アグレッシブなマゾヒスト

藤原天音ふじわら あまねのご主人様になってしまった私は、彼女の家に連れて行かれることになった。

なんでだよ。


「あなたは私のご主人様だけど、被契約者でもあるのよ。私の提示した契約に従う義務があるの。つまり、私のことを支配する義務があるってこと。条件は契約者である私が決めるの。とにかく今日は私の家に来て。」


全く理解できなかった。本当に、すべて。1から100まで全て意味不明。


藤原ペットに引き摺られて、家に着く。彼女の家は犬小屋ではなくて、立派な豪邸だった。

門自体がめちゃくちゃでかいし、門から玄関まで走って11秒くらいかかりそう。


「あんたって、めっちゃでかい家住んでるのね。」


「そうね。豪邸で何不自由ない生活をしているわ。」

いちいち鼻につく女だ。


「なんでこんな豪華な生活してんのに、そんなに変態なの?」


「何不自由ない退屈な生活を送っていたら、倒錯的な癖の一つや二つ、生まれてくるものよ。かのエリザベート・バートリもそうじゃない。」


エリザベート・バートリ。若い女性を600人殺したハンガリーの貴族か…


ていうか倒錯的だという自覚はあるのね。


「あんたの場合ドマゾだから、逆エリザベートね。」


「全く不名誉だわ。」


自分から引き合いに出しておいてそれはないだろう。


家に入るとでっかい広間があり、長い廊下を歩いて彼女の部屋に招かれる。

広さこそ私の家のリビングくらいあるけど、置いてあるものはシンプル。


ベッドと勉強机。あとは本がぎっしり詰まった本棚。漫画から難しそうな本までなんでもある。


藤原はベッドにダイブして、私の方に手を伸ばしてきた。


「さあ、ご主人様、私に命令して。」


命令してって…

彼女が嫌がるようなことを命令したいわけではないけど、そんなに嬉しそうに命令しろと命令されると命令したくなくなる。

命令がゲシュタルト崩壊する。


「あのさ、命令しろって言われてするもんじゃなくない?」


「そうね…確かにもっと扇状的な方があなたもやる気が出るわよね。ごめんなさい。昂りすぎてしまっていたの。」


いやそういう意味じゃないし。

藤原はベッドから降りて、私のすぐ下に跪く。


「ご主人様…あなたの忠実なペットである私に何かできることはありますか?」


さっきのテンションとは打って変わり、やけにエロい感じで言ってくる。


うげえ。やめてくれ。

マジでなんだんだこいつ。何がしたいんだ。



「うわぁ…じ、じゃ、命令。なんで私に飼われたいのか教えて。」


「そうね、単純にあなたの顔が好みなのと、あとは個人的な欲望。それだけじゃないわ、知的好奇心よ。監獄実験って知ってるかしら?被験者を看守と囚人に分けてほっとくと、看守が指示以上の残虐行為をするようになるっていう。」


顔が好み…やっぱり普通にそういう対象として見られてるんじゃん。あと欲望って。やっぱ変態じゃねえか。それに、監獄実験?何言ってんだこいつ。


「うんうん。」適当に頷く。


「だから、最初は引き気味のあなたも、少しずつ楽しくなってきて最終的にあんなことやこんなことを命令してくれるんじゃないかって思ったの。」


結局最終的には欲望じゃねえか。

「はあ。」


「さて、命令は?」


うまいことまとめられてしまった。どうやら命令をしなければならないらしい。


「じゃあ、私の肩揉んで。」

普通にマッサージしてもらおう。藤原ペットの1番健全かつ効果的な使い方だ。


「え、普通に肩揉むだけでいいの?もっと攻めた命令もアリなのよ?」


「たとえば?」

嫌な予感しかしないけど、一応聞いておこう。


「そうね、足を舐めろとか、椅子になれとか、***を舐めろとか…」


「あんたに恥という概念はないの!?」


「羞恥プレイがしたいの?」


だめだ。本当に話が通じない。

「いや違う。なんでもない。普通にマッサージしてね。本当に肩だけ。肩以外触んな。」


「今の命令口調最高。その調子でお願いするわ。」

どこでこいつのスイッチを入れてしまうかわからない。


あ、でもマッサージはうまい。うん。いいねいいね。藤原の細い指は意外と力強く、私の肩に沈み込んでくる。結構気持ちがいい。


結構な時間マッサージしてもらってる。意外とこの関係ありだな。藤原は本気で命令に従ってくれるみたいだ。足の裏とかも言えばやってくれるのかな。っていかんいかん。それじゃあ本当に藤原の思う壺だ。

命令に従うことに気をよくして過激にしてしまっては、彼女のいう監獄実験の通りになってしまう。

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