第46話 浴衣選び

「うーん」

もーねが浴衣を見ながら唸り声を上げた。

自分はもーねと一緒に来たが......1時間経過したにもかかわらず、この調子である。


そもそも、もーねに合う浴衣といえばなんだ……?そもそももーね自体が完璧なる存在なんだよなぁ……その理由の1つが2次元の時のもーねとこっちのもーねがとにかく似すぎている………というものなんだよな……。だがしかし同じのを選ぶと言ってもコスプレだと思われてしまう可能性があるんだよ。なにせもーねというのはVTuber界のトップだからな。失礼かもしれないがそれで他の同期さんがファン取られちゃったし……まぁ、今は1期生に戻ってきて和解してるわけだが……。


あの後1期生さんに戻ってきて欲しいと自分ともーねが<木漏れ日>のお偉いさんに懇願したことで復帰というか、卒業はしたが今までの復習という形で戻ってくることが出来た。

今は自分などのリスナー達がバリアを貼っており、色々な方法で撃退してくれているから安心である。色々な方法というのは自分はあんまり知らない。ネット民を怒らせると何されるか分かったもんじゃないし……。


てかそれより浴衣だよな……はっ!?

元々顔面偏差値が高いやつにベストな浴衣を選んだらどうなるか……それは方程式で表せば、人-神×神=死……だ。つまりはそのもーねを見たら人が死ぬレベルに達するということ。少なくとも自分は死んでしまう気がする……気がするとかじゃなくて、もう確信だな。絶対に死ぬ……。今日を入れて2日あるからまだ死にたくは無い……....だがもう2日なのだから見ておきたい……クソ……どうすればいいんだ……。ええい……どうなるかなんてもう知らん……もーねの浴衣が見れたら俺の本望よ!……水着も見たいが………….。とりあえず選んでみて、その後考えよう。もしかしたらイメージで吐血する可能性もあるかもしれんがもう迷っている時間は無い……やるか。てか、そもそも俺自身服選びのセンス皆無じゃん……パッションでやるしかないのか……?もう<本気>を使うか……?いやこんなところで使うなんて……って一生に一度の光景を拝むんだぞ俺?こんなところで躊躇してちゃ……でも倒れたらこの後の七夕まつりに行けないから使うのは無理か……。拝むために使うのに拝めないとかアホだもんな。じゃあどうしようか。このままだと8割がたもーねが選びきれずに自分を頼るだろう。そうした時に選べないとまずい……さすがに浴衣が選べないから今度にするなんていうことになったら俺は2度とそのお姿を拝むことが出来なくなってしまう……。花柄とかの方がいいのか?それとも星とかそういうのがいいのか、それとも模様なしの方がいいのか……?全部似合いそうで選べねぇ……。色だって無限にある。もーねのイメージカラーは白だから白色の浴衣も絶対に似合うだろうけど…………その他の色の浴衣も拝みたいし………………………………………………。

もう脳が成長していることに賭けて、<本気>を使いますか。

.........まずもーねのイメージカラーは白。それはいつもの状態でもわかっていたこと。なら、白をxとして、xがyになって....それをtでかけて、31で割って、56を足して.......6+3をして.......その方程式の解をこっちの方程式に当てはめて.....なんか間違った....あっ、ここが虚数になってるのか....ならここを正の数としてやれば.....よし。

「完璧だな」

そう言って、自分は能力を解く。時間的にいえば、7秒程度だ。

「よし。花柄で白色の浴衣がベストなんじゃないだろうか....」

と答えを導き出した俺だったが......。


「お買い上げありがとうございましたー!」

...........もーねは自分で決めて買ったようだ。

俺の考えた時間が無意味になった.....わけでもなく、

「いやぁ〜、やっぱり花柄で白色の浴衣だよね!あえかちゃん!」

「う、うん」

というような感じで、もーねは自分が導き出した浴衣と同じものを選んだようだ。

「でも何か悩んでなかった?」

「え?ナンデモナイヨ。ウン」

「そう?何でカタコトなのかはわからないけどないならいいや」

危ねぇ....バレたら一生の恥やな......もう一生終わるけど。

「そういえば、もう12時だね」

もーねが時計を指差しながら自分に言ってきた。

「もうそんな時間?ならお昼どっか行く?」

自分がそう言うと、

「行く行く‼︎........とは言っても、どこ行くの?」

もーねが自分に尋ねる。

「うーん.........ならあそこ行こっか」

「うん?」

そうして自分はとある場所に歩き出した。



「ここって.....?」

「言ってなかったっけ?自分のコラボカフェだけど...」

「え⁉︎」

もーねが驚きのあまり、飛び跳ねた。

そんなに嬉しいのか......そんな反応されるとちょっと照れるな....。

「んじゃまぁ、ここで何か食べていこうか」

「うん!!!!」

そうして、もーねと自分はパンケーキを頼んだ。


「これって....あえかちゃんのパンケーキ⁉︎」

そう。自分は一度、配信でパンケーキを焼くというものをしたことがある。自分は料理をしていたこともあり、パンケーキはうまい具合にできた。

そこにデコレーションとして、クチナシとスズメウリを載せて、ストロベリーチョコをペースト状にしたものでデコレーションをしたものを作ったのだが.....食べたいと言うのが殺到したため、コラボカフェができる見通しができた際に一番にこの料理というかお菓子?が選ばれた。そのため、コラボカフェのコラボメニュー?の中にパンケーキがあるわけだが.....もーねは自分の配信を当然見ているため、自分のパンケーキを知っている。まぁ、コラボカフェができたことは知らなかったみたいだけど...。



「ん〜おいしぃ〜」

もーねが運ばれてきたパンケーキを食べてそう言った。

「なんかそう言われると嬉しいな...」

確かに職人さんの腕もあると思うが、レシピを考えたのは自分なので、嬉しかった。

「いやぁ......まさかコラボカフェができるなんてね」

もーねが食べながらそう言った。

今度、行儀というものを教えないと。

「まぁ、そうだね。自分も思ってもみなかったよ」

正直、この話が来た時は夜も眠れなかったし.....。

「いちごチョコのペーストをデコレーションしたパンケーキって珍しいね〜」

「んまぁ、なんとなく自分のカラーで合わせてみたって感じかな」

まぁ、その代わりに厄介どもがSNSにさっきのレシピにアネモネとホワイトチョコのペーストを付け足したパンケーキを送ってきてすごく困っているけども。

「でもこのあとどうする?」

もーねが食べ終わったようで、この後を聞いてきた。

「うーん。どうしようか」

正直、デートを一回もしたことがな...........本当にしたことなかったっけ?思い出せない.................くそ...。

「ん?どうしたの?」

「いやぁ、なんでもないよ」

危ねぇ.......こういう時だけ勘が鋭いんだよなぁ.....。

すると、もーねの電話が鳴り出し、もーねが席を外した。

「もーねが電話なんて珍しいな.....まぁ、案件とか色々あるよな。別に友達がいないわけじゃないし」

俺は、もーねを待つことにした。


ー数分後ー

「ごめん。ちょっと急用ができたから抜けるね」

もーねが帰ってきてそう言った。

「うん。急用ならしゃーないか。じゃ、今日の7時に」

「うん!」

もーねはそう返事を返すと、店から出て行った。

「さてと、どうしますかね」

自分も会計を済ませて店から出た。


とりあえず、することもないし、推しの配信見にいくか....


ー自宅ー

自宅に猛ダッシュに帰宅した

「う〜ん......やっぱり推しの配信は見てるだけで癒されるなぁ.....」

その時、あるものが俺の目に映った。

「あっ‼︎‼︎小説の更新忘れてた‼︎‼︎」

そう。小説の投稿を忘れていたのである。

昨日は、深夜に頑張っていたのだがやはり、精神が戻り始めているのだろう。普通に眠すぎて寝落ちてしまったのである。

「正直、間に合う気がしないが.....」

推しの配信という、自分の三大欲求が拒もうとするが強引にでも画面を変え、作業に取り掛かった。

今の時刻は15時。約束の時間まで4時間ある。

しかし、ネタや伏線、新しい要素なんかがあったりすると、それだけで4時間はあっという間にいってしまう。

「なんとかして終わらせるか」



................。

「眠いな....」

モンスターでも飲むか........ってないのか。

気合いでなんとかするしかないか..........。


「小説を書いてると自分の心情を写しているようでなんかなぁ.....」

なぜそうなるのかわからない。小説とは主に、作者の主観に基づかれて構成されているからだろうか.....。

消えたくないなぁ.......もっともーねと一緒にいたいけど。

それはあえかに失礼だろ。

借りたものは返す。そんなの学校で習うというか、当たり前のことだ。

そもそも、なんで俺はこんなことになってるんだ....?

「ただ寝てるだけだったのに....」

思い当たる節はあるが.....でも判断材料が足りない。

どっちにしろ、結果は変わらんし.....考えるだけ無駄か。

「それにしても、よく46話なんて続いたよなぁ....」

小説を書きながら自分はそう呟く。

正直、ここまで続くとは思っていなかった。20話前後ぐらいで終わろうかなと考えていたのだが、人気が出てしまい46話まで続いたのだ。書いているのが恋愛系だったから、続いたんだけど........運がいいのか悪いのかわからないな自分は。

それに、正直めんどいとか言っている厄介達も実はありがたかったりする。

もーねを誹謗中傷から守ってくれてるし、いつも元気をもらってるし.....。

何気ないそのコメントで俺らは助けられてるし、傷つけられてるってことをVtuberになって改めて、再確認したなぁ。あの頃も、小説家やってたし、切り抜き師もやってたからそういうのもなかったわけではないけれども......やっぱりこっちの方が多いって感じがする。パッションだけど。

「........あの日の記憶も....あんなに大変だったはずの誘拐事件も思い出せなくなっているなぁ....」

残り2日だからかなぁ.....その日の出来事を書き出そうとしても数行の言葉しか出てこなかった。



ー1時間後ー

「ふぅ〜終わったぁ」

いつもより時間が早くなったのに出来はいい。

「今日は何か絶好調なのかもなぁ」

こんな平和な日じゃなくて誘拐とかみたいな日に絶好調であってくれよ。



それにしても、もーねの浴衣姿か........。

「ごふっ....」

想像しただけで吐血してしまった。それほどまでに浴衣もーねというのは破壊力が究極に高い。

あくまで俺の意見だけど。

俺の推しであり、2次元体と3次元体が似すぎていること。そして浴衣とかいう可愛い衣装の筆頭と言っても過言ではない衣装。それが合わさって自分にとんでもないダメージを与える。

あぁ............思い出しただけでまた吐血しそう.....。

「ごふっ....」

やばい......このままだと死ぬ。冗談抜きで死ぬ。

でも推しのこと考えながら死ねるのなら............いやいやいや。この体は借りているものなんだしまずいだろ。



少し眠いし、寝るか。

「仮眠だし....起きれるよね....?」

3時間ぐらいあるし....大丈夫か。

「それじゃ、おやんみ〜.................すぅ...すぅ....」

俺の体は相当疲れていたのだろう。目を瞑ってすぐに深い闇の中へと落ちていった。




——「ぅーん.......」

目が覚めると、あたりは暗くなっていた。

「え⁉︎」

急いで、時計を確認すると7時を差そうとしていた。

「ヤバイヤバイ‼︎‼︎」

急いで、服を脱いで着替える。

「えっと、これとこれとこれを持って....」

必要なものを持って、家を出た。


「あと1分だ......」

流石に遅れたくはない。

自分から誘っていた手前、遅れるのはなんとしても避けたい。

「青信号.......5、4、3、2、1....」

間に合わない....そう思ったが、ギリギリのところで間に合い、なんとか渡ることができた。



「.......いない....」

時間はなんとか間に合ったが、肝心のもーねがいない。そこで俺はとあることに気づいてしまった....。

「もーねって遅刻魔だった....」

そう。もーねは意外と遅刻するのだ。


そこから俺は、5分ほど待ち、もーねがやってきた。

「お待たせ〜」

「もう.....まぁいいや。それじゃ行こっか」

自分が手を差し出す。なんだか自然と出したけど、なんか恥ずかしいな。

「うん‼︎‼︎」

もーねがそう言って、自分の手を握った。

そうして、七夕まつりの会場に歩き出した。

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