第14話 隠すところが違うだろうが!

「あ、センパ――師匠! おはようございます!」

「……おはよう」


 通学路。

 昨日と同じ場所に早見くんが立っていた。


 彼の登場は予見していた。

 そして、だからこそ昨日の風呂場での出来事も自動で思い出された。


 妹に『弟子ができた』って言っちゃったんだよなぁ……。


 訳を知らぬ早見くんは、俺を伺うように見た。


「あの……それで、昨日のお話は……」

「ああ、うん。弟子の話か」

「ええ、はい。もちろん、無理を言ってるのは分かっているんですが……」

「いいよ。わかった、協力する」

「でも、どうしても僕は――え? いいんですか?」

「ああ――でも、一つだけ条件がある」

「条件、ですか?」


 俺はしっかりと頷いた。


「強くなりたい理由を教えてくれないか?」


     *


 通学路を男二人で歩く。

 早見くんは、周囲を警戒するように小さな声で話し始めた。


「おかしなことが起きたのは、一年ほど前のことでした」

「おかしなこと?」

「ええ。お姉ちゃん――名前は、早見羽風(はやみうか)というんですけど……お姉ちゃんの元に、手紙が届くようになったんです」

「手紙か。まあ、ありうる話だよな。手紙だけなら問題はないよな」


 この調子だと内容が問題ってことか。


「はい……そこには、姉の盗撮写真がはいっていました……文章は一言。『いつも見てる』って」

「盗撮?」

「最初はただの私生活の写真だけでした。姉が大学に通う姿とか」

「なるほど……最初、ね」


 なんだ。

 この先に、どんな盗撮の話が待っているというんだ……!


「そのうち姉のお風呂の裸の写真が――」

「――ぶふぉおお」

「師匠!?」

「い、いや、大丈夫だ、つ、続けてくれ」


 あの滅茶苦茶すごいスタイルのお姉さんの盗撮だと!?

 許されることではない!

 許されてほしいけど、許されることではないだろ!


「裸の写真は一度だけでしたが、私生活の写真はそのあとも、たびたび送られてきました……きっと姉のストーカーだと思うんです。そいつが姉を盗撮してるんです」

「まあ……そうだろうなあ」


 なるほど。そういうことか。

 つまり、ストーカー被害から姉を守るために、強くなりたいわけだな。


 早見くんはスマートフォンの画面を向けてきた。


「で、これがお風呂の盗撮写真です」

「ぶふぉおおおお!?」

「師匠!?」

「そういうのは見せたらダメだろ!」 

「でも、隠すべきところはちゃんと隠れてあるので……」 

「そ、そう? なら――ぶふぉおおおおお!」


 そこには、上半身裸の女性が映っていた。

 目線には真っ黒な横線が入っている。

 しかし、それ以外は無加工である。


 高めの位置から見下ろすようにとられた写真だ。

 上にひっかけたシャワーノズルから取ったような画角である。

 たしかに目線は隠れていたが、知っている人間が見れば、わかる気がする。

 腕はうつっておらず、なかなか近距離の撮影だ。それとも加工をしたあとなのだろうか?


「目線に棒が入ってますから、ぱっと見姉だとはわかりません!」

「隠すところが違うだろ!」


 もっと、こう! 先のほうを隠さないとダメだろ!

 おそろしいくらい標高の高い山が二個も映っていた。

 今度お姉さんに会ったら、どんな顔をして挨拶をすればいいんだ……。


「僕のうち、両親が海外にいるので、お姉ちゃんと二人で暮らしているんです……万が一の時にも僕が強くなっていないとダメなんです……最近、物騒な事件多いじゃないですか。僕は毎日気が気ではないですよ……」

「なるほどなぁ……」


 思ったよりも、ひっ迫していた。

 もっと長い目で強くなるならば、やりかたもあるだろうが、話に聞くかぎり明日明後日の強化の話だ。


「それにお姉ちゃん、警察には行きたがらないんです……」

「証拠に自分の裸の写真を見られるわけだろ。その気持ちは否定できないだろ」

「でも、なにかあってからじゃ遅いのに……」


 なんて声を聞きながら歩いていると、目の前に人影が現れた――。

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