第13話 誘拐犯と俺 後編

俺はできる。そう確信していた。弾丸なんてなら避けられる。

「それじゃ、覚悟しろよ?」

奴が俺を殺すつもりはないことがわかっているので恐怖なんて全くなかった。怯えている暇なんてない。

俺がしなきゃいけないことは奴の人差し指。あいつの人差し指が動いた時、はじまるんだ。その時をじっと待った。その時間は永遠にも思えた。しかしそれはやってきた。奴が人差し指を動かした。その瞬間俺はしゃがんだ。

そして、''バン''という音と共に弾丸が放たれた。しかし、俺に当たることはない。

殺すつもりがないんなら、肩をねらうのが定石だろうと思ったからだ。しかし俺はしゃがんでいたため当たらなかった。

そして、瞬時に俺はロールをした。またしても弾丸は当たらなかった。

「バカな奴だぜ。わざわざ俺の方に寄ってくるなんてよぉ‼︎」

こいつの言っていることがごもっともである。近づけば近づくほど、避けにくくなる。しかし、俺はしなきゃいけないことがあった。それは、

「こいつが欲しかったもんでね」

俺は転がっていた鉄の板を拾い上げる。だろう。

「そいつでどうするっていうんだ?」

ここからが勝負なんだよ馬鹿野郎。俺は鉄の板を構える。

そして、1発、2発、3発、4発...と、弾丸を受けた。当然ながら、貫通している箇所が何個かある。もう壊れそうな箇所もある。な部分もあった。

「大丈夫か?そんなボロ板なんか捨てて、普通に避けた方がいいんじゃないのか?」

「じゃあ、言っておこう。お前は今からこの板と私にやられるんだよ」

「そりゃみてみたいもんだぜ。やってみろよ」


いきがったはいいものの、正直賭けだ。けれどやる価値がある。

あいつはニヤッと笑うと、突如銃口をもーねに向け始めたんだ。そして油断した俺は一瞬判断が遅れて、避けきれなかった。脇腹が抉られてしまったんだ。

俺は一旦、鉄板を立てかけ、その陰に隠れた。

「今更ビビったのか?でももう遅い。お前も賭博に売り払ってやるからよ‼︎」

弾丸が乱射された。幸い、貫通したが当たることはなかった。

...あとはあの場所にさえくれば...。仕方ない。正直賭けだがやるか。

俺は、奴が弾丸を放った時、左肩にわざと当てた。これで左手が使えなくなった。

...でもいいんだ。これであいつがそこに撃ってくれれば...

その瞬間まで耐えた。やはり、避けづらくなっていた。弾丸が俺の頬を削った。

しかし、その時はやってきた。右肩を狙うその発砲が!

その瞬間走り出した。慣性の力を使うために。

そして足をあげ、''バン''という音と共に、弾丸を蹴った。


——弾丸は俺の足を貫通することはなく、弾丸は弾き返され、男の銃を壊した。

「な、なんなんだよお前は!弾丸を足で蹴って跳ね返すって。...っ!」

「気づいた?」

俺の靴の表面の穴から《《光沢のあるもの》》が顔を覗かせていた。

「ま、まさか。あの鉄の板か⁉︎」

「ご名答。そうこれはさっきの鉄の板」

そう。今までのものは全てわざとだった。


まず初めに鉄の板を持ち、わざと貫通させた。ばらつきがあるように感じる貫通した穴だが、実はほとんど端で受けるようにしたのである。

それは弾丸を弾き返すためには必須のことだった。

私がまず、体で弾丸を弾き返すためにはそれなりのパワーが出せる足一択となる。

しかし、人間の体は柔らかい。銃にとって人間の肉は豆腐のようなもの。足で受けたら、弾き返すどころか、止めることもできずに貫通してしまう。片方の足どっちかが使えなくなったらゲームオーバーな私にはそれは避けなきゃならなかった。そこでこの鉄の板が使えると思った。しかし、鉄の板を自分の靴に入れるほど繊細にちぎれる力なんて私にはない。だから弾丸を利用させてもらった。そして、ちぎった鉄の板を靴に入れるためにわざと喰らって鉄板の影に隠れる予定だったけど、それは大丈夫な誤算だった。そして靴に鉄の板を入れた。

ここからが問題である。何せは中学生で約125センチ。蹴ると言っても限度がある。

体硬いし自分。だから私の身長で足が届くのが右肩ぐらいの位置だけだった。だから、その時が来るまで、致命傷とはならない程度に弾丸に当たっていた。

時間がないから、そうするしかなかった。


「で?なんでこんなことしたんだよ」

鉄の足をもっている自分に殴り合いじゃ部が悪いと思ったんだろう。男は完全に戦う気力が抜けていた。

「俺は本当は嫌だったさ!けど、命令されてしょうがなかったんだ‼︎しなきゃ家族を殺すって...やるしか俺に選択は残されていなかった」

「誰だ?あんたに命令したのは?」

「わからない。突然メールが送られてきて、実家に爆弾があって。やらなきゃ爆発させるぞ...ってな」

この感じだと、家に監視カメラでもつけられていたんだろうな。爆弾を取らせないために。

「まぁ、事情はわかったけど、本物の銃使うってどういうことだよ」

もーねとか1回目の発砲を至近距離で聞いてるから気絶してるし。

「そんなわけなだろ⁉︎これは麻酔銃だって....」

「まぁ、騙されてたんだろうな。この赤い血を見てなんとも思わなかったのか?」

「俺は麻酔が赤い液体だと聞いていたからそれが漏れていたんだとばかり...」

なるほどね。こんなことをさせた首謀者は頭が相当キレるらしい。

「どうするのあんたは。通報する気はないけど」

「え」

「あんたに罪はないとは言えない。けど、もーね死んじゃいない。無理に自首しないでとも言わないが、私は別に怒っちゃいないし。もーねも多分同じだと思うし。どうするかは任せるさ」

しばらく悩んでいた彼だったが、

「いや。俺は自首するよ。罪は償わなきゃさ」

「そう」

「ただ」

「ただ?」

「いつ出所できるかわからないけど、罪を償えたら、君たちの配信に行ってもいいかな...?」

「なんだそんなこと....」

んなもん、決まってるよね。


「いいに決まってるでしょ!」


——Vtuberは夢のかたまりなのだから。


その後、彼は交番に行った。

「ふぅ...」

何はともあれ、もーねが無事でよかった。けど...

したなぁ...」

肩から滲み出る血を見てそう思う。どうやら肩の太い血管がやられたらしい。

「いやぁ、もーねは死んじゃいないけど、これは死ぬコース一直線かなぁ...あの人には悪いな...配信見せれそうに...ないわ...」

ここで追い打ちをかけるように視界が歪み始めた。どうやら時間切れのようだ。

し..かいが..ゆが..むむ....ななな..にもも...かん...ががえ..ら..られなな...い

..........................................。



——起きたら見覚えがある天井だった。


「起きたかい?」

「先生」

あの蘭野部先生だった。

「君、本当に運がいいですね。処理落ちと、大量失血で死ぬところだったんですがね。もうダメかと思ったんですが、なんとか耐えたんですよあなた」

俺が...?俺はもう諦めていたのに。....もしかして私...か?......ありがとう。

「それで?何があったんだい?」

それから俺は先生に事の顛末を話した。

「彼は、自首したみたいだよ」

「そうですか」

全力で彼を迎えるためにも体を治さないとな。そんな決意を固めている最中、勢い良く扉が開いた。そして、

「あえかぁぁぁぁぁ」

「うげぇ...ちょちょちょ痛い痛い‼︎怪我人だから私‼︎」

もーねが飛び乗って、抱きついてきた。苦しい...。

「だってぇだってぇ...」

その後、もーねが泣き疲れて寝ても解放されなかった。

まぁ、悪い気は...しなかったけども。

それにしても俺らのことを襲うように命令した奴とは一体誰なんだ。なんの恨みがあってもーねを狙ったんだ。そして...


——なんで俺がターゲットになんてなってんだ。


彼が使っていた連絡サイトには俺が最重要ターゲットになっている表示があった

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