第42話 万事休す
「ん...」
目を覚ますと、そこは何かの施設のような場所だった。
「起きた?」
そう聞こえて、その先を見るとそこにいたのは、
「楓さん....⁉︎」
そう。そこにいたのは餅木 楓さんだった。
なんでだ。なんで彼女がここにいるんだ。
自分は今使える最大まで頭を使って考えたが、わかったことは一つだけ。
「あなたが私やもーねを殺そうとした黒幕ってわけか」
そう言うと、
「大正解」
楓さんはそう言いながら拍手をした。
なんで...彼女ともーねは親友だったはずなのに...。
「なんで...という顔をしているね」
見透かされてる...。
「まぁ、これからあえかちゃんは死ぬんだし、冥土の土産に教えてあげるよ」
いつまでもびっくりしてられない。時間を稼がないと。
「もーねは1期生なのは知ってる?」
「そりゃもちろん」
もっとも、もーね自体が1期生と言うのも言われるのも嫌いだということで、誰ももーねを1期生だとは言わないけど。
そのせいで、もーねが何期生なのかわからない人もいるが....空気を読んで誰も聞かない。
「1期生には他にも人がいたのを知っているよね?」
「何が言いたんだよ」
「もうわかってるんじゃない?」
そう言われて私に最悪の考えが頭をよぎる。
「あるはずだよ?信じたくない憶測が」
..............信じたくないその憶測を。
けれどそれ以外思いつかなかった。
「1期生の大量卒業の原因はもーねだと言いたいんだろ?」
ある日、<木漏れ日>から1期生が誕生した。
そのリーダー格がもーねだった。
最初は順調に見えた1期生たちだったが、ある日から1人、1人、また1人と卒業していった。そして気がつけば、1期生はもーね、ただ1人となってしまった。
当時俺は、卒業理由などは体調なんかだと思っていた。
けれど今考えると、もーね以外のチャンネル登録者の伸びがおかしかった気がする。
体調だけだったらチャンネル登録の伸びがおかしいなんてことは起きないはずだし。
「あえかちゃん、大正解だよ。そして........その中にお姉ちゃんもいたんだよ」
急に楓さんの声が小さくなる。
そんなことより、お姉ちゃん.....?
1期生の中に餅木なんていたか.....?
..........いや彼女はVtuber。本名じゃない....だとしたら..........
「ぁ」
その瞬間、一つの記憶が脳を遮る。
——「あたしさぁ.....妹がいるんだよねー」
——「ほんと⁉︎」
——「ほんと。この<木漏れ日>にいるんだけど....」
................「鏡見 かなで」。
1期生でもーねの次に人気だった人だ。
この人はある意味有名だった。可愛いというのもそうだろうが、そこじゃない。
この人は、ガチ恋勢を嫌っていて、「あたしを好きになるぐらいなら、もーねとか好きになっとけ!」など、ガチ恋勢に対していつも喧嘩していた。
ガチ恋勢......しかも自分のガチ恋勢とガチガチに喧嘩する人なんて、彼女だけだった。
その媚びない姿勢、そして喧嘩をしているが根はすごく優しいことが配信で分かるために、ガチ恋勢を嫌う人でもあり、ガチ恋勢を量産している人でもあった。
1期生の中で異質であり、そしてもーねと一番仲が良かった。
まさに自分のようなポジションだった。
1期生が消えていく....卒業する中、彼女だけは耐えていた。
1期生がもーねと彼女だけになってから、1ヶ月、2ヶ月と。
しかし、3ヶ月目の最終日。事件は起き、彼女は卒業してしまった。
「楓さんのお姉さん........かなでさん........でしょ?」
そう問うと、
「そうよ‼︎‼︎」
今までの恨みが爆発したかのように、さっきとは一変して楓さんは大きな声を出した。
「もーねはお姉ちゃんの未来と夢を奪ったんだ!!!!お姉ちゃんが、Vtuberになるのが夢だった。頑張ってこの大手企業の<木漏れ日>に入れたのに.......たった数ヶ月で卒業!!!!!全部もーねのせいだ!!!!」
........俺は反論できなかった。
なぜなら本来なら、彼女は卒業しないはずだった。しかし、もーねのリスナーに刺されてしまった。ちなみに今は入院中だ。
死にはしなかったものの、命が危ないということからということで、事務所や家族からしつこく卒業を勧められたため、やむをえず引退したとのこと。
そのことだけはずっと覚えていた。
あまりに悲惨で許せなかったから。
俺は、このことをとあるサイトで知った。
「けど.........私は反論するね」
「.......何?」
「それは間違ってるんだよ」
「.........何が間違ってるって言うの?」
「3人のリスナーとして言わせてもらう。もーねが!ほんとに悪気があってかなでさんを陥れたとでも本当に思ってんのか⁉︎」
「当たり前でしょ⁉︎」
「んなわけねぇだろ⁉︎..........一番傷ついているのはもーねだよ」
もーねが.....何も思ってないはずがないんだ。
数ヶ月にして1期生達が卒業したんだ。
特に....大の親友が刺されたんだ..........それも自分のリスナーがやったことだ。
「もーねのこと考えたことあんのかよ!自分の同期が目の前でいなくなって。1番の親友が刺されて。どうしようもなくて」
「......っ」
「彼女には悪気なんかないんだ。だからこそ彼女が自分のことを重く捉えてるんだ。悪気なんかないから罪悪感だってあるだろうし、悩んだはずなんだよ」
「そうやって罪悪感があればそいつは悪くないとかいうとんでも理論でしょ?馬鹿馬鹿しい」
「...............楓さんにはもう何も響かないんだね。私はただ平凡にもーねを過ごしていたいだけだったのに....あのもーねと楽しそうに配信していた楓さんは、演技だったわけね......」
「..........っ.....」
微かに楓さんは揺らいだ。
「楓さんだって、もう分かってるんでしょ?もーねに悪気があったわけじゃないって」
「……ぅるさい……うるさぃ……うるさい!!!!!!」
「うるさいうるさい言ったって何も変わらないんだよ!!!!!!こんなことあんたのお姉さんだって望んで無いはずだ!!!!!!」
俺は楓さんに訴えかける。
「もう御託はいいの。あんた達2人を殺せばいいのよ……お姉ちゃんの夢を壊した罪を償って」
………これ以上は話し合いは無理かもしれない。
「それじゃ、死んでもらうわ」
そういうと楓さんは懐から拳銃を取り出した。
「……またまたオモチャを取り出して…」
そう言った瞬間、髪に銀色のものが貫通した。
「これは遊びじゃないのよ。あんたをやらなきゃもーねをやれない。だからまずはあんたから」
するとまた発砲された。
完全に私を狙いにきていたが、紙一重で躱す。
弾丸の速度とかそういうものは前の時に学習済みなんだよ……。
かといって、打開策があるかと言えば、ない。
楓さんを倒したところで、外には護衛などがいるだろう。俺に勝ち目は無い。
「だからって、何もしないわけないけどな」
私は、物陰に隠れた。
なにか無いか、手探りで探す。
これはチンたらしてる場合じゃないな……。
<本気>を使わないと……。
*
ー数時間前ー
あえかちゃんと連絡がつかない……。
それで、家にも帰ってきてないとのこと。
何か巻き込まれたんじゃないかと思って探していた時に……
「…………これ」
人が全く通らないであろうその路地裏には、もーねちゃんのつけている髪飾り、スズメウリが落ちていた。
「……きっと何かあったんだ」
私はそう確信した。
あのあえかちゃんが落とすわけない。落としたとしても絶対気づいてる。
「だとしても、情報がない……」
あえかちゃんがどこに連れ去られたのかも、誰がやったのかも検討がつかない。
「あえかちゃんの部屋に行けば何か分かるかな?」
そういうことで私はあえかちゃんの部屋に向かった。
ーあえかの部屋ー
「ここがあえかちゃんの部屋……って来たことあるのに何だこの反応……あえかちゃんが居ないからだろうか。なんか新鮮」
ってそんなことはどうでもいい。とにかくあえかちゃんのことについて調べないと……。
ー数分後ー
「色々探してるけど居場所に繋がりそうなものは無いなぁ……やっぱりパソコンかなぁ……?」
パソコンを調べるとパスワード入力が出てきた。
「やっぱりかけてるか……あえかちゃんだし分かってたことだけど……」
パスワード聞いておけばよかったぁ……。
あえかちゃんの事だし結構捻ってると思うんだよねぇ……。しかもこのタイプ、連続してミスると一日ロックがかかるやつだ。
「…………ダメ元で私の誕生日でも打ってみるか……?」
0603……っと。
「あ、開いちゃった……」
私の誕生日をパスワードにしてくれてたの…?
可愛いとこもあるじゃん……後でハグしよう。
「それより、調べないと」
そう言うと、私はパソコンの中を調べ始めた。
「うへぇ……切り抜きファイルがざっと72個もあるよ…………小説ファイルは41個……これは関係なさそう……」
それからどんどんとファイルを厳選していく。
ー数分後ー
「残るファイルは、極秘ってやつね」
そのファイルをクリックすると……
「また、パスワードか……」
もう分からない……なんかヒントとかあったかなぁ……。
そんなもの無かったように感じる……あ。
603に207で引いてみたらどうだ…………?
私の誕生日にあえかちゃんの誕生日を引いた数を入れてみたが……
「BINGO!ロックを解除できた」
逆に安直すぎて罠なんじゃないかと疑ってしまう。
それだけ自分のことを大切に思ってくれてるってことだろうか。
そう考えると嬉しいな。
「またやっちゃった。手がかりを探さないと....」
中を見ると、<転生1>とか、<TS転生>とか意味わからないことが書かれてたけど、どれも今は必要なものではない気がする。
.........ぁ。
「<最悪の事態>......ってやつが怪しい。中を覗いてみよう」
<最悪なことが起きたのでスマホからここに転送しておきます......ってこんな堅苦しい言い方はやめよう。どうせ、これを見てるのはもーねでしょ?だから改めて伝えるね。 座標は伝えるけど、絶対もーねはこないで、警察を呼んで。お願い。この前俺らを襲ってきた黒幕と会ってくる。だから、よろしく。
ps:帰ってきたらどっか遊びに行こう
.........行こう。
そこに一緒に映し出されていた座標をメモって私はそこへ向かい出した。
*
「万事休すかも....」
俺は追い詰められていた。
「そろそろ死んでもらおうか」
ジリジリと距離を詰めてくる楓さん。
「.......っ」
流石に銃相手に避け続けるのは至難の業で、体力を相当使う。
もう体力もなくなりかけていた。
そもそも、俺は頭脳以外平凡なんだから当たり前か。
「それじゃ、さよならです」
そう言って俺に銃を向ける。
そして....
バン‼︎‼︎
「.....っっ」
あ、危なかった.....。
「まだ生きているとは本当にしぶといです。しかし」
そういうと、楓さんは俺の肩を見て笑う。
「くそっ....」
急所は避けたが、左肩が鉄の塊でぶち抜かれた。
そのせいで左肩が使えない。
この前みたいに鉄板なんてないし....十分な距離もない。
せめて5メートル以上は距離をとっとかないと避けられない...。
まじで万事休すだな。
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