落ちるもの

ツヨシ

第1話

家に帰宅途中のことだ。

ビルとビルの間の細い通路を通る。

引っ越してから間がないため、夜にそこを通るのは、初めてだった。

それほど長い距離ではない。

もう少しで出口と言うところで音がした。

目の前で。

ドスン、に近い音。

それなりの重量のものが、それなりの高さから落ちてきたような大きな音だった。

しかし夜とはいえ、街灯のすぐそばの場所だった。

なのに今自分の目の前には、なにもない。

なにも落ちても来なかった。

――なんだったんだ、今の音は。

不思議でしかたがなかったが、そのまま家に帰った。


それから数日後、夜にそこを通ると、また同じ音がした。

同じところで。

不思議だが、やはり何もいないし、誰もいない。

皆目わからないが、そんなところにとどまる理由などなく、家に帰った。


私はそのしばらく後、そのビルとビルの間で昔飛び降り自殺があったことを知った。


       終

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落ちるもの ツヨシ @kunkunkonkon

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