第3話 勧誘

『わ、わかったけど、連絡先教えてもらえない?』

『え、嫌ですけど』

『え』

『だって、それもうファンの範疇はんちゅう超えて....ちょ⁉︎』

強制的に連絡先に登録された。何がいけなかったんだ。

その後、俺は家に帰った。

「あんた、こんな時間までどこにいたの?」

と、母さんが叱ってきた。

「あーえっと...新しくできた友達の家によってたんだ!」

我ながら焦り過ぎだ。絶対嘘だと気づかれると思っていたんだが、

「そう。風呂に先に入っちゃいなさいね」

と、こんな感じで案外バレなかった。そのまま荷物を置いて風呂に直行。風呂に入っている時に気がついたが、女の子だからなのか、別に自分の体を見てもなんとも思わなかった。これはこれでよかったかもしれない。男の時は風呂なんて1週間に2、3回入ればよかったが、女子だと普通に無理だ。そんなことして、バレたらクラスでの居場所を失う気がする。女子はそういうのに男と違って敏感だからな。それなのに毎日ドギマギしてちゃ、やってられない。だから、本当によかった。

何よりもよかったのはにスマホが与えられているっていうことだ。つまりは推しの配信が見放題ということ。これがなかったら精神崩壊を起こすところだった。それほどVtuberというのは俺にとって欠かせないし、大事なものなんだ。

夕食も食べ、フリータイムなので推しの配信を見ようと思い、スマホをいじっていると、突然電話がかかってきた。

「え??????もーねから???????最推しから???????」

荒ぶる気持ちを抑えながら、おそるおそる電話に出た。

『おーい。元気かー?』

と、本当に推しから電話がかかってきた。

『そりゃ、電話に出ているんだし元気に決まってるだろ』

なぜか、推しに荒々しい態度をとってしまった。まぁ。いつものことか。コメントだとみんなそうだし。

『聞きたかったんだけどさ、こんな話よくないんだけど、私達の3D体を見たじゃん?ファンにとってそれって拒絶反応が出ると思うんだけど?』

『そりゃ、家に帰ったあと、即悶絶したよ?近所で噂になるぐらいには』

『あ.....そっっか......』

あれ?この時間ってもーねの配信じゃなかったっけ....まさか!

俺は即配信を見に行った。すると、俺と彼女の電話が配信に流れていた。

→『相手の女の子の声可愛い』

→ものすごいオタクっぷりで草

→『めちゃくちゃタメ口で草』

「うわああああああ⁉︎この会話が全世界へ....?」

→あ....気づいたね

→お疲れ様

『わ、私し〜らない。に〜げよっと』

と、もーねは電話を切って逃げた。まあ、配信見てるから意味ないけど。

その後配信は終わり、一睡もできなかった。

ーその日の夜ごろに再度彼女から連絡が来た。今回は配信されてないみたいだ。

『本当にごめんて』

『絶対許さんわ』

一生分の恥をかいたからな。絶対に許すことはできない.....が、推しだからしょうがないよね。てかってことをファンとして忘れていた俺も悪いんだし。

『いやもういいよ。なんか自業自得な気がしてきたから』

『なんだそりゃ?まぁそれより聞きたかったんだけどさ。私のどこが好きなの?』

と、もーねが聞いてきた。やばいことを聞かれるかと思ったが、そんなことか。

『普通に声が可愛い。そしてビジュが好き。イタズラ好きで頑張り屋なとこが最高に好き』

『普通に恥ずかしいなこれ』

その後、録音されていた俺の会話は全世界へと発信された。.......いや普通に犯罪では?と思ったが、どうやら俺が訴えなければ犯罪にはならないようだ。まぁ、推しが見れなくなるのは死刑に等しいので、ボイス3本で我慢することにした。


次の日。何故か、もーねが家にいた。今日は学校が休みなので、ごろごろしようと思っていたのに。それにもっと驚いたのは、母さんと楽しそうに話していたことだ。

「え?いつの間にお母さんと仲良くなったんだよ⁉︎ てか、どうやって私の家がわかったんだ⁉︎」

「つけてきた⭐︎」

「つけてきた⭐︎....じゃねえよ⁉︎お母さんもホイホイ人を家にあげるなよ⁉︎」


その後、もーね達から告げられたのは、あの時の録音したやつが人気だったようで、「Vtuberにならないのか」というコメントが殺到したとのこと。つまりは勧誘に来たらしい。

「う〜ん....」

『そりゃ、すぐには決められないよな。Vtuberは炎上と隣り合わせなんだし』

「それは別にいいんだけど.....」

『そこ意外と重要な気がするんだが?じゃあ、逆に何がダメなんだ?」

「いやだって。Vtuberになったらさぁ.....配信を見る時間が減るじゃないか‼︎」

『そこぉ⁉︎』

何度も言うが、俺にとって推しの配信が見れないのは極刑に等しいのだ。

しかし、このままコメントした奴らが暴れて、推し達に影響が出るのだけは避けたい。だが、こんな俺が配信したところで人気なんか出るのだろうか。確かに男っ気が強い、ロリVtuberってのは珍しいとは思うが、それだけだよな。トーク力高い訳でもないし、これといってゲームも上手くないし、才能と言えるものもないし.....そう考えると俺って平凡だよな。けどまぁ、やってみるのもいいのか...?最悪やめればいいし。

「......わかった。やってみるよ」

配信を見る時間が減るのは残念だが、彼女達に被害が出るのはごめんだからな。

『本当⁉︎』

「ただし....」

『ただし?』

「自分はとしてやらせてもらいます」

『あえかがいいなら私はいいが...』

だって、人気が出なかった時に事務所の人に迷惑かけたくないし。


けれど俺は気づいてしまった。暴走する奴なんかいないってことに。普通に考えてそうだよな?別に有名人でもない俺が、Vtuberにならなくても暴動なんて起きるわけないだろ。俺になんの価値があるんだ。じゃあるまいし。

しかし、言ってしまったのは事実で、もーねがTwitterで報告するともいってたしもうあと戻りはできない。今しなかったら、ほんとに暴動が起きちまう。


「はぁ....」とため息をつきながら、俺は自身のイラストをを探し始めた。


※傾国の美女とは、国を傾けてしまう程、君主の心を動かしてしまう美女のこと。またはその例え。

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