後日譚
「今何を書いているの? 」
5階建マンションの5階、突き当たりを曲がった3LDKの部屋の中で、男女がA4の白紙一枚が置かれた机を囲んで言葉を交わしていた。
「君と出会った頃の絵を描こうと思って」
「何で今更。それより賞に出す絵の締め切り近いんでしょ? そっち先に書きなさいよ」
「ぐっ、息抜きだと思って……見逃してください」
僕は続けて「──それに、君との出会いは特別だったから、いつかは絵に描いておこうと思ってたよ」と伝えた。
何それ、と彼女は冷たく言うが、顔は少し微笑んでいるのが窺える。
「私達の馴れ初めなんて普通だよ。クラスで全く関わりのない君が突然好きだって言ってきた時は驚いたけど、友達から始めてここまで来た」
「その普通に辿り着くまでが大変なんだ」
きょとんと首を傾げる彼女に、まあいいやと話を切り上げ、僕は遂にシャーペンを握って白い紙に絵を描き始めた。
_シャー芯の折れる日に_/ ニュートランス @daich237
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