第17話 ぜ、ぜんぜん?
早見くんのお姉さんの周辺捜査を始めてから5日が経った。
俺は橋の下で、なぜか正座をして反省している不良三人へ言葉を投げた。
「――で、大学のほうは、なんの成果もなかったと」
「は、はい……す、すんません」
リーダー格の男が頭を下げる。早見くんを助ける際に、俺が腕を握りしめた一年だ。
金髪でガタイが良いヤツ――名前は郷田(ごうだ)。
他二名の元・不良は、桧野(ひの)と根保(ねほ)。
この三人には大学周辺を洗ってもらったのだが、成果はまったくなかったどころか……。
郷田が頭をかいた。
「つか、俺ら、警備員につかまっちまって、近づけなくなったんで……大学にはもう近づけないっす」
「それはお前らが、怪しそうなやつらに片っ端から喧嘩吹っ掛けるからだろ……」
「す、すんません――でも、お姉さんが助けてくれたんで」
「守るべき相手に守られてどうすんだ」
「へい、すんません……」
警察を呼ばれなかっただけ運が良い。
まあ、しかしそのおかげで、なんとなくだが、わかったこともある。
この5日の間に、早見家に手紙がまた一通届いたらしい。
おきまりの盗撮――で、「いつも見てるよ」とメッセージ。
これはいつもと同じパターンだという。
いつもと同じ――もしも大学関係者なら、この不良たちの暴れ具合に反応するはずだよな?
警戒するとか、興奮するとか、むしろ手紙を出さないで様子を見るとか……なのに、いつも通りの手紙。
ってことは、大学関係者ではない可能性が高くなってきた。
「となると、バイト先か……? それとも全く関係ない経路なのか……?」
わからない。まだまだ決定打はない。
バイトのほうは早見くんに任せてはいるんだが、そもそも、そっちの線は以前から早見くんが調べていたそうで、今更、五日程度の調査では発展もなにもなさそうではある。
うーんどうするか、と悩んでいると、桧野と根保がこそこそと話していた。
「それにしても、あいつの……早見の姉ちゃん、まじでカワイイな」
「ああ。しかもオッパイめっちゃでけえし……やべえよ……俺、惚れちゃった」
「バイト先の制服見た? めっちゃかわいいぞ」
「うそ。見てない。俺、いきてー」
「先輩がつれてってくれるだろうから、写真とってもらわね……?」
……ストーカーが増えちゃったなんてことはないよな。
俺は浮かれている後輩たちを睨みつけた。
「お前らは待機。真面目に学校で勉強してなさい」
「ええ!? 先輩そんな! 自分だけおいしい思いするんすか!?」
「しねえよ。調査するだけだよ」
どうしようもないな。こいつら、早見くんから金を取ろうとしてたこと忘れたのかよ――なんて思いつつも、じゃあ、何事も許さないのか? と言われると、恨みが恨みを呼ぶのは良くない。
早見くんも、協力をしてくれるならこの前のことは水に流す、と言っていたし、俺もその思いにこたえなければならないよな。
「じゃ、ちゃんと勉強するんだぞ」
「……はぁ……バイト先のおっぱい……見たかった……」
言葉の選び方オカシイだろ、と思いつつも、俺は三人を放置し、早見くんに連絡をとる。
目指すはお姉さんのバイト先だ。
どうやら今日はお姉さんのバイト日らしい。
高校の最寄り駅から、一つだけ駅を移動。
駅前から少し歩いた、人通りのまばらな路地に、その店はあった。
チェーン店ではなく個人経営のカフェといったところ。
内装は落ち着いていて、一杯1500円くらいのコーヒーがあるような店だ。
窓も少なく、外から中は見えない。営業中のサラリーマンがさぼっていそう。
一瞬、入ることをためらった。
まだ俺には早い空間だ。
「……まあ、調査のためだし、仕方ないよな」
うんうん、と頷きながら、俺はベルのついたドアに手を掛けた。
これは調査なので、仕方がない。
それ以外に、理由なんてないのだ――。
「いらっしゃいませ――あら? 景山くん? つーちゃん、いないけど、おひとり?」
「……、……」
ドアの先には、茶色と黒を基調としたシックかつアダルトな空間がひろがっていた。
そして――やけに胸が協調されたクラシカルなメイド服を着た、お姉さんがたっていた。
「一人でいいのかな?」
お姉さんは、うかがうように、俺に体を近づけてきた。
首元までしっかりとボタンが閉められているので、胸元なんて一ミリもあいてやしないのに、パツンパツンの胸部が、やけになまめかしい。
布がかぶっているはずなのに、密着しているせいで、体の形がよくわかる。
「ヒトリデス」
変な汗が出てきた。
ついでに、三人組が頭の中で叫んでいた。
『いいなあ! 先輩だけ! おっぱい! おっぱい! ずるい!』
……ぜ、ぜんぜん?
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