第43話 もーねの過去

43話


さてと....。

追い詰められたなこれ....。

まじでどーしよ。

左肩を損傷してるからまじでやばいんだよねぇ...。

このままだと、失血で動けなくなるし...。

「そろそろ諦めたらいいんじゃない?」

「嫌だね。あんたを止めるためにも死んじゃだめなんだわ」

そうやって、なんとか時間を稼ごうとするが、やはり楓さんは頭がいいので俺の考えも見透かしているようだ。

何かないのか...?

さっき楓さんは揺らいだ。

きっと何かあるはずなんだ...。

なんだ.......考えろ.....................ん?

そういえばなんで........あの時できたはずなのに....。

「ひとつ聞いてもいい?」

「..........」

彼女が銃を構えるのを一時的にやめた。

「本来だったら、私がもーねと出会ったあの日。もーねを殺すつもりだったんだろ?」

「......そうよ。本来なら、私......お姉ちゃんの復讐は終わるはずだった」

「だろうね。あんたほど頭のいい人間が、あんな絶好のタイミングを逃すわけないだろうし」

「そうよ。それなのに、あえかちゃん.....あなたが現れてしまった。まだその時のあなたはそこらへんの小学6年生と変わらないと思っていた」

「しかし、私が英語ができることが仇となり、もーねが交番まで行ってしまった」

「ええ。そのせいで私の計画は潰れたの」

やっぱりおかしい........やっぱりおかしいんだよ楓さん。

「おかしいよ」

自分は無意識にそう呟いていた。

「何がおかしいの」

楓さんは銃を私に突きつける。

「あんたほどの人間が........人が意外にも来やすい場所なんかで殺人なんかするわけないんだ」

「............」

「だって、あの場所は。入り組んではいるけどいく順がわかってれば、学校まで最短の距離の道。私のような遅刻ギリギリの子供が使うのが大体。しかもあの場所は学校まで一本道。私のような遅刻寸前の子が来ないと言うのを頭に入れておかないのはおかしい」

「........たまたま頭に入ってなかったのよ」

そう楓さんは言った。しかし、表情には出ていなものの、図星といった感じだった。

それに...

「ずっと自分ともーねはいたわけじゃない。確かに、私が楓さんの家にきた時は私がもーねと楓さんが一緒にいたこと。そしてその家は楓さんの家ということ。楓さんの家でもーねの遺体が見つかったりでもしたら、一番に疑われてしまう。けど...別にその後、別の場所でもできたはずだ。私の家に来る途中のもーねとかね」

「............」

「だからおかしいんだよ。貴方の行動が。計画が」

私は楓さんを見つめてそう告げた。

「……………………」

相変わらず楓さんは黙ったまま。

「俺には分かるよ。もーねと仲良くなって隙を突くような形で殺そうとしたんだけど、もーねと仲良くなって迷い始めたんだよね。もーねに復讐していいのか……って」


そりゃそうだ。

そう訴えかけているような顔を楓さんはした。

元々もーねは悪くないんだ……。

楓さんだって根はいい人だし……。

「これじゃダメなんだよ……かなでさんだってこんなこと、望んでないんだよ」

「貴方に何が分かるというの」

その声からは怒りが混じっていた。

「分かるに決まってるだろ。何年3人のファンやってると思ってるの?」

「………………」

「もーねは絶対そのことに気づいて苦しんでるだろうし、かなでさんは、かなでさんで家族を心配させたり…もーねを苦しませていることに負い目を感じていると思う。けど復讐なんて望んでないはずだよ。そして……」

1拍開けて……

「そして、楓さん貴方も。本当はこんなことしたくないんだよね。もーねが好きなんだもんね」

「そ、そんなこと……」

また言い淀んだ……。

「楓さん……もうやめようよ。私も楓さんももーねとたくさん過ごした似たもの同士でしょ?」

「…………もうここまで来たらやめられないの」

楓さんがそう言った。その時だった。


ギィィィィィィ


この部屋の扉が開いた。

そこに居たのは………………


「もーね!!!!!!」

そう。我が至高なる推しである、もーねだった。



ー数十分前ー

「うーん……ここで合ってるのかなぁ……?」

私は町外れにある館……ではなく施設?にやってきていた。

理由はあえかちゃん奪還。

「よーし!とっととあえかちゃん取り戻すぞー!」

私はそう言うと、中に入っていくのだった。


ー数分後ー

「この部屋かな……?」

部屋が沢山あるが、どの部屋にあえかちゃんがいるのかまでは分からない。

正確な居場所はあのパソコンでないと分からない。移動してるっぽいし。

「考えるのはめんどくさい!開けちゃえー!」

バーンと、扉を開けた。

そこはどうやら誰かの部屋のようだ。

「……地図とかないかな……?」

この施設、外観だけでも大きかったので迷子になったらミイラ取りがミイラになってしまう。

なので、地図がないとまずいのだが……。

「この机の引き出しとかに入ってないかな…」

引き出しを開けてみると、そこには…………



「私の写真……?」

そう。私の写真が入っていた。

そして、それと同時に復讐とも書かれている紙があった。


「復讐」

その言葉には身に覚えがあった。

「……………………かなちゃん……」

そう。私の親友にして同期だった鏡見 かなで。

……………もしかしてかなちゃんがあえかちゃんを?


…………いやないない。かなちゃんは今は入院中なんだし。それに、かなちゃんがそんなことする訳ない……。

だとしたら……………かえちゃん?

そ、そんなわけないよね。


しかし、私は復讐と書かれている紙の最後を見て絶句してしまった。


署名 餅木 楓


そう書かれていた。


何度も何度も見直した。

それでも、文字が変わることも滲むことも、なくなることもなかった。

あーあ....また私は恨まれてたのか.....。

私は過去のことを思い出していた。



私は昔から、コミュニケーションスキルが良くて、友達がたくさんいた。小さい時は友達が多いというだけで済んだ。けど、小学5年生から少しずつ男の子たちが女の子としゃべらなくなっていく中、私だけは違って、男の子たちみんなが話しかけてきた。もしかしたら、その時から女の子たちから妬まれていたのかもしれない。

中学からはもうダメだった。

みんなが付き合い始めていた。しかし、まだ男の子たちは話しかけてきてた。

きっと、この頃からlikeからLoveに変わってたんだと思う。

私の女友達の好きな人の中には、私に話しかけてきている男の子もいるわけで...。

それから私の女友達は私を妬み始めて...........次第に私に話しかける女の子....女友達はいなくなった。

それから私は次第に学校にも行かなくなった。

それから自分を呪った................。

なんで、自分だけこんな目にって....。

私だってこんな目に遭うぐらいなら全然コミュニケーションが高くなくていいよ...。

それから家に引きこもってから出会ったのがVtuberだった。

Vtuberにはそういうのがないから、どんどん惹かれていって、気がついたら<木漏れ日>に所属していた。

でも...........やっぱり事件は起きてしまった。

私のせいで、同期達に私のリスナーが荒らすようになってしまった。

理由は、私がコラボ企画に連続で出なかったから。

別に省かれていたわけではなく、案件の積み重ねでボイスやら告知やらに追われて出れなかっただけで、それをリスナーのみんなに伝えたんだけど、一部の過激派はそれでも収まらなくて.....。

次第にみんなのチャンネル登録が止まって....みんなのリスナーも来なくなり始め、みんなが卒業していく毎日。

でも、かなちゃんだけは違った。ずっと耐えて、毎日楽しそうにしてた。

荒らしの元凶である私にも積極的に話しかけてくれて..........。

でも、そんな楽しい日々もそう長くは続かなかった。




かなちゃんが刺されたという話を聞かされた。

そして、かなちゃんは<木漏れ日>1期生を卒業した。


全部私のせい。恨まれても仕方がないと思ってる。だって彼女達の夢を潰したのは私。恨まれてたって仕方がない。


..........................................今まで考えないようにしてたのに.......。

いや。そんなことないか。ずっと考えては悩んで自分を何度も嫌いになった。

今も嫌い。


自分はあえかちゃんの隣にいることすら憚れる。

あの子はほんとに生き生きしてるって感じがする。

けど、時折見せるあの雰囲気....なんなんだろう。

なんにせよ、私とは全く違う人間..............女の子.....ってこと。

そんな彼女は私と一緒にいてくれた。


..........百合厨のみなさんにも感謝だ.....私の過激派リスナーのことを弾圧してくれてるから。


.................もっとあえかちゃんと一緒にいたい。

まだ、あえちゃんって呼んでいいか許可もらってないし。

したいこと山ほどあるのに..........。


その時、銃弾の鳴り響く音が聞こえた。

私はその音を頼りに、廊下を進んでいく。

そして、大きな扉が見えた。そこを開けると........。

「もーね!!!!!!」

「あえかちゃん‼︎‼︎‼︎」

あえかちゃんがそこにいた。

.........銃を構えたかえちゃんと共に。



「形成逆転.......とでも言いたいの?」

「実際にそうでしょ?」

俺は少しだけ挑発してみる。もーねがきて少しだけ余裕ができたのかもしれない。

「まぁ......お遊びはこれくらいにして」


ーバン


「は?」


左胸を見ると血が滲み出ていた。

「やられたわこれ......」

.........こんなことやっても無意味だとなんで気づかないんだよ.......楓さん。

あなたのやってることはあなたのお姉さんがやられたことと同じなんだよ.......。


私は床に倒れた。

床が真紅の色に染まっていく。

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