だって俺は藤田の妹に会ったことも話したこともないし、なんの参考にもならないだろ。
「……まあ、いいか。飯、食べよ」
だが、わりと気まぐれな藤田の言葉をいちいち気にしてもきりがない。
俺はシュウマイを食べ終えると、今度は明太子入りオムレツに箸を伸ばすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます