最終章 明かされる様々な真実。そして、お別れ。
第41話 動き出した時間
今は、もーねの家でゴロゴロしている。理由は暇だったのと...いや、それしかないな。
「そういえばさ」
もーねが唐突に話しかけてきた。
「ん?」
あまり重要な話ではない気がした俺は気の抜けた返事をした。しかし、
「あえかちゃんてさ、なんか胡桃ちゃんと関わろうとしないよね。なんか何かに配慮しているというかさ」
.....もーねにしては鋭いことを気づくじゃないですか。
「そりゃ、この前襲われたんだよ?襲ってきた人間にそんなに関わろうとはねぇ...?」
と、さりげなく嘘をついた。しかしこの日のもーねはなぜか勘が鋭くなっていた。
「じゃあ、なんで胡桃ちゃんが謝りにきた時に許したの?胡桃ちゃんを」
「え?いやだってそれは」
「それに、そんなことを言っている割には自身の家に入ってきても平然としてるし」
「あ...」
やべ、そうだった...。
「それに、何回も襲われてるのに怒る素振りすら見せないし、あえかちゃんは別に怒らない寛容な心の持ち主ってわけじゃないし...」
最後のもうちょっと別の言い方あったんじゃないのか?
すると、もーねは顔をすごく近づけてきて、
「あえかちゃん。何か隠してるでしょ」
「え.....そそそそそそんなことないよ」
「嘘隠すの下手だね...」
「........なにも隠してないよ」
「じゃあ、胡桃さんに対しての天邪鬼みたいな対応はなに?」
「あのえっとその...胡桃さんって根はいい人だって知ってるから...かな」
よし。うまく切り抜けたぞ...。
しかし、今日のもーねの冴え具合は異常だった。推しに異常とか言いたくないが。
「じゃあ、胡桃ちゃんはわかったよ。確かに襲われてるからね?まだわかる」
「じゃ、じゃあ...!」
そんな覚醒しているもーねを俺は誤魔化せなかった。
「はなさんはなんで?別になにもされてないよね?それなのに胡桃さんとほぼ同じ対応っておかしくない?」
...........痛いとこ突かれたぁぁぁぁ...。
「......はぁ。もうわかったよ言うよ」
「やっぱり何かあるんだね?」
両手を上げ、降参した俺は隠していたことをもーねに話し出した。
「この話は2人に悪いから、誰にも話したくなかったんだけどなぁ...2人で解決する問題だし...。特にもーねだけには言いたくなかったんだよ」
「なんで?」
「さっき言った通り、2人で解決すべき問題だからだよ。もーねってそういう問題に対してお節介したくなるでしょ?」
「い、否めない...」
「それで私の知っていることは....」
——「そんなことがあったんだねぇ」
「ね?2人の問題でしょ?」
「確かにこれは2人の問題だね」
「なるほどね。あえかが2人にあんまり関わろうとしないのはそういう理由があったからなんだね」
「うんそうだよ」
*
「どんな方法でも構わない。この人物を始末して欲しいんだ」
私は集まった者達にそう告げた。
「まさか、今回のターゲットがあのアエカちゃんだなんてな」
彼らの1人がそう喋る。
「今回のターゲットは最重要ターゲットの1人だ」
私はそう告げる。しかし、疑問を抱いた1人が訊ねてきた。
「なぜあのアエカちゃんが最重要ターゲットに?確かに貴方にはアエカちゃんと関係がないとも言い切れず、ターゲットになることはあると思うんですが、最重要になるなんてことあるのでしょうか。貴方に何かしたという噂は聞きませんが」
まぁ、ごもっともな意見だな。
「私の最重要ターゲットにもーねがいるのはわかるよな?」
「それはもちろん」
「最重要となっているが、私はもーねが殺せたらそれでいいんだ。この前、私は一度一般人に誘拐をやらせたが、防がれてしまった」
「それがアエカちゃんってわけですか」
「ああそうだ。それからも、もーねを守っている。そして頭脳に関しては私をも上回ると情報屋が言っていた」
「貴方を上回る⁉︎」
彼らがザワザワと騒ぎ始めた。
「彼女を排除しない限り、もーねを殺すことはできないと私が判断した。そのために最重要ターゲットとしたのだ」
「なるほど」
「だから彼女に関しては、私のところに連れてくるのがベストだが...。まぁもーねを守れない状態なら何でもいい。生死も問わない」
そうして、彼らは各自で彼女を殺す準備を始めたのだった。
*
「なにかが動き出した気がするんだよなぁ...」
「どうしたの?」
もーねがそう言いながらひょこっと出てきた。
「いやなんか、いやな感じがしてさ」
「いやな感じ?」
もーねが頭を傾げる。
「なんか、うまくは言えないんだけど....とにかく今日から3日、人生で一番になりそうなぐらいやばいことが起きそう」
「なにそれ...」
「今までの出来事で培った勘」
もーねが思い出を振り返るように話す。
「まぁ、今までにいろいろなことあったもんね」
「まぁそうだね」
*
この思い....どうすれば伝わるんだろう。
私は怖くて仕方がない...。
私がどう見られているのかも分からないから。
私はたくさんの時間、彼女と一緒にいるくせに、彼女のことを何にも知らない。
あれが好きだとか、こんな性格だとか。そんな薄っぺらいことしか知らなくて。
彼女の思ってることなんて全然理解してないのだ。
私はそれを理解しようとしなかった。
理解するのが怖いから。
それを....私のことを、好きじゃないと知った時が怖いから。
私は知ったフリをしてなにも聞かないようにしてた...。
そうしていつも逃げてた。
「ほんと...どうしよう」
*
「.........」
いやな予感...か。
あえかちゃんも消えちゃうのかな。
みんなして私を1人にするんだ。
一人...また一人消えていく。
私と仲良くなった人はみんな消えていく。
今、あの頃と同じくらい楽しい毎日で、あの頃が戻ってきたように感じるけど...。
きっとあえかちゃんが消えたらまた元通り。
あえかちゃんも私を嫌うんだ。
そして私から離れていく。
私は私が憎い。恨まれたって仕方がないんだ。
Vtuberなんてほんとはもう続けたくなかった。
けど、その罪悪感が私を辞めさせてくれない。
彼女達の分までやらなきゃっていう罪悪感が。
けれどもういいんだ。そんな罪悪感なんて。
もうやめよう。Vtuberなんて。
——私は、Vtuberでいる私が一番嫌いだ。
*
もーねと別れた後、私は一息つく。
「.....」
タイムリミットが近い。そう感じる。
俺は少しずつ俺じゃなくなっているように感じる。
記憶がなくなってきているように感じる。
思い出せたはずのことが思い出せなくなってきている...。
もーねとどこで出会ったのかも曖昧で、家の前なのか学校前なのか、はたまたその中間なのかあまり思い出せない...。
<本気>を使っても思い出せなかった。
「そろそろ潮時なのかな」
私が俺でなくなるのも近い。
つまり、俺の本当の死ってわけだ。
いや...あの可能性もなくは....んな訳ないか。その可能性は忘れよう。
私は最後の時間を楽しむとしよう。
ー次の日ー
「ん〜いい朝だぁ」
目を覚まして早々そう自分は言った。
「.....あと3日ってとこかな」
記憶がまた消えている。
「まぁ、いいか」
自分は着替えて、出かけることにした。
今日はなぜか学校が休みだ。
「うーん。何か楽しいことないかなぁ」
街を歩いて回っているが、道行くロリコンから「可愛いなぁ...」と見られるだけである。そういう風に見るだけなら別にどうとも思わない。自分もそうだし。
手を出してきたりしたらそれはロリコンではなく幼児性犯罪者だからな。
あれ?前にもこんなこと言わなかったっけ?
......誰に言うんだ....?この癖もいい加減治さないとな...まぁ残り3日だしこのままでもいいか。
「もーねに会いに行こうかな」
ーもーねの自宅ー
「もーね〜....って」
「...はい...なるほど...やってみます」
なにやら誰かと電話しているみたいだ。盗み聞きはよくないし、終わるまで待ってるか。
それにしても、もーねがかしこまった喋り方で喋ってるのは珍しいな。つまり、目上の人ってわけか?....まぁこれ以上わかることないし、あとはもーねに聞いて見るか。
ー数分後ー
「あれ?あえかちゃん来てたの?」
「うん。数分前から来てたんだけど、電話してたし、盗み聞きは悪いかなって。誰と電話してたの?」
「あー....マネージャーさんだよ!」
もーねはそう言った。
「ふーん。まぁ、Vtuberだしね。色々と案件とかあるよね。実際私もそうだし」
「え?あえかちゃんてマネージャーとかいないけど、案件とかどうしてるの?」
不思議そうな顔でもーねが聞いてきた。
「そりゃ、私1人で対応してるよ?今までそうしてきたし」
すると、もーねがびっくりしたように聞いてきた。
「え⁉︎それって大丈夫なの?案件って色々大変でしょ?疲れたり困ったりしてない?」
「なにせ、私はすることがないからなぁ... 強いて言えば学校ってぐらいだし」
「でも....まぁ、無理しないでね」
心配そうにもーねがそう言った。
「うん。大丈夫だって」
親指を立てて、大丈夫!の合図を私はしてみせた。実際大丈夫だし。
「そういえば、あえかちゃんって女の子なんだよね?」
そんなことをもーねが聞いてきた。
ん?どう言うこと?もしかしてバレてる...?
俺が理解できないと言うような顔をしていたのだろうか。
俺が困っているとわかったのか、もーねは発言を訂正した。
「ごめんごめん。そんなファンタジーみたいなことじゃなくてさ。トランスジェンダーみたいな感じのさ」
「あ〜なるほど」
なるほどね。確かに私の言動が言動だし。疑問に思っても仕方がないかも。
「安心して?自分は女の子だよ?」
「.....!?」
スマホをいじっていたもーねの顔が少し驚いた顔になった。
「どうかした?」
俺は聞く。
「....い、いや何でもないよ」
なんか言い淀んだ気がしたけど、気のせいだろう。
その後もなんか色々なことを聞かれた。
「昨日の夜、夢を見たんだけどさ...あえかちゃんが消えちゃう夢なんだけど...あえかちゃんって消えたりしないよね?」とか。「Vtuber辞める予定ってある?受験とかでさ」とか。
自分は「消えないし、辞める予定もないよ。休止はあるかもだけど」とだけ伝えておいた。
.....あえかは消えないけど、俺は消えるんけど。まぁ、言わなくていいだろう。
「まぁ、なんか忙しそうだし帰るね」
「なんかごめんね」
もーねから謝られた。
「全然いいよ。確認なしで来たの私だし」
そう言って、もーねの家を出た。
ー普通の道ー
「............」
もーねの家を出てから少ししてからだ。
つけられている。
俺は気づいていない素振りをしながら家へ向かう。
.........可能性としては、俺のストーカーか、それとも、この前もーねを襲ったあいつに依頼したやつか。
いやぁ....後者の方が確率高いんだよなぁ...。もーねの寝顔でも拝んでおけばよかったかなぁ...。
私が人気のない路地裏に入ると...。
「出てきてくれない?」
「なんだ。気づいてたのか」
暗殺者という名に相応しい格好をした男....ではなく、見た目は一般人の男が現れた。
「そりゃあ、一回殺されかけたんだからね。警戒ぐらいするさ」
そいつを睨みつけて私は牽制する。....自分に戦う術が今ないことを悟られたらまずい。
「それはそうか。流石は最重要ターゲットだ」
「お褒めに預かり恐悦至極....じゃないよ。自分を殺そうとする奴に褒められて喜ぶわけねぇだろ」
と、1人ツッコミをして相手を油断させようとしたが、流石は暗殺者と言ったところだろう。眉ひとつ動かさない。それはそれで癪に障るけど。
「で?さっきも言った通り、自分を殺そうとしてるんでしょ?」
「だったらなんだ?」
「自分さぁ、もーねにまだ告白してないからさぁ...見逃してくれない?」
そう言って、両手を合わせてお願いしてみる。しかし、
「見逃すわけがないだろう」
失敗。そして、
「時間を稼いで打開策を考えているようだが、残念だったな。お前のことを全て筒抜けだ。お前が優れた頭脳以外そこらの女児と変わらないということがわかっている」
....クソっ。それがバレてるんなら勝ち目が...。
「では、私も仕事をさせてもらおう」
すると、やつは構えた。
「普通に最後までもーねと過ごしたいだけなんだけどなぁ...」
何でこんなことに巻き込まれにゃならんのか。
「.......」
やつは動かない。なぜだ...?まるで罠にかかるのを待ってるような......後ろ⁉︎
しかし、気づいた時には遅く、俺は....
「ん!?!?!?!?!!?」
口元を抑えられて、意識が朦朧とした。
「よし連れて行くぞ」
それだけ聞こえて、俺は完全に意識がなくなった。
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