第43話 口寄せの術?

〇これまでのあらすじ


 委員長がシノビのシノギのためにコスプレ写真集を取られて売られようとしているところにカッコイイ勇者(※注 最近の委員長目線)の景山様が現れたが自らの意思で卑猥なポーズをとっていると勘違いされたと思ったため何かが暴走したのだった。


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 整理してみよう。


 俺はさきほど、弥一郎と別れ、指定された廃工場へと一人で乗り込んだ。

 もちろん、不安要素はなかった。

 失礼な話だが、弥一郎の能力を基準として考えれば、数十人の忍者が一度に襲い掛かってきたとしても、各強化スキルを発動させれば対処可能だろう。


 ちなみに、異世界では、それぞれのジョブの特徴に応じた強化スキルを発動できたが、全ステータスアップを実現できるのは、勇者ジョブだけである。


 閑話休題。


 とにかく、失敗する要素はないはずだった。

 俺は、廃工場に入ると、とびかかってくる私服忍者たちを吹っ飛ばし続けた。

 さっさと委員長を助けて、ベッドで寝よう。それがいい――。


 それが、どうしてこうなった?

 

 夜の廃工場内。

 目の前には、先ほど倒したはずのシノギを重要視しているシノビ――つまり、夜凪組の忍者たちが、立ちふさがっていた。


 中心には、助けにきたはずの委員長がペタンと座っている。さきほどまで四つん這いで尻を向けられながら話していたので、それはそれで意味の分からない状況ではあったが、いまのほうが異常事態だ。


 私服の忍者たちは、小さいモノ、大きいモノ、細いモノ、太いモノと多種多様だったが、すべて一様に目がうつろだった。

 ゾンビといえば、いいだろうか。

 ふらふらと、しかし、しっかりと。意識がないようで、でも、何かに向かって進んでいくような、不気味さがある。


 委員長は何も話さない。

 だが、その代わりと言わんばかりに、ゾンビ忍者たちがよだれをたらしながら、口を開いた。


「ミナイデエエ」とゴリラみたいな男が、女々しいセリフを言う。

「ヤメテエエ」と猿みたいな男が、続く。

「モデルダイイチイイイ」と、おそらく柳家の息子なのだろう、高そうなスーツを着た男が、委員長の前に立ちふさがる。


「おい! 委員長、なんだこれ!?」


 男たちに囲まれるように座る委員長へ、叫んだ。

 まるで中心の人物を守るような布陣だ。

 さらわれたんじゃなかったのかよ。


 委員長は、ぽかーんとしていたが、数秒すると、斜め上を向いて、口をとがらせた。


「わ、わからないけどぉ!」


 絶対嘘だろ!


「なにしたんだよ!」

「だから、し、知らないっていってるでしょっ」


 委員長がとぼけるなか、俺の横に、なにかが降り立つ。

 視線を向けると、弥一郎だった。


 俺はダメ元で、訪ねてみる。


「なんか、想像していた状況ではないんだけど」


 いや、途中までは、想像通りだったか。

 終わったと思ったのに、一瞬で、状況が変わった――ん? 一瞬? なにかがひっかかる。委員長により一瞬で変わるものといえば、一つしかない……。


 俺がひっかかったのと同時に、弥一郎は言った。


「これは……バカな妹め。術を暴走させたな」

「暴走って、あれか。魔力暴走みたいな?」


 異世界だと割と発生する事故だ。いくつかのパターンがある。

 魔法を使う際に練った魔力を暴発させてしまったり、自分の中にある魔力がなんらかの理由であふれ出し意図せず魔法を発動させてしまったり、魔法を使用したものの制御ができず規模が想定以上になってしまったり――。


 弥一郎は、不思議そうに言う。


「マリョクとは、なんだ?」


 地球って魔力はないのか?

 それとも忍者グループと魔法使いグループは別世界の話なんだろうか。

 まあ、今、言及しても仕方がない。


「ああ、いや、こっちの話――ところで、術式って、なんの力を元に発動してるんだ?」

「貴様の話はいまいちよくわからないが……我々は丹田から己の生命力を凝縮したものをあつめ、それぞれの術式に転嫁し、発動する。その流れを制御できないと、こういう結果になるのだ」


 丹田っていうと、へそのあたりの場所か。

 なるほど。すこしつながった。

 異世界で学んだことがある。

 たしかへその下あたりって、魔力の発生源の一つだよな。あとは心臓と頭だっけ。

 

 人間って、欲に関するもので魔力を扱っていくらしい。

 魔力を生むのは睡眠、使いすぎても寝て、自然回復。

 口からポーションなどを摂取して、食による魔力補充。

 そして、体内の魔力は腹のあたり……つまり子を成す場所を中心に広がるとかなんとか、魔女から教わったことがある。


 そうなると、やっぱりそうか。


「委員長が使える術って一つだけだったよな」

「ああ。色恋の術のみだ。つまりこれは、それの暴走だ。本来は単体の術だが、暴走により全方位に色恋をかけたあげく、その操作レベルも調整されていないということ」


 うう、とか、ああ、とか呟きながら、委員長を守るように立つ夜凪組を見る。

 たしかに、洗脳されていそうだ。


「これって、解除できないのか?」

「色恋の術は、発動条件が限定されているだけに、一方的な解除はやや面倒だ。これだけ人数がいればなおさら。単純に命令が実行されれば、自動で解除されるが、今回は、なにが目的かもわからん」

「また、やっかいなもんを暴発させたな……」


 俺は委員長を見た。

 いつまでも座っているのはなぜかとおもったが――なるほど。丹田から生命力みたいなものを引き出してしまったから、立てないのか。


 とりあえず、敵が委員長を隠すように立っているだけというのは、好機だろう。

 今のうちに、条件を履行してしまえばいいんだ。


「委員長! 何を望んだんだよ! はやく、解除しろ!」

「~~~~~~~~無理っ!」


 指摘されて、委員長が眉をよせて、くやしそうな表情を浮かべた。

 まだかろうじて顔は見えるが、そのあとすぐに、ゾンビ忍者たちの陣形がかわり、委員長は肉の壁の向こう側の住人となった。


 俺はさらに声をあげる。

 大きな壁を挟んで話をしているみたいだ。実際、肉壁だし。


「無理ってなんだよ! はやくしないと大変なことになるぞ!」


 主に、夜凪組が。


 委員長は、困ったように言う。


「だ、だから! わたし、もう、丹田から力も出てこないから、全部、だしちゃった……わたしからはもう、なにも出ないの……命令の上書きもできないし……」

「なんか言ってるけど……あれは本当か?」


 俺は兄貴に言葉を振る。

 弥一郎は小さく首を振り、嘆息


「その通りだろう。目の前のやつらは、操作できる状態ではないということだ。丹田から力を引き出せぬなら、命令の上書きも無理――ならばすべて殺すしかないだろうよ。当初より、その予定だった……!」

「まてまてまて! 覚悟をもって印を結ぶな! 俺は地球で犯罪者になるつもりはないんだよ!」


 話をきかない弥一郎は、先日と同様の手の動きで印を作ると、口元の布をもごもごさせながら、小さく言う。


「――口寄せの術! 『蟷螂(カマキリ)』」

 

 一瞬だけ、弥一郎の体に電気が走ったように痙攣すると、次の瞬間には、目がランランと輝き始めた。別人になったかのよう。


 なるほど。

 異世界感覚で口寄せの術って聞くと、召喚魔法なのかと思っていた。けど、地球だとイタコみたいな話になるのか?

 でも、カマキリってなんだ……?


 弥一郎は、虫のカマキリを思わせるような構えをとった。ああ、蟷螂拳(とうろうけん)のことか。独特の構えと小刻みな動き。中国拳法だっけ?


 こいつら、とことん忍者関係ないな……。


「しねええええええええええええ!」


 弥一郎は躊躇なく、ゾンビ忍者へ突っ込んだ。


「いやだから、ちょっとまてええええ!」


 俺は一度、OFFにしていたスキル強化をONにしようとするが、間に合わない。

 弥一郎は手をカシャカシャと動かし、宣言する。


「死をもって償え! ――カマキリ三ノ型! 〈鎌今千(かまいません)〉!」


 ダサい。嘘みたいにダサい。

 きっと、百裂拳みたいなものだろうと思うけど。

 案の定、カシャカシャと動かされた鎌の拳が、一番先頭で、ぼうっと突っ立っていたゴリラのようなゾンビ忍者に襲い掛かる――。


「コナイデエエ」


 バシッと、丸太のような腕が一振りされた。ゾンビ忍者のものである。

 右に向かって、一直線にふっとばされる――弥一郎。


「ぐあああああっ!?」


 壁にぶつかって、断末魔をあげる。

 弥一郎は立ち上がろうとしたが、そのまま意識を失った。


「あれ……?」


 俺は目を疑う。

 弥一郎って、そんなに弱くなかったよな……?

 さっき戦った様子だと、目の前のゴリラ忍者よりは、絶対に強かった。

 それが一発で……?

 というか、人間一人が物理法則を無視し、一直線に吹っ飛ぶさまは、俺が夜凪組に見せた芸当だ。つまり、人間に与えたダメージが、俺と同等であることを示していた。


 俺はあらためて、ゾンビ忍者たちを――いや、別の存在になった忍者たちを見た。


「チカヨラナイデエ」とゴリラ。

「コッチコナイデエ」と猿。

「モデルオサワリゲンキンヨオ」と夜凪組のバカ息子。


 まじかよ……。

 まさか、これって……。


 委員長が叫んだ。


「な、なんか、こいつら狂暴になってない!? 兄はどうなったの!?」

「ふっとばされて、倒れた。しばらく目は覚まさないだろ」

「ええ!? そ、そんな! 夜凪組に負けるような人じゃ……」

「わかってる。十分、強かったよ」

「じゃあ、なんで!?」


 俺は、目の前に集まった、ゾンビ忍者総勢二十名を前に、腕をまくる。

 

「おい、委員長」

「早く助けてくださいぃ」

「お前の色恋の術、まだまだ伸ばす余地、あるかもしれないぞ……!」

「え?」


 だってこれ、術対象者に〈バーサク状態(狂戦士状態〉を付与してるだろ。 

 














〇少し長めの、あとがき


家族が熱を出しました!

がんばります。


また、現在カクヨムコンの読者選考期間とのことです。

「この作品はおもしろい!」と思っていただいている場合に限りですが、


下にあるはずの〈★〉を適当と思われる数、つけていただき、

ブックマークもよろしくお願いします。


ブックマークは会員登録するとできるようです。


また、現況報告の日記のほうに、「サポーター限定の質問日記」みたいなのを作りましたので、

サポーターになってくれというわけではなく、

サポーターのかたで、執筆などの質問があれば、どうぞ、ご記入ください。

みんなで、ラノベ界隈を盛り上げていきたいものです。


長くすみません。では、次回でまた、会いましょう。


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