第2章 後編 暗躍者と1人のオタク

第12話 誘拐犯と俺 前編


「..う...ん...」

目を覚ますと、それはなんか覚えがある状況だった。そう、もーねが寝ているのである。今は深夜らしい。おぼろ月の光がカーテンから差し込んでくる。

「ん?」

なぜか胸とか唇に違和感があるが....まぁ、なんか汗とかが伝ってたんだろう。

そういえば、こんな日だったんだよな。


——俺がまがいものだと自覚したのは...



「...ぼー...ぼー...」

ちなみにあれから一睡もできず、気づけば朝である。ほんと、女子中学生がしていい生活じゃないよな、まじで。

『...ん...おはよう....』

「あ、おはよ〜...」

『すやぁ....』

「いや寝るんかい」

まぁ、多分夜遅くまで付き添ってくれたんだろう。今起きた時に見えたが、目元にクマができている。...本当に彼女はさ.....。

そういえば、今ならもーねにイタズラできるのでは?.....やるか。

でもやるといってもなぁ...何しようかなぁ...流石に胸触るのはアウトだしなぁ...。触りたい気持ちもあるが、寝ている人にそんなことするのは友達じゃないしな。

.....よく見るともーねって本当に美人だよな。Vtuberとしての二次元の彼女イラストも可愛いけど、こっちもこっちで可愛いな。いつもはアメリカにもーねはいるから、しっかり顔見たことなかったんだよな。

「...スゥ...アエカ...もう食べラれにゃいヨぉ...」

「ふっ」

彼女の可愛い寝言に免じて今日のところは許してやろう。まぁ、朝食でも作りに行くか....。



『おはよう〜....』

「おはよう」

もーねが起きてきた。起きてきたばっかりからなのか英語にもどっている。

「朝食できてるし、あったかいうちに食べちゃおう」

「....‼︎ごハん‼︎‼︎」

さっきまで眠そうにしていたもーねだが、ご飯という単語を口にしただけで、眠気が吹っ飛んだようだ。半開きだったのに普通の状態に戻っている。本当に恐ろしい食欲よ。

「今日ノご飯は...?」

「今日のって、え?もしかして、私ん家にご飯食べに来る気?」

「エ?あえかが作りにキてくレるんじゃナいのか?」

「いやいやいや、私だって学校あるし....」

「たまにじゃダメか...?」

そんなキラキラした目で見られたら流石に....ファンとしては....

「わかったよ....」

OKを出さざるを得ない....。

あれ?もしかして俺ってもーねからお願いされたらどんなことも断れないのでは?


「ソれで今日ノ朝食は..?」


「あ、ああ。今日の朝食は、普通の味噌汁と胡椒かけ鮭、卵焼きと白米と、ポテトサラダだね」


「知ってルけど、食ベたこトない料理だぁ....」


「それでもーね?ご飯を食べる時にすることはなんでしょう?」


「いただきマウス?でしょ!私知ってるし!」

どこで覚えたんだそんなギャグ。絶対変なサイト見ただろ。


「いただきマウスじゃなくていただきますだよ」


「エ」


「ほらせーの」


「「いただきます」」


それからは他愛もない話をして朝食をとった。ちなみに自分が料理を作っている理由は親が早番だから必然的に覚えた。....そういう点では母さんに苦労をかけてばっかりだったなぁ...。


「ん、アエカの口に米粒ついてるゾ。ちょっと今取る...ってチょ⁉︎」


「いやちょ...!? 」


もーねがバランスを崩して倒れてきた。唇にもーねの吐息がかかる。つまりもーねの唇が自分の唇の至近距離ってこと。

その瞬間、俺は顔を逸らすが……


——チュ.........バタン


「エ⁉︎アエカ!?」


流石に刺激が強すぎ....まさかのもーねからキスされるとは……。

ほっぺとはいえ、刺激が強すぎた…。



——「今日のニュースをお届けします。昨日午後7時過ぎごろ、不審者が徘徊しているとの通報が。さらに、Vtuberが最近失踪する事件が多発していますが、その男の通報が相次ぐようになったのと時期が一緒なので、関連性があるとして警察は捜査を続けていくそうです。近隣住民の方は気をつけてください。特にVtuberの方は要注意を。次のニュースは——」


「許せねぇ....」


「まぁ、気持ちがわからないコともないケど...流石に犯人探しトかダメだよ?中学生なンだし、それにアエカは女の子ダし」


まぁ、そうだよな。俺が無理した時にもーねとか母さんに心配されたし。もうあんな顔はしてほしくない。その時、電話が鳴った。


「もしもし?」


{もしもしアエカちゃん?君を担当した蘭野部らのべ成太なりた医師いしだけど、覚えてるかな?}


「え?あの蘭野部先生ですか?」


{覚えていてくれて嬉しいよ。この前の診断結果だけど、完全に僕のミスだったよ。間違いがあったんだ。説明したいから12時ぐらいに病院来てくれないかな?}


「あ、おけです」


「で、ナんだったノ?」


「病院に来てくれってさ。この前の担当してくれた医師さんから。なんでもなんか間違いがあったらしい」


「ン〜。私もついテいっていい?」

え...どうしよう...まぁいいか。


「いいよ」



「ということできてもらって悪いね」


「いえ、全然」


緊張するなぁ....


「ちなみにそちらの方はどちら様かな?」


「ア!将来の嫁...じゃなかった。友達デス」

??????????本当に何をいってるんだこの人は?


「まぁ、そこには触れないでおこう。早速本題に入ろう」


「あ、お願いします」


「自分は多すぎた記憶は消されているといったが、あれは間違いだった。医者として恥ずかしい限りだが、人というのは30%程度しか普通、脳を使えていないんだ。だから、再度計算したが、君は普通の人の3%しか使えていないことになる。これが第1の間違いだ。すまない。あの時は私も動揺していてな。君のような子は見たことがなくて」


「い、いえ」


まじかよ。普通の人の3%ってどういうことだよ。じゃあ、俺があの状態になったら、凡人の約30倍ってことか?もう頭おかしくなりそうだ...


「???」


「あ、もーね。どうやら自分、普通の人と同じスペックなのに、脳の3%しか使っていないらしんだ。要は俺は脳のスペックが異次元だってこと」


「え?え?え?」


「あ、あとでしっかり説明するから。せ、先生。つ、続きを....」


「う、うん。第2の間違いは、君の記憶の問題だ。普通、脳というのは記憶する量に限界がないんだ。パソコンと違って、実態がないからね。だから、君が情報が多すぎて、処理能力が追いつかず、処理落ちして気絶してしまうことはあっても情報がなくなることはないんだ。じゃあ、なぜ君は覚えていないのか。それは、覚えていないんじゃない、覚えていないと思い込んでいるだけ。人間、思い込みっていうのはすごくてね、プラシーボ効果っていうのがあってね。それは効果のないクスリを効果のあるクスリだと偽り、いいクスリだと思い込ませることで症状が改善することがあるんだ。それぐらい思い込みというのはすごいんだ。だから君は絵が描けるはずだよ。うまくね」


え?まじ?そんなばかなことが....


「かけちゃった...」


「でしょ?」


『上手い‼︎』


スマホでチャチャっと描いてしまった。嘘だろ....


「それじゃ、アエカちゃんと2人で話したいことがあるから、お友達さんは少し席を外してもらっていいかな?」


「あ、はい...」


もーねが出ていった。それから先生とは今後重要になるであろう話だった。



その後、俺らは家に帰り、もーねに1から説明した。


『なるほど...そんなことがあったんだね。あの時は過労で倒れたかと思ったけど、その脳の力を使ったからなのか...』


『うん。そうみたい。私もその時に知ったし』


『まぁ、もう使わないでねその力。私アエカが植物人間とか嫌だから...』


『もーね....。うん。もう使わないよ」


もーねを悲しませるのは嫌だ。

——それはファンとしてじゃない。友達として...。


『それじゃ、私は一旦うちに帰るね』


『うん。送ろうか?』


『いや、いいよ。なんかアエカ、疲れてそうだし』


『わかる?じゃあ、またね〜』


『うん。またね〜』


もーねが玄関から出ていった。

いやーしっかし、最近物騒だしなぁ。やっぱり送っていったほうがいいよな。


「今からでも間に合うはず...」


靴を履いて俺は玄関を出た。しかし、少し進んだあたりで...


「....?」


これは、もーねのバッグ?ぶちまけられている....?


「....ハッ!」


俺は急いで走り出した。理由はとあるネット記事が頭をよぎったからだ。


【最近話題のVtuber関連の不審者、噂によるとホワイトモーネを狙っている】


——もーねが危ない!!!!!!!



俺は手当たり次第にもーねを探した。なのに一向に見つからない。

そんな時、一つの路地裏が目に入った。

藁にもすがる思いで、その路地裏に入り込んだ。

すると、暗闇の中に微かに白髪が見えた。そして、


「んん〜〜!!!」


という、もーねの声が聞こえてきた。その時ちょうど、夕日の陽が入り込んできた。


「お前が話題の不審者兼、誘拐犯か」

黒いマスクに黒いパーカー。いかにも不審者って感じ。


「なんだぁ?このガキ?」


「もーねの友達だ!さっさともーねを返せ!!」


「んへふぁ⁉︎(アエカ⁉︎)」


「その声...そしかして絶賛人気急上昇中のアエカちゃんか?」


「呼ぶな。お前が気安く呼んでいい名前じゃない」


「こりゃあ、ラッキーだぜ!本来ならもーねだけの予定だったが、アエカちゃんもついでに捕まえりゃあ、大儲けだぜ」


どこまでもゴミクズな奴。ぜってぇゆるさねぇ。


「ふざけんなよ?私をただの女の子だと思うなよ?」

そしたら奴が銃を取り出しやがったんだ。


「はぁはぁはぁはぁ...」


銃だぞ銃。俺、死ぬのか...?


——いや。俺はこんなところで怯んじゃダメだ。意思を強く持たないと。


——使うしかないか。



「スゥーーー」


『⁉︎⁉︎んへふぁ⁉︎んへふぁほ⁉︎(アエカ⁉︎ダメだよ⁉︎)』


——「俺だって、植物人間なんかになりたくないよ。けどさ、俺だって、もーねの友達なんだわ。だから俺だってもーねを失いたくない」


——「それは、ファンとしてじゃない。友達として」


『‼︎!』


「イキがってるがよぉ、結局は人間弱い生き物なんだよなぁ?銃にかかれば一瞬よ。安心しろ、歩けなくしてやるだけだからよぉ」


もう俺は迷わない。推しを....救うんだ。


——「いいかい?君のその力の発動条件は、僕の予想だが聞いてほしい。まず一つ目は、推しを救うという場面だよ。そして、二つ目の条件は意識を脳に集中すること。君は無意識で今まで脳に集中していたんだよ」


——目を瞑り、脳に最大限集中する...


「なんだなんだぁ?チャカを前に諦めたか?」


「いや、その逆だよ」


——「お前を倒す準備だ!覚悟しとけ。お前と私、30倍の差があるんだからなぁ‼︎」


俺のこの体が朽ちても、たとえ死ぬことになっても。


——絶対に見捨てない。俺のしなんだから‼︎

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