第44話 誰も悪くない
俺が感じたこと。それはまず<あたたかい>だった。
血によるものだと思ったけど違った。
視界がぼやけるが、自分に膝枕をしているもーねがいた。
「あえかちゃん..........」
もーねが泣いている。心配させないように笑う。
「いやぁ.....ゆ、油断しちゃ....たぁ.....えへ...へ」
そうは言うが、正直まずいかもしれない。
心臓の被弾は<本気>による反射並みの回避で、死ななかったけど....。
被弾はしてしまった。
急所になるようなところは避けたけど......流石に避けるのは無理だった。
左肩と左胸で出血が多い.......このままだと失血で動けなくなり、失血死しちゃうな....。
*
ああ....
この光景は2回目だ....。
私、もーねは最悪を思い出していた。
そうあれは、ちょうど3年前のことだった。
それは突然起きた。私は正直現実じゃないと思った。
サプライズで日本に来ていた時。かなちゃんを驚かせようと、歩いていたかなちゃんの前に飛び出そうとした時。
グサと言う音が鳴って、目の前にいたはずのかなちゃんがいなくなってて....。
下を見たらかなちゃんが倒れてて、紅く染まったナイフを持った男の人がいて。そこから私は逃げてしまった。
怖かったから。そこから逃げたかった。私もやられるんじゃないかなって。
私はそればっかりに意識が入ってしまって。助けられたかもしれないかなちゃんを置き去りにしちゃって。
事務所についてからは......覚えてないや。
それから、事務所からかなちゃんが刺されたということ、そしてギリギリ助かったことを聞かされた。
*
「自分は.....最初っ...から楓さ..ん。あなた...の..目的に..つい..ては知っ..てたさ」
「え?」
楓さんが一歩後退りした。
「知っ...てたうえで....カマをかけ...たんだけど」
俺はそう言った。
「楓さんの......目的は...私だった....」
「え⁉︎」
もーねが驚いている。そりゃ当然か。
「あ、あなたは.....本...当は...もー..ねを殺すつも...りだった。けど...あの日....私がもーねと出会った日。楓さんの....目的は.....私に....なった」
喋るのも辛いが、それでも私は続ける。
「楓さんは嫉妬.....していた....んだよね.....。私に」
*
私はそう言われて、動揺していた。
バレないと思っていたから。バレたくなかった。
こんな、子供のあえかちゃんに大人の私が嫉妬だなんて理由で殺そうとするなんてさ.....。
あの日、私は焦ってた。
「何、あの子は」
2人が帰った後、そんなことを口走っていた。
しかし、誰もそんなこと答えてくれなかった。
「.........................」
無性に腹がたった。
その日から、もーねへの殺意は全てあえかちゃんに移った。
嫉妬は悔しさからきていた。
もーねという、お姉ちゃんの居場所を奪われた気がして....。
私の計画も潰されて........私の守っていたその隣を........。
でもそれと同時に感謝してた。
もーねを殺さなくて済んで。
そんな相反する気持ちがごちゃ混ぜになって....自分でもどうしていいか分からなくなって.....。
そして、そんな気持ちは固まって.....弾けた。
今リセットボタンがあるなら押してる。何回でも。
止められなかった。
今思い返してみると、あえかちゃんとお姉ちゃんって同じだな。
もーねのファンに殺されかけてて....。
*
「誰も悪くないんだよ.....」
もーねが泣きながらそう言った。
その言葉で俺は気付く。
「そうだよ...ね」
無理に誰が悪いかなんて見つける必要なんかないのだ。
みんな、1人も悪いことなんてしていない。
だから....もういいんだよ。
争う必要なんてない。
もーねが狙われているわけじゃなかった...それだけで俺は十分だ。
俺が狙われるなんてのは些細な問題だ。
どうせ、<あえか>に戻るのだから。
ー数時間後ー
「いやまぁ...誰も悪くないとは言ったけどさ?」
「ん?」
「なんで..........一緒に寝るなんてことになってるんだよ!!??!?!?!?!?!?!?!??!」
そう。なぜか楓さんともーねと一緒に寝ていた。
確かに仲直りというのは必要だろう。
だがしかし、なぜ一緒に寝ることになった⁉︎
流石に許したとはいえ、一緒に寝るのはお互いに抵抗があるだろ。
殺られて死ぬというより気まずすぎて死ぬわ!!
それに7月というもう暑くなってる時に、なんで3人で一緒のベットを使わにゃならんのだ!!
エアコン使っても対処しきれんわ!
18℃とか人生で初めて使ったわ!!それでも暑いし!!
え?何?嫌がらせですか?怪我だらけの俺に対しての拷問ですか?汗が傷に染みて痛いんだけど?
もうツッコミが追いつかないんだけど?
もーねが冷えピタ持ってきたと思ったらカイロだったし。
ぎゅうぎゅうに詰めてきておしくらまんじゅう状態だし....。
しかも、真ん中自分だから一番潰されてるし......。
「ね、寝れないんですけど........」
「zzzzz」
「zzzzz......おにぎり食べられないよぉ....」
「いやもう寝てるのかよ⁉︎この暑い中で⁉︎」
あ.......2人とも寝てるし静かにしないとだよな....。
「と、とりあえず暑いし、ソファーに行くか.......................って、あ、あれ?」
動けない..........こ、こいつら俺のこと挟んできて、動けねぇ.....。
......⁉︎ちょ、こいつら掴んできてさらに動けなく.......それに暑い......。
ま、まじで蒸し焼きになる.....。
その後、俺が近所迷惑になることを覚悟の上で大声を上げると、もーねたちが飛び起き、俺はリビングのソファに行った。蒸し焼きで死にかけたんだから、しょうがないよな....。
ー次の日の早朝ー
「もちろん、すぐに許す....とは言えない」
俺は楓さんにそう言った。
「そうだよね....自分を殺そうとした人を許すなんてできないよね....」
楓さんは落ち込みながらそう言う。
「んまぁ、土下座5時間ぐらいして欲しいけどさ」
「あえちゃん!?!?!?!?!!」
もーねが大声をあげる。
「冗談だよ...............俺はそんなにホイホイと許せるほど俺はお人好しじゃない。それは否定できない」
俺は、残酷なことを告げる。それに楓さんは、
「やっぱり.....そうですよね」
そう言いながら、当然という悲しそうな顔をする。
「で、でも?一緒に寝たし.....」
もーねが慌ててそう言う。
「まぁ、もーねの言う通りだ。確かにすぐに仲良くってわけにはいかない。けど.....いつまでも仲良くできないわけじゃない。あんたが優しいってことは知ってた」
そう。あのもーねが誘拐されかけた事件....まぁ狙いはもーねじゃなくて、救いにきた私だったわけだけども。
その事件、詳しく調べたら爆弾なんてのはただのコケ脅しで、爆発はしても音と煙が出る程度。あの男の家族をどうこうするつもりはなかったんだ。
「だから、これからよろしくな!」
俺は力強くそう言って、手を差し出した。
「い、いいんですか?」
「昨日は一時的とは言え、自分と寝ておいて今更ためらうの?」
「う.......それは.....」
「もう過去なんてどうでもいいんだよ。誰かが誰かを羨み、憎しみ、恨むのなんて、珍しい話じゃない。そんなのVtuber世界でなんてしょっちゅうだろう。ファンとして言いたくはないけどな。けど、それが事実で、それはVtuber界だけじゃない、芸能界や色々な店同士でも言えること。要は、戦争だな」
黙って、楓さんは自分の話を聞いている。俺は話を続けた。
「だから私が言いたいのはさ、楓さんみたいなのはいるんだよ。いや、人の大半がそうだよ。だからって安心しろとは言えないよ。けれど、そんなのを理解しているから私は楓さんの気持ちがわかるんだ。だからそんなに思い詰めなくていいんだよ。それに、私だってその人間だ」
「え?」
「そりゃ、羨んだり、アンチ達を憎んだりする」
「...............では」
そう言って楓さんは、手を出して。
「よろしくお願いします」
私の手を、握ったのだった。
「と、ところで」
楓さんが何か呆れたような感じだったので、視線を追ってみるとそこには....
「流石にこの重要な話をしてる時にそれはない.....でもそうじゃなくてもダメだけどな!?!?」
自分の視線の先には、自分のプリンとハー○ンダッツを食べているもーねがいた。
「ちょっと話し合おうか」
「..........ごめんなさい?」
それからもーねには強烈な説教をした。
「ひ、酷い目にあった......」
「人のもの勝手に食べるからだろ。しかも自分のハーゲン食べてさ」
高いので食べられると普通に困る。
「金持ちなんだからいいじゃん」
もーねがそんなふざけたことを言うので、
「そう言う問題じゃないでしょ⁉︎またお仕置きされたいのか?」
そう言うと、
「本当にすいませんでした」
そう言って、もーねが土下座をしたのである。
「おいやめろ⁉︎俺が悪者みたいになるじゃねぇか⁉︎」
「ニヤリ」
口でニヤリとか言ってんじゃねぇよ。ほんとに反省してないなこいつぅ....。
ー閑話休題ー
「と言うことなんで、一緒に朝食食べません?」
俺は楓さんを朝食に誘う。
「いいんですか?」
そう、楓さんが言うので、
「普通にいいですけど....それに敬語は入りませんよ。自分の方が年下ですし」
自分がそう言うと、
「は....う、うん。わかった」
よし。この方がなんかいいわ。
横を見ると、懲りずに自分のモンスターを飲んでいるもーねが目に入った。
「もうこのバカは置いて、朝食食べに行きましょ」
そう、俺が楓さんに言うと、
「う、うん」
楓さんがそう言って、玄関に向かう。
「ちょ⁉︎」
もーねがそう言いながら、慌てるがもう遅い。
俺らはもーねをおいて、お気に入りのレストランに向かった。
「それでお気に入りって、なんかおすすめのものあるの?」
そう、向かっている途中で楓さんに聞かれた。
「いやぁ....そのレストラン、作業厨の人に人気の場所なんだよ」
そう俺が言うと、
「え?作業厨の方に?」
と聞かれたので、
「うん。モンスターが頼めるってことで超有名なんだ。作業厨にはね」
「へ、へ〜...........」
その後、もーねが鬼電してきたので、全部奢るならきてもいいと言うことで交渉した結果、交渉は成功。
もーねの財布だけが貧しくなるだけになった。
「あえかちゃんってやることえげつないね....」
「ん〜、自分はどっちかっていうとMなんだけどなぁ.....」
「え⁉︎」
すごく楓さんに驚かれてしまった。何かおかしなことを言っただろうか。
「んまぁ、私たち払わなくてもいいし、存分に食べちゃいましょう」
「.........そうしよっか」
楓さんは考えるのをやめた。
*
「誕生日だってのに.........会えないのかなぁ.......せめて2人きりで花火を見たかったのになぁ....」
何かが始まろうとしていた。
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