第16話 はじめてできたおともだち
昼休み。
俺は教室内を見渡した。
いじめっ子四人組は視界にない。入院はしていないらしいが、どうも今日は学校を休んでいるらしい。
風の噂によると、肉体的に一番ひどくやられたのは勝俣だが、精神的にやばいのは中野さんだとか。
まあ、その件はあとでいいや。
今、重要なのは『早見くんのお姉さんの調査』である。
「……人員は増えたけど、何をさせるべきか」
もちろん一年たちには、授業を受けさせている。
足腰たたなくなっている不良どもを、橋下から学校まで担いでくるのは目立って目立って仕方がなかった。
「放課後からが勝負か……」
裸の写真……いや、今思い出しても、爆裂写真だったが……あれが送られてきたのは、つい最近のことらしい。
一般論ではあるが、物事は過激になっていくものだ。
私生活の盗撮で済んでいた手紙に、裸体が紛れ込む――犯人の欲望の器は、確実に乾いてきているはずだ。より深く、味の濃い刺激を欲しがっているのだ。
俺は先ほどスマートフォンのチャットソフトに入ってきた、早見くんのメッセージをまとめた。
「お姉さんは、大学生で、バイトをしている、と。……超有名大学だな。で、サークルはテニスサークル……おいおい、なんかいきなりヤバいな……バイト先はおしゃれなカフェ……」
一番ありうるのは、同級生とか、先輩か。テニスサークルなんて、俺のイメージだとチャラいやつしかいない感じだ。
バイト先……おしゃれなカフェであるのは、客のストーカーってのも聞いたことがあるな。
となると、大学周辺、バイト先周辺の調査が最優先か。
うーん。
あの不良どもで大丈夫だろうか……。
差別するわけじゃないんだが、目立ちすぎてる気もしないでもない……調査がばれたらどうする? でも、まあ、もしバレても逆にストーカーに対する圧力になるか……?
頭を抱えていると、隣の席からカシャリと音がした。
スマートフォンのカメラのシャッター音だ。
目を向けると昨日初めて話した少女――銀髪のギャルがさりげなく自撮りをしていた。
SNSにでもあげるのだろうか?
点呼で知ったのだが、彼女の名前は『代永アリス』というらしい。
ちなみに今日の点呼もクソ体育教師による圧力点呼だった。
じっと見つめてしまっていたらしい。
代永さんは、俺を見て眉をしかめた。
「……なに?」
「あ、ああ、ごめん。あの……つかぬことをお伺いしますが、スマホで盗撮とかって、可能なのかな」
「はぁ? 盗撮? なに変なこといってんの」
美しい眉がさらにしかめられた。
これは誤解される前に素直に話したほうがよさそうだ。
「自撮りとかしてるし、アプリも詳しいかなって……知り合いが、ストーカー被害にあってるんだよ。で、盗撮されてて。どういう風にされてるのかなって調査中で」
「ああ、盗撮か」
「……? あんまり驚かないんだね」
「結構、されるしね」
「ああ……なるほど」
「そっちだってあんまり驚いてないじゃん」
「いや、そこまで美人だと、そういうのも多そうだなって……」
瞬間、代永さんの頬が少しだけ赤くなった……気がした。
「……ま、誉め言葉として受け取っとく――で、盗撮だけど、普通にできると思うよ。シャッター音がなくなるアプリもあるし、そもそもどっかで動画撮影開始してから、手にもって移動してれば相手も映るでしょ」
「なるほど……」
文明の利器、ヘンタイに味方しすぎじゃない?
たしかに、アプリなんか使わなくたって、うまくやればどうとでもできるか。
「ま、構図とかは一定になるけどね」
「構図?」
「そ。引き絵か、変に密接してるかとか。なんか違和感でるでしょ。だから、逆に、そういう違和感で盗撮ってすぐわかるじゃん。普通の写真じゃないから」
「ああ、そうだよな……」
だから、早見くんだって『盗撮写真』って判断したわけだもんな。
明らかにオカシイ写真なわけだから。
「もういい? あたしも暇じゃないんだけど」
「あ、うん。ありがとう……参考になったよ」
「別にいいよ――もし、そうだな。ストーカーを撃退できたら、教えてよ?」
「え?」
「あたしも、たまにそういうの出るから、解決のコツとか教えて」
「ああ、そうなんだ……」
「モデルとかしてると、どうしてもね」
「モ、モデル……」
高校生モデルとか、陽キャ中の陽キャじゃん……。
よくもまあ、自分から話しかけられたもんだ。
代永さんは次の瞬間には俺への興味なんてなくしたように、スマートフォンに向き直った。
「さて――とりあえず、動いてみるか」
俺は朝方、初めてできた後輩3人――ならびに初めてできたチャット友達3人と早見くんへとメッセージを送ったのだった。
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