第45話 織姫と彦星

「今日は七夕......7月7日か..........」

俺はそう呟く。

「........私のお金が....」

もーねは隣で嘆いていた。

「それはもーねが悪いことだろ」

「ハーゲンダッツと4000円って割に合わないと思うんだけど」

「今までのことも加味したら、当たり前の値段だと思うけど?」

「え?」

「こっちに引っ越してきてから、何回自分のハーゲン食べたと思ってるの?」

「な、何回だっけ.......?」

「83回だよ」

「あ〜........ほんとにすいませんでした」

「よろしい」

と、こんなふざけた茶番は置いておいて。

「七夕まつり行く?」

自分はもーねにそう尋ねる。

「七夕まつり?」

と、もーねは知らないようだ。

「七夕まつり.....自分の地域....というかほとんどの地域であるだろうけど、その名の通り、七夕で開かれる祭りのことだよ。リスナー......もねっこたちから聞いてない?」

「うーん」



ー昨夜ー

『いやぁ.....ってことでさ、かえちゃんとあえちゃんが喧嘩しちゃってさ....私関連でね』

→あえちゃん.... ?

→『もうそこまで行ったのか.......』

→やることやったのか.......

→それにもーね関連で喧嘩って.......

→『ついに恋敵が現れたってことか....』

→かえさんにも好かれてるのか.....

→『試練ってことだな.....』

→『誰がもーねの夫となれるのか.....』

→わんちゃん、嫁になるって説も....

→もーねって妙に俺らでもかなわないほどの漢前になるからなぁ.....

『ん〜〜〜〜〜〜〜????????』



「ってことがあって....」

「よし.....2度と陽の光を見れないようにしてやるかそいつら」

俺がそう言って、拳を握ると、

「ちょちょちょダメだよ⁉︎」

そう言って、もーねは自分の服の袖を掴んだ。

「んなことわかってるよ?..............いい奴らだよなぁ.......まぁ、厄介がすぎるけど」

「それは否定しない.....」

もねっこ達.....推しからめんくさがられてるぞ....。


「そんなことより、行くってことでいいよね?」

「そりゃもちろん!」

色々と、準備しないとな....。楽しみだな.....。



「うーん....最近あえかちゃんに会えてないなぁ....」

私こと胡桃は最近あえかちゃんに会えていないことを嘆いていた。

「でもそっか。今日、はなの誕生日か.........一緒に七夕まつり行こうかな....」

そう考えていた時だった。

「胡桃さん、ちょっといいですか?」

事務所の控え室にマネージャーさんこと、マネちゃんが入ってきた。

「なんですか?」

私がそう尋ねると、

「今日、コラボ配信があったんですが....出演者の2人が欠けてしまって....代行出てくれないでしょうか?」

そう言われた。

「あ〜.......了解です」

「今日の7時からなので..... お願いします」

「わかりました」

そして、マネちゃんが出ていった。

「はなと一緒に七夕まつり行けないのか.....いつも一緒に行ってたんだけど....はなが悲しむかな....」

そう言いながら、配信の準備をするのだった。



「はい?コラボ配信?」

「はい.....」

そう、私ことはなは、マネちゃんにコラボ配信があることを知らされていた。

「急ですね....」

私がそう言うと、

「本来なら、いちごと、みかんが出る予定だったんですが....」

いちごとみかん.....5期生であり、私の後輩。

まぁ、住んでいる場所が違うらしいし、事務所に来る日とか、時間が違うから、会ったことはいないけれど。まぁ、少なくとも今は、オフで会うことはない....。

まぁ、その代わり、配信とかでは一緒に遊んだりすることが多いんだけど.....。

「2人ってなんかの用事ですか?」

「うーん。なんか用事があるらしくてですね...」

「用事ですか」

「重要な用事らしいですよ」

重要な用事......か。

なぜだか知らないけど、自分達に無関係には思えなかった。

けど、関わってくるのは今じゃない気がする。それも1年先のような——

「はなさん?」

「あ、はい、わかりました」


その後、少しの打ち合わせをした後、マネちゃんと別れた。

「7時から10時までか.....」

その時間帯だと七夕まつりの花火終わっちゃうな....。

花火があがるのは9時だし。

見たかったなぁ.....胡桃と。

まぁ、しゃーないか。

昨年行ったとき楽しかったから、また行けるのすごく楽しみだったんだけどなぁ....。

あそこ1人で行くと、色々とめんどくさいし....。



七夕まつり........カップルにとっては絶大な人気をほこるまつり。

その会場には8割カップルという、カップルがいないぼっちや男だけできた奴らにとっては、生き地獄と等しい。なんせ自分も体験した。.....そっち側だし。リア充達と同じ.........そっち側ではないんだ。

しかし、このまつりは一年で一番恋愛が成就する日と言ってもいいだろう。

「なんで?」

もーねがそう聞いてきた。

「理由は単純だよ。だって、会場には8割がカップルでイチャイチャしてるんだよ?」

「.........ぁ」

もーねも気づいたみたいだった。

「仮に、両想いじゃなかったとしてもそんだけカップルがイチャイチャしているなら、意識せざるを得ない」

「だから......ってこと?」

「まぁ、そうだね」

「だから、国の公式ホームページにある、七夕まつりの恋愛成就率は、何もなかった七夕と比べて、驚異の45倍という数値が出てる。まぁ、俺が測定したんだけどね」

「すごい数値だね........ん?ちょっと待って?」

「ん?どうしたの?」

なにやらもーねが驚いているが.......。

「国のホームページにあるやつがあえちゃんが測定したの?」

「うん。国に依頼されてさ。正直地獄だったけどね」

「い、いつ....⁉︎」

確かに俺は転生してきたが....今回の七夕まつりは2度目。

「去年だよ。去年、七夕まつり一緒に行けなかったでしょ?」

「あ!!その時に⁉︎」

「うん。正直、見たくないもの見せられて死にたくなったけどね........。それにクラスメイトに出会うわ、ナンパされるわ、散々だったよ」

「ナンパって、絶対やばいね......」

「まぁ、そうだね」


そんな感じで七夕まつりの説明を一通りし終わった時、

「そう言えば、織姫と彦星って、一年に一度しか会えないんだよね?」

そうもーねが聞いてきた。

へぇ〜、もーねって織姫と彦星知ってるのか.....ってそれはバカにしちゃってるな。

「そうだね」

「それって七夕の今日なんだよね?」

「そうだよ」

「なんでなの?」

「そもそも、2人って夫婦なの知ってる?」

「え?そうなの?恋人かと思ってた....」

「まぁ、そういう感じで勘違いしている人いるから大丈夫だよ。覚えりゃいいし」

自分がそういうと、話を続ける。

「それで、2人は働き者だったんだけど、織姫が遊びもせず、恋人もいないことを可哀想に思った最も偉い神様は、彦星を引き合わせて、2人は結婚したんだけど、結婚したら2人はイチャイチャしあって、仕事をろくにしなくなったんだ」

「え⁉︎」

「それで、怒った神様は、2人を引き離すんだけど、悲しみに暮れて2人は泣き暮らし、仕事にならなかったんだ。それを怒っていた神様は、可哀想に思い、真面目に働くなら、一年に一度だけ合わせると約束したんだ。その日付が7月7日の七夕ってわけ。そのせいで、恋の日とも呼ばれてる」

「へぇ〜」

「まぁ、自分はもういいと思うけどね」

「もういいとは?」

「だってそろそろ織姫も彦星も反省してるでしょ?それなのに、ずっとこのままとか、残酷にも程があるでしょ」

「確かに」

「でも神様だけが悪いとは言わないよ。2人も悪いし」

「まぁ、確かに。イチャイチャせずに働けばよかったのにね」

もーねがそう言う。

「それもあるけど、自分が言ってるのはそうじゃない」

「え?」

「自分が言ってるのは、織姫達も、神様に交渉しに行ったり、お願いしにいたりしないことだ」

「...............」

「神様が怒って、一年に一度すら会えなくなる........今の関係が変わるかもしれないと、ビクビクして、なにもしない。ただ、その日になれば会うってだけ」

「それってのこと言ってるの?」

もーねが鋭いところを突いてきた。

「そうなのかもしれないね〜」

自分ははぐらかしておいた。だって、そうなのか自分もわからないし......。


「そういえば、自分かなでさんに会いたいんだけど」

自分がそう言うと、

「今のところ、会えないかなぁ.....」

もーねにそう言われてしまった。

「そっか.....」

身体だけじゃない、精神的な面.....心身の問題があるよなそりゃ。

いきなり刺されて、殺されかけてるわけだし....。

俺だって、すぐには立ち直れない........。

「まぁ、わかった。それは今度にするよ、謝罪も兼ねてね」

「謝罪?」

もーねがそう聞いてきた。

「そりゃだって、誰も悪くないと言ったってさ、楓さんをあんなふうにしてしまったのは私だし。謝らないと」

「そんなのは別にいいってのに」

「自分の気が済まないんだよ。その原因は自分なんだし....」

今回の事件は誰も悪くないし、誰も原因じゃない。けど、楓さんを怒らせてしまったのは自分が原因。それは一応、お姉さん.....身内の人にも言わなきゃだろう。それに、お姉さんは関わりがないとも言えないし.....。

「まぁ、そういうところは律儀だからねぇ.....あえちゃんは」

「そういうところってなにそういうところって」

「なんでもないよ〜」

そう言って、知らんぷりをした。

こ、こいつぅ......まぁ、自分が律儀とは思ってないし....当然っちゃ当然か。

「ありゃ、もう落ち着いたの?」

自分の冷静になった顔を見てもーねがそう聞いてきた。

「まぁ、自分が律儀とは思ってないし、あながち間違ってはないかなって」

ここで怒っても意味ないし.....。

「いててて....」

まだ左肩と左胸の傷が痛む....。

「まだ痛みそう?」

自分を心配してもーねが声をかけてきた。

「そりゃあね。先生にもう大丈夫と言われたからといって、傷口は塞がっているわけじゃないんだから、当然痛むよ?でも、心配してくれてありがとうね。痛むだけで別に動けないとかじゃないから」

自分がそう言うと、

「そっか」

と、もーねは少しホッとしたようだった。


沈黙が続いている。そんな中、

「それにしても暇だねぇ....」

もーねが一度、沈黙を破った。

「七夕まつりに一緒に行くと言っても開催7時からだし....」

しかし、そう自分が言うと、また沈黙が再開した。

正直言うと、気まずい。

こんな時、自分なに話してたっけ?

やべぇ思い出せない.....。やっぱり記憶が消えかかってる....。

このままだとまずいな............。

まぁ、いっか。まだもーねとかその他の人のことは覚えてるし。

もーねにあげた髪飾りもあるし......俺の記憶が消えても俺がいたという痕跡は消えないか。

「とりあえず......浴衣選びに行く?」

「.........⁉︎行く行く‼︎‼︎」

「よし。じゃあ、準備するか」

「うん」

そうして、一旦もーねを自宅に返すことにより、なんとか沈黙は終わらせることができた.....。

あのままだったら気まずすぎて死にそうだった......。

「...........もーねに似合いそうな浴衣ってなんだろうなぁ.....」

そんなことを考えながら、自分は支度をし始めた。


<あえかの記憶が消えるまで、残り2日>

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