はじまりの出会い


「それ」は光が再び、自らの拵えた扉の前に姿を現したのを感じた。


 その温かな光と「それ」は長く続く縁がある。

 とはいえ、「それ」からすればそこまでのものではない。

 だが、その光からすれば遥か昔と言えるのだろう。


 少し前にその光の下に訪れたとき、「それ」は怖がらせてしまった。

 今この時まで光を感じられることがなかった。

 光に拒絶されたのだ。

 光が拒めば、「それ」が拵えた扉も閉ざされる。

 何度か「それ」は同じ経験をしていたが、その度ごとに大きな悲しみを味わった。

 1度感じた光を見失った悲しみは大きい。

 「それ」はしばらく眠りについていたのだが、やっとその光に出会えるのだ。


 「それ」は決まった姿かたちを持たない。

 必要があれば、好きな姿になればよいのだ。

 そのせいか、人は様々な呼び名で「それ」を呼び、ときに敬い、ときに恐れる。

 「それ」はこの世界で大きな力を持つ存在となっていた。

 だが、「それ」にとってはどうでもよいことだ。


 「それ」は光のもとへと飛び出した。


 夜空を飛び、山を越え、かつて拵えた扉を探す。

 繋がっているのは光のもとだが、この世界の扉は移動する。

 あのときと同じ場所にあるとは限らないのだ。

 

 扉が見つかったのはひっそりとした海辺の集落。

 もう誰も住まない集落にぽつんと扉があるのを「それ」が探し出す。

 またどうしてこんなところにと思う「それ」だが、空から降りて気付く。

 誰もいなくなった海辺には静かな美しさが広がっていた。

 小さな星がちりばめられた空と深い色をした海。

 細かい砂が広がる浜は裸足でも歩ける柔らかさ。

 落ちている淡い色の貝殻。

 キラキラと輝いているのは金貨だろうか。

 

 扉には意思がある。

 光を守れるように「それ」がそのようにした。

 だから扉は光に見せたい場所や、出会わせたい者がいる場所へ世界を繋げるのだ。

 今回はこの静かで美しい海辺を選んだのだろう。


 ブラウンの扉を「それ」は通り抜ける。

 扉の先には、光の主がいた。

 あのときと違う幼い光がそこにいる。

 まだこちらには気付かない様子で熱心に何か遊んでいるようだ。


 「それ」の拵えた扉の防衛魔法と幻影魔法は健在である。

 部屋の反対側の扉にも「それ」は術をかける。

 そちら側の扉は「それ」以外こちら側の者は通さぬように。


 2つの世界を繋ぐのがこの扉。

 2つの世界が交わるのがこの小さな部屋。

 ことわりの外にいるのは「それ」と光のみだ。

 

 小さな、だが大きく温かな光を怖がらせぬように、光の望む姿を探す。

 「それ」に見えたのは小さく黒い生き物だ。

 輝く白い霧であった「それ」は姿を変えた。


 振り向いた光が歓声を上げる。

 小さな「それ」を光がそっと抱き寄せた。

 


 

 「ねぇ!ばぁば!見て!猫ちゃんだよ!

  裏庭のドアから猫ちゃんが来たの!」



 


 

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