第76話 ぎゅー

「やってきたか温泉街………」

ここに来るのは2回目だ。

ちなみにもーねは先に旅館に向かっている。

「いやなんで私たち呼ばれたのよ」

「そりゃ胡桃さん……決まってるじゃないですか」

「?」

「もーねのスキンシップが激しいからですよ!!!!!!」

本当に本場アメリカのスキンシップは激しい……。

日本人にとっては耐えられんのだ。

「いやまぁ……自覚してないあたりがねぇ?」

「うんうん」

はなさんが頷いている。どういうことなのだろうか。

「胡桃さんたちのてぇてぇも見るためでもあるんですけどね…….」

「そういうことは本人の前で言わないの」

顔が少し赤くなっている。


それからも胡桃さんたちをいじった。


「いや〜あの頃は消えると思ってたから気が気じゃなくて……..あんまし堪能できてなかったからなぁ…….」


もう自分が消えないとわかると、生きている…….そんな実感が湧いたんだ。


「よーし!堪能するぞー!!!!!」


そう意気込んだものの……….



「もーね離して…..」

「ぎゅー」

もーねがぎゅーとして離してくれない。

推しにだきつかれるのに悪い気はしないが、それでも照れというのは起きてしまうもので。だからなんとかして引き剥がしたいのだが…….


「ぎゅー」

「いやぎゅーじゃなくて………」


しかし、もーねが離れてくれない理由がなんとなくわかる気がする。


前回ここにきた時。


私は消える消えるって自分で抱え込んで、いろんなことを考えてて。

もーねがいい湯だなーって言ってる時も、自分はもう少しで死ぬのかとか思ってて。


「……..このままでいてもいい?」


また…….私が消えると思ってるのかもしれない。


「………しょうがないなぁ…….」


そのまま、数分間。無言が続く。


パシャ


ん?パシャ……?


横を見ると、そこにはスマホを持った胡桃さんの姿が。


「え、いやちょ」


「スキンシップが激しいとか言ってたくせに……」

「ち、ちがっ…….」

「ぎゅー」

「みんなに広めてこよーっと!」

「いやちょ!!!!」

立ちあがろうとするが…….

「ぎゅー」

「…………..」

結局立ち上がることはできなかった。

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