さようなら。ありがとう
第50話 さようならとは言いません
「まぁ、バレてるんだったらしゃーないか。聞きたいことあるんでしょ?」
もう俺は誤魔化さず、全てを話すことにした。
「まず自分のことから話すか.....。私.....いや俺の名前は荒木颯太。なんでだろうな....寝たらこっちの世界に転生した。いまだに信じられないけどな....」
「......」
みんなは黙って聞いている。俺は話を続けた。
「でも、気づいたことがあった。それは俺のいた世界と全くもって変わってないってことだった。例えばもーね」
「?」
もーねは首を傾げた。
「君は自分の世界では、26歳だった」
「へぇ〜〜」
なんだかあんまし驚いていないみたいだった。
「正直なところ、楽しかったよ。この世界は............けど、一年ぐらい経った後かな....?急に今までしてきたことの記憶が無くなり始めてさ。もう終わりなんだなって」
そうやって、今までのことを話した。
ー数分後ー
「........って感じでさ」
自分は一通りのことを話した。
「やっぱり、私が誘拐されてることに気づいたのは、知ってたからなのね」
「まぁ、そうだね。前の世界で誘拐犯の記事見たことあったからね」
てか、この前の温泉旅行での行動ってやっぱり怪しまれてたのか.....。
............これでいいんだよな....。
俺はこのまま時刻を迎えてこの世をおさらばする。
本当だったら何も知られずにバイバイするつもりだったのになぁ.....。
でもまさかバレてただなんてな.......。
「あえちゃんは、死にたくないんでしょ?生きたくないの」
そう、もーねから言われた。
「そうだよ。別に身投げしなくても.....」
???なんか勘違いしてる?まぁ、この丘にいたらそうなるかもな。
「身投げなんかするわけないでしょ」
「じゃあ、なんでこの丘に.....」
もーね達がそう聞いてきた。
「この丘ってさ......俺が初めてもーねを見た場所なんだ」
「え?私」
「うん。自分が小説とか全然できなくてスランプに陥ってた時に、もーねを見つけてさ。見た時から自分の推しになったよ。癒しになったからねぇ....小説も捗ったし」
「なんか嬉しいなそう言われると」
もーねが照れ臭そうに言った。
「それで?もーねはどうしてわかったの?」
すると、もーねはスマホの画面を自分に見せながら言った。
「この嘘発見器でね。女の子かどうか聞いた時に嘘って出たから」
ええ.....そんなアプリで自分バレたの?
「ここで、自分は最後の時間を過ごそうかな....って思ってたんだ。結果、もーね達がきちゃったけどね」
「残念だけど............君はきっと転生なんかじゃないよ」
そう、先生が言った。
「そんなわけないですよ!だって自分は男だったんですよ?なのに女の子になった.....転生でなければなんだっていうんですか?」
そう。確かに信じたいさ。自分は転生じゃないって。けど.......転生前の記憶があるんだからどうしようもないんだよ。
「君はきっと........」
先生の口から言われたのは......予想もしないことだった。
「彼女の.....夢....なんだろうね」
*
ー数時間前ー
「彼女....いや彼はきっと転生かなんかだと勘違いしているんじゃないかな?」
先生がそんなことを言い出した。
「どういうことですか?」
「いや、彼女の夢が彼なんだろうな...それで彼は転生したと勘違いしてると思ってさ」
「そんなことありえるんですか?」
自分の頭では理解できなかった。
「彼女の.........頭が関係しているんだろうね」
「頭?」
あえちゃんの頭は......常人の約5倍ぐらい頭が良くなるんだっけ?
「彼女の頭の機能は単純な計算能力だけじゃないんだ。脳の機能が全て5倍になる。それはつまり、夢もいつもの5倍になっていてもおかしくないんじゃないかな?」
「あ」
そうかもしれない.....。
「そして彼女はいじめを受けていたみたいなんだ」
「いじめ⁉︎」
あえちゃんからそんなこと一切聞かなかったけど.....。
「彼女から聞いたことがないって顔をしているね。それもそのはず。多分彼は彼の世界からこっちにきたと思っていたから、その前の記憶がないんだと思う。その前というかあえかちゃんの記憶が全てないんだと思う」
私は言葉が出なかった。そんな私を見て先生は続ける。
「だから彼は、きっと可能性の択にあったはずの夢という考えが信じられなかったんだと思う。せめていじめがあったという事実を知っていたら変わっていたのかもしれない」
「........伝えないと」
*
ー現在ー
「.........」
俺は正直信じられなかった。けどそう言われればそんなふうに感じてくるのだ。
「じゃあ、俺が未来のこと知ってたのは?」
「........ 正夢としか言えないかな」
は??????????????
「この空気でそれって.......まぁ信じますけど....」
一旦先生信じたとしてさ....
「俺が死ななくていい理由にはならないよね?」
そうなのだ。先生の話が本当なら自分は夢ということになる。けどだから何?って話なのだ。
俺が夢だろうが転生者だろうが、んなことは関係ない。
だって、どうせ俺は消えるのだから。
「夢は夢で覚めるべきなんだよ」
言ってて虚しくなるな....。
「だから俺には構わないでくれよ」
...........これでいいんだよな。
今までしてきたことが全部夢だった。それは悲しいけど。
いつまでも夢を見ているわけにはいかないんだよな....。
あえかには夢から醒めてもらわないと。
「俺って、じゃあ何もしてないってことなのか」
そう、無意識に口ずさんでいた。
「「「「そんなことないよ‼︎」」」」
もーね達が叫んだ。
「私はあえちゃんといれて楽しかったよ」
もーねがそう言った。
「私たちを繋げてくれたのは、あえかちゃんだった」
はなさんが言った。
「演技にも付き合ってくれた。嫌なら断ればいいのに」
胡桃さんが言った。
「私に一切何もすることなく仲良くしてくれた。それだけで私の心は救われたんです」
楓さんが言った。
..........俺のしてきたことは間違ってなかったって思えるよ。
俺は消えるけど....俺のしてきたことは消えない...ってことか。
「俺が消えた後、あえかをよろしく頼むよ........俺の生みの親なんだから」
「何言ってるの、あえちゃんの親はお母さんでしょ」
微笑する。
「.......そうだな」
最初に言われた質問に答えるとしたら、「死にたくない」だ。
けど、わがままなんて言っていられない。
いつかきっとくるとわかってたことだ。
上を見上げると、月が見えた。
........聞いてくれよ月。俺マガイモノじゃなかったよ........いやマガイモノなのか?
んなものはいいとしてさ。
最後の時が来そうだ。後数分といったところか。そんな時、
「どこにも行かないって約束したじゃん........」
もーねがそう言った。
「そ、それは.........」
それだけ、心残りだった。それ以外にもあるかもしれないけど。
「嘘だったの?」
もーねが泣きそうな顔で自分に告げる。
「んなわけねえだろ‼︎‼︎できればずっと一緒にいたかったさ....けど仕方ないんだ」
君は現実で、俺は夢。元々交わってはいけなかったんだ。
..........あれ、なんで涙が.....。
「......泣いていいんだよ別に」
...........死にたくない。そう死にたくないよ。怖いさ。記憶がどんどん消えていって。受け入れたくもない運命を受け入れなくちゃいけなくて........どうしようもなくて、1年半しか生きられなくて.......できるなら生きたい。
みんなとまだ生きていたい。
「生きたいよぉ.....みんなとまだ」
俺は泣いた。今までの分まで泣いた。
「いいだよ....そうやって泣いても。私たちが受け止めるから」
もーねが自分を抱きしめた。その瞬間、溜まっていたものが溢れ出た。
いやだ。死にたくない。まだやりたいことたくさんあったのに。
孤独の中....記憶を失っていくのがすごく不安で.....誰にも頼れなくて。
だって、「自分は転生者なんです」なんて言って信じてくれる人がどこにいるのか。
そうして自分は、最期のその時までもーねの胸の中で泣いた。
そうして、
「..............またね」
「うん.........」
それは終わりの言葉でもあり、希望の言葉だった。
そうして俺の意識は深い闇へと落ちていった。
けど怖くない。だってもーね達から
——「.......ここは?」
自分がそう言うと、そこは自分の部屋になった。
「こんにちは...俺さん?」
と声が後ろから聞こえた。そこには、
「あ、あえか....」
自分.....の体の持ち主、あえかがいた。
「こうして話すのは初めてだね」
「こうして話すのは?」
どういうことだ?話したことないし、会ったこともないはず......。
「私は話せなかったけど、見てたよ。颯太くんがしてたこと」
「......わ、悪かった‼︎お前の体、色々と危険に晒しちまって.......」
自分は急いで謝った。けど......
「謝らなくてもいいよ。同じ状況だったら私だってそうしたよ。私の推しでもあるし」
「で、でも.....」
「いいんだよ....君をこんな目に合わせたのは私だし....」
俺は....夢だとしても18歳だった俺は、こんな小さい子に責任を感じさせてんのか?
「いや。俺が悪いんだ......いや誰も悪くない」
......そうか。あの時のもーねの誰も悪くないは、自分とあえかにも向けられていたのか。
「それで....ここはどこなんだ?」
「ここは精神の世界だよ。そして君は消える」
「やっぱり......」
まぁいいや。もう悔いはない。あそこで全部捨ててきた。
「でも、1つだけ助かる方法があるんだ」
「何?」
どういうことだ.....?
「私が受け入れること。それが条件」
「どういうことだ?」
「夢って基本覚えていられないけど、覚えていることもあるよね?それを擬似的にするってこと」
「でもそれにはきっとリスクがあるはず」
実際にそういう事例は知っている。夢を日記に書き記していた男が、何日目かで現実と夢との区別がつかなくなり、人を殺しまくったという事例がある。
つまり、それと同じ原理だったら、そういうリスクがあるはずだ。
元々夢というのは醒めるものなのだから。
「そして、受け入れるってもしかして……」
「そうだよ。私がされてきた理不尽ないじめを受け入れる…ってこと」
やっぱりそういうことなのか……。
自分は元々、あえかがいじめにより心の奥底に閉じこもり、誰かに助けを求めた結果夢から生み出された人格が俺だ。
母さんが同じだったり、家の場所が全く変わっていなかったのは、あえかの夢……つまり記憶を媒体として生み出されたからであり、夢から生み出されたことの証明でもあった。
俺が消え始めた理由は簡単だ。
あえかが受けた理不尽ないじめを忘れ、前に進もうとしている…ということ。
俺は元々あえかがいじめに対して救いを求めた結果、生まれた存在。
当然いじめに対して忘れれば、俺が忘れされるということになり、結果俺は消える。
「でも……ダメだろ。詳細に思い出さなくてもいいんだよ」
いじめ……そんなものはこの世から無くさなくてはならないものだ。想像を絶するほどの苦痛が伴い、いじめられっ子を確実に不幸にする。もちろん大人になってきっといじめっ子も後悔する。そんな、誰も幸せにならない行為。それがいじめ。それを……中学1年生というまだまだ色んなことが割りきれず、大人とは違って沢山我慢ができるという精神じゃない……子供が、いじめを詳細に思い出し、それを受け入れるというのは……逃げないというのは、どんなに辛いことか。俺だったら無理だろう。
大人ならまだしも、子供がいじめを受け入れるなんてのは……不可能に近い。
実際に、受け入れられないから自殺者が後を絶たない。
それでもこの子は……俺を救うために
「いいんだよ。私はあなたを助けたい……それじゃダメ?」
……ありがとう。
「.....ダメじゃないさ」
その気持ちは痛いほど自分もわかるから。誰かを救いたい。その気持ちを尊重するさ。
「それじゃやるよ?」
「ああ、どんとこいだ」
もし成功したらこいつを崇め奉ろう。この
そうして、俺は、眠りについた。
俺はどこかで聞いた言葉を思い出した。
——それが夢だったとしても言い換えればそれは世界と言えるのではないだろうか。
——夢の世界から現実世界に来るのは転生と言えるのではないだろうか。
——Vtuberは夢をくれる。それは夢の存在にだって与えられるんじゃないだろうか。Vtuberは夢の塊。それはVtuber自身にも夢が与えられるのではないだろうか。
「やればできるじゃん」
ー数日後ー
「みんなただいまー。Vtuberは夢の塊!荒木あえかです!」
1人に与えられた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます