第17話 真実

 北上はオーウ攻撃の依頼から戻り、自分の部屋へと帰ってくる。しかし一人ではなかった。北上の後ろには、アユムの姿が。今更オーウ教団に戻ることも出来ず、そもそもオーウ教団が崩壊状態にあるため、身寄りがなくなってしまった。そのため、責任を感じた北上が預かることになったのだ。エリのところで居候することも北上は提案したのだが、残念ながらそうはならなかったようだ。どんな考えを持って北上の部屋に居候するのか、北上自身は理解できなかったが、本人がそう決めたのなら強制はしないようにしようと考えた。

「ま、狭い所ですが、どうぞ」

「お、おじゃましやす……」

 アユムは若干緊張しながら部屋に入る。狭いのは仕方ないだろう。実際、北上の荷物で埋まっているのだから。これでも少ないほうである。それに当然ながら、二人で生活できるような部屋ではない。

「後で布団とか買ってこないといけないですねぇ」

 部屋の紹介がてら、そんなことを呟く北上。アユムはなぜかモジモジしていた。

「それじゃあ、仕事でも探しに行きますか」

 アユムは着の身着のままで来てしまった放浪人。まずは定職に就く所から始めないといけない。そのため、この日はオーウ攻撃成功のお祝いと休息、そしてアユムの仕事探しのために動くことになったのだ。

 ナーカシの合同庁舎に向かい、まずは身分確定のために戸籍を作る。それで半日かかった。その後、合同庁舎に入っている職安へと赴き、何か仕事がないか確認する。その辺はエリがサポートしてくれるだろう。北上とリュウは、組合の窓口へ行き、オーウ攻撃依頼の報酬を受け取っていた。額は三ウェンと五百ゼン。なかなかの高額である。

「行政関係の依頼さ報酬ば高くて助かるど」

「本当ですね。しばらくは食べるものに困らなくて済みそうです」

「ま、実際食いもんが唯一の娯楽と言って過言じゃなかとなぁ」

 そういって、自分の財布に受け取った報酬を入れるリュウ。エリの分はきちんと別にしているようだ。

 しばらく合同庁舎の前で待っていると、エリとアユムが出てきた。

「そんで、何かええ仕事さあったか?」

 リュウは、エリに報酬を渡しながら聞く。

「緊急性の高いもんじゃと、オーウの探索に関するもんがあったな。アユムなら、オーウ教団の知識さ生かして何かできると思うんね」

「やってることが組合員のそれとあんまり変わらないのでは?」

 北上は最もらしいことを言う。

「んま、最近ば仕事も減ってきとるかんの。選り好みさ出来んということじゃ」

 悲しき運命である。しかし好き嫌いを言っている場合ではない。今後の生活のためにも、仕事はしておきたい所だ。

「実際の仕事さ二、三日後じゃから、それまでは仕事道具さ揃えるんが良さそうやね」

 そのまま必要なものを買いに、市場に行く四人であった。

 それから一か月後、オーウの調査のために組合に依頼が張り出される。ただし、北上たちは名指しで招集され、オーウの調査に向かうことになった。

「……んで? そのカードと石を使ってオーウさ止めたと?」

「そうです」

「んー……。セキュリティの観点から見てんも、ちょいと違和感さ感じるんよなぁ……」

 スイフから調査のために出張に来ていた役所職員が、そんな話をする。確かに、こんな巨大な動く構造物を、たった二つのアイテムで止めることができるなんて、セキュリティが緩いと考えざるを得ないだろう。

「ま、それを回収して解析すんのもええけど、それば後回しじゃな。オーウの調査が先じゃけぇ」

 そういって職員がオーウを見上げる。内部の調査のために、オーウの背中へ登るためのロープや梯子を設置する作業が行われていた。かなり面倒かつ危険を伴う作業ではあるが、魔法が大方解決してくれるのが幸いだろう。

「んじゃ、その運転室さ案内してけろ。どんな機械があるんか確認はしとかんとな」

 北上は職員と共にオーウの背中へと飛び、中へと案内するのであった。内部に入ると、手元の行燈を使って内部を探索する。

「はいやぁ……、こんな複雑で精密な機械になってるんやなぁ……」

「そんなに珍しいんですか?」

「それもそうど。機械が精密になればなるほど、もろくなるようになってるんじゃ。それが、少なくとんも百年以上前から稼働しとるようなんじゃ。こんで驚かんで、何に驚くちゅうんや」

 そう言って手元の紙に何か書き込んでいる。北上はわざと見ないふりをした。その後も、オーウの内部をあらかた探索する。とはいっても、胴体部と首部分、そして頭部内部くらいしか行くところはなかった。

「まぁ、こんなところか。後ばオーウの背中に調査用のテントでも出来ればの話じゃな」

 こうして、オーウの調査は終了することになった。報酬に関しては少なかったが、それでも文句は言えないだろう。

 数日後、北上たちはナーカシ動力研究所の課長から、ナーカシ発電所三号機の様子を見に来てほしいと言われ、研究所に足を運んでいた。

「おぉ、よく来よったな。まま、中さ入ってけろ」

 中に入った北上たちは、応接室に通される。

「ほんで、三号機の調子さどうどすか?」

「とは言っても、最近の電力事情さ見れば分かるんどすが」

「そうじゃ。三号機んおかげで、何とかこの冬さ乗り越えることば出来た。あれ以来大きな事故ば特になく、まさに順調だの」

 そう言って、課長は茶をすする。

「魔法の代行という点ば、発想の着眼点がええもんだった。目からうろこというヤツじゃな」

「へぇ、そげなことしとったんどすねぇ」

 アユムがそんなことを言う。

「そんいえば、アユムにばそのことば言ってなかったげな。俺らはいろんなことさしとるんじゃ」

「はへぇ。意外と功労者なんどすね」

「そんなにしてきましたっけ……?」

 北上はこの世界に来てからの記憶を思い出す。それなりにいろんなことがあったのは覚えているだろう。どれが一番よく覚えているとかはないが、今思えばどれも大切な思い出になっていた。

「まぁ、話はこんくらいにして、三号機の様子でも見に行ってくだせぇ」

 その言葉に甘えて、北上たちは三号機の様子を見に行く。中央制御室では、技師たちが炉の管理をしていた。

「運転の状況はどうですか?」

「そですねぇ。多少の懸念事項ば特にないどす」

「素人だけんど、何とかなったんじゃな」

「そう言われれんば、まずは安心じゃ」

 そんな話をしている時に、北上は机の上のある書類が目に入った。技師やリュウたちに見つからないように、書類の中を覗いてみる。するとそこには、ヒヤリハットの一覧が書かれていた。ゲージの位置を間違えて炉が暴走しかけたり、逆に炉の火が消えそうになったり、また動物が逃げ出して危うく炉が爆発しかけたりしたらしい。

「あー……」

 北上は見なかったことにした。なんとなく感じていたことだが、やはりミスというかヒヤリハットは生じているようだ。

「ユウ? そろそろ行くど」

「あ、はい。今行きます」

 書類を元の場所に戻し、そのまま発電所を後にした。

 それから数日後、北上たちは所用でスイフを訪れる。そこで配給を受け取っている人々の姿を見つけるだろう。

「そういや、この間の冬は大変じゃったな」

「そやね。飢饉が起きそうになって、頑張って食料さ探したもんやね」

「あの食料危機も経験しとったんどす?」

 アユムが意外そうに話す。

「まぁ、あんときば組合員さ全員招集されたし、緊急事態じゃったかんね。対処せんかったら皆飢え死にしとったかんもしれんし」

「そん時も、ユウさいてくれたから、食料さ発見できたんやしな」

「それもそうですね。久々に図書館でも寄っていきますか?」

「アリじゃな」

 こうして四人は、スイフの図書館へと向かう。図書館では管理人の他に、図書館に保管されている本の復元、解読を行う司書を雇うことになったらしい。

「先日の古文書の解読で、食料危機解決の鍵になったことば記憶に新しいどしょう。過去の記録さ探ることも重要なことじゃというスイフ役所の考えで、我々司書が配属されんことになりますた」

「それはいいことじゃないですか」

 北上が感想を述べるが、司書はあまりいい顔をしなかった。

「そげは、あなたがおったから解読できたことでありやして、我々ではなかなか解読は進まんのです。スイフにいる間でええんで、解読に協力してはいたたけんでしょうか?」

「……と言われているんですが?」

 北上は、エリたちに確認を取る。

「大丈夫じゃ、時間ば少しある。手伝ってこい」

 リュウが言う。それを聞いた北上は、司書の手伝いをするのだった。

「……本当にユウば何者なんどすか?」

「そうじゃのぉ……。俺らとは違う世界から来よった変人、ちゅったところか」

「へ、変人、どすか?」

「そうやね。うちらと少し違って、でもそんな違わんくて、そんな感じの人じゃの」

 アユムは少し戸惑いをするものの、それでも変人であることに妙に納得してしまう。確かに変人だろう。アユムのような忌み嫌われているような教団の生贄を、善意だけで救ってしまうのだから。

 そして少しの手伝いが終了し、北上たちは本来の目的である依頼を遂行していた。今回の依頼は、スイフ南部のエリアを巡回するというものだ。また再びバベル軍の斥候が姿を現しているようで、それを確認するための任務だ。今回の依頼は、アユムを置いてきた。彼女は正式に組合員になっていないため、今回の依頼に同行できないからだ。

「しかし、バベル軍とも戦ったんの、もう一年前さなるんか」

「時間の流れば残酷じゃの」

「裏を返せば、それだけ色々あったってことですよ」

 そんな話をしていると、リュウが黙って止まるように指示をする。前方を見てみると、バベル軍のアダ=チク師団の斥候がいるようだ。ここは静かに、茂みの中に隠れているのが賢明だろう。

 そのうち、斥候は状況を確認し終わったのか、その場を去っていった。

「行ったか」

「しかし大胆な偵察やね。あれで問題ないんかな?」

「彼らがそれでいいと思ってるんでしょう」

 しかし組合で依頼書を見たときもそうだったが、最近のバベル軍の動きは多少粗さが目立つようになっている。何か焦っているとでも思えるような、そんな動きを感じた。

「とにかく、もうちょい前さ出て、何か確認できるもんがないか探すべ」

 そういってリュウが先頭になって前進する。しばらく慎重に歩いていると、前方に狼煙のようなものが上がっているのを確認した。狼煙の発生源を確認すると、アダ=チク師団のマークが書かれた旗を見つけることができるだろう。どうやら焚火をしているらしい。

「ようこげな所で焚火できるな」

「そんだけ用心しとらんちゅうことじゃろ」

「どうします? 全部倒しますか?」

「いや、今ばスイフの近くにアダ=チク師団がおったという情報だけでええ。戻るど」

 こうして北上たちは、斥候の情報をスイフの自衛団に持って帰るのだった。これで、今回の依頼は終了である。

「なんだかんだ、最近は依頼をこなすのも慣れてきましたね」

「そうじゃの。ま、そんだけユウが組合員に慣れてきたちゅうことじゃ」

「うちとしても、十分鼻さ高いけんね」

 そういってエリは胸を張る。確かに、エリやリュウたちに助けられて、ここまで来れたという感覚がある。その時、北上は不意にある言葉をこぼしていた。

「ありがとうございます。エリさん、リュウさん」

「なっ……。急に礼さ言われても困るんやが」

「ほうじゃ。なして今やけん」

「なんとなく、そう思っただけです」

「なんじゃそら」

 そういって三人は笑う。

「私のことさ忘れとりません?」

 三人に対して、アユムがむくれ顔で言う。

「ごめんなぁ、アユム。ほら、機嫌直してくれやぁ」

 エリがアユムの機嫌を直そうとする。それを見て、リュウと北上は笑うのであった。

 バベル軍の動向を確認した北上たちは、スイフから予定通りの報酬を受け取る。そしてナーカシへと帰還するのであった。

「やっぱ役所の仕事ば報酬さよくていいわぁ」

「仕事が少ないのが欠点じゃけんどね」

「それもそうですね」

 そんなことをいいつつ、ある場所を通過する。

「あ、ユウ! こげん場所覚えとる?」

「ここって……、確か魔法の練習をした場所でしたっけ?」

「おぉ、そうじゃの。あんからもう一年くらい経つんか」

「あなた、魔法の練習するほど下手やったんどすか?」

「いや、厳密に言えば、その時まで魔法を使ったことがなくてですね……」

「そげでも、ユウの魔法ばすごかもんじゃったよ」

「せやなぁ。あんなすごい魔法さ見たことなかったの」

「そんなことさ知っとりますが?」

 アユムは、さも当然のように言う。最近まで知らなかっただろうに、というツッコミを北上は入れたかったのだが、喉まで出かかったそれを何とか飲み込むのだった。

「そんで? この後ば何せんとか?」

「んじゃのぉ……。まずばアユムさどうしたいかじゃの」

「わ、私どすか?」

「せや、今アユムばユウの部屋で世話なっとる。いくら仕事しとるとはいえ、いつまでも居候は出来んじゃろ。まずば安定した職に就いて、それからのことば考えるべ」

 確かに、今のご時世を考えると、安定した職に就くのは重要なことだ。最近は組合員の数を減らして、公務員の職を守ろうとする動きも見られる。民間職も、だいぶ不況にあえいでいるようだ。

「農家もいいかもしれんけど、それはそれで大変やしねぇ……」

 北上の脳裏には、きつい労働を強いられている農家の光景が浮かぶ。確かに肉体労働であり、あまり力の強そうなアユムではなかなか出来ないことのようにも思える。

「農家……、つまりば野菜とか作るんことどすよね?」

「そうじゃの」

「なら、私農家になりやす」

「え? ええんか?」

「はい。それに、私には秘策さあるんで」

 彼女の言う秘策とは何なのかは分からないが、とにかく彼女が納得しているのならそれでいいのだろう。

 そんな日々を過ごしている時である。北上は次の依頼まで時間があることを機に、少し背嚢の中を整理しようと考えたのだ。背嚢の中には、これまで依頼で使用した道具や、小さなゴミなどが入っており、いい加減整理しなければと思っていた所だった。ちなみにこの日のアユムは、急な仕事が入ったため不在である。

「さてと、とりあえず全部ひっくり返すか」

 外に出た北上は、そのまま背嚢をひっくり返す。中からはガラクタが大量に出てきて、小さな山を築き上げることだろう。

「うわぁ、こりゃひどい。とりあえず要らないものを分別するか」

 ガラクタの山から、要らないものを取り出しては紙袋へと入れていく。そんな中、あるものが北上の目に止まった。

「ん? これは……」

 それは、いつぞや貰った白い箱と、オーウの運転室で拾った深緑色の箱状の機械だ。

「そういえばこれ、結局何だったのか分からないままだったな……」

 北上は二つの箱をリビングに置き、背嚢の整理を先に行うのだった。

 さて背嚢の整理が終わり、北上はリビングに戻る。そして先ほどの箱を手に取った。

 片方は見慣れた通り、白い箱である。箱上部にはボタンがついており、押せば中身を取り出せるだろう。

 一方、箱状の機械はよく分からない。とある面にはレンズがあり、その隣の面には凹みがあるくらいだ。しかしこの凹みには、白い箱に入っていた石がちょうど差し込めるようになっているだろう。

「これ、差し込んだら何か起きるのかな?」

 そういって、北上は石を箱状の機械に差し込んでみた。すると急に箱の電源が入り、ガラスから光があふれ出す。

 その光は空中に画面のような物を投影していた。

「なん……だ、これ……?」

 その画面には、フォルダがいくつか表示されており、それぞれに名前がついていた。それらの文字は簡単に読み取れるだろう。

「『純粋科学保全機関概要データ』? 『母なる包囲網の懸案事項』? 『生存者へのメッセージ』?」

 それらの言葉が何を意味しているのかは分からなかったが、北上は上から順番に見ていくことにした。

 まず一つ目。中には純粋科学保全機関と呼ばれる組織の概要が書かれていた。

『純粋科学保全機関は、かつては時空間技術保管所、さらに前には国立研究開発法人核エネルギー研究開発機構那珂研究所という名前で活動を行っていた。名前の変化については詳細を省くが、科学魔法の発見以来、純粋科学という人類史そのものを保存することを目的とした活動を行ってきた。しかし、人類の衰退に勝ることは出来ず、この日をもって解散することとする。願わくば、この記録が前任者たる人類に渡ることを望む。二三八四年某日』

 この内容を読んだ北上は唖然とした。

「なんだ……これ……。なんで異世界なのに那珂研究所の話が出てくるんだ……?」

 那珂は、かつて北上がこの世界に来る前に住んでいた市の名前だ。北上が小さいころから那珂研究所が話題に上がるほどには有名である。

 北上は若干震える手を抑えながら、次のフォルダを見る。

『全球現象観測装置、別名母なる包囲網は、現在ホルスの目の制御下にあり、人類の完全なる奪回には至っていない。ホルスの目が母なる包囲網を使用して何を企んでいるのかは未知数であり、不明点が多すぎる。ホルスの目が母なる包囲網を使用して、地球の天候を全て変えてしまう可能性がある以上、ホルスの目に逆らうことは賢明ではないだろう。さらに、母なる包囲網を利用して、大気中の現象を逆に再現するという報告も上がっている。これらが現実のものになるかどうかは不明であるが、懸案事項として上げておきたい』

 この文書の中にはっきりと書かれていた「地球」という文字。それはまぎれもなく、北上が知っているものだろう。

「い、いや、まだだ……。まだここが……」

 北上はほとんど理解してしまっているが、その言葉を飲み込んで次のフォルダを開く。そこには映像データが入っていた。北上は息を乱しながらも、映像ファイルを開く。

『……えー、この映像を見ている生存者の方。無事に生き延びてくれて感謝いたします。しかし、そんな悠長なことを言ってられない世界になってしまいました。この映像自体、撮影日時が西暦二三八四年であり、私が暗黒の五十年以前に産まれた最後の人類となってしまいました。暗黒の五十年以前の人類は前任者と呼ばれ、それ以降の人類は後任者と呼ばれています。もし、この映像を見ている人類が前任者である場合、あなたに頼みたいことがあります。どうか、人類をホルスの目から解放してください。ヤツは危険な存在です。科学魔法、現在は単に魔法と呼ばれていますが、この力を使って人類を滅亡に追いやろうとしているのです。我々の観測では、少なくとも前任者が一人、タイムポータルによって未来に飛ばされていることを確認しています。前任者のあなた。どうか我々を救ってください! この世界ではあなたが最後の希望なのです……!』

 映像はまだ続いているが、北上はゆっくりと立ち上がってしまった。そして理解したのだ。

 あの時、目の前に現れた空間の歪みはタイムポータルであったこと。異世界だと思っていたこの世界は、異世界ではなく地球であったこと。そして自分は、未来の地球にタイムスリップしてしまったこと。

「……嘘だ」

 北上は後ろに下がりながら呟く。

『我々には、科学保全船「クフ」という船があります。そこには純粋科学による技術が集結しています。もしもの時はそれを頼ってください』

「嘘だ……」

 北上はさらに後ろに下がる。

『未来の地球は、あなたにかかっているのです!』

「嘘だ」

 やがて部屋の壁に到達し、その場で膝から崩れ落ちてしまう。

「嘘だ……!」

 そして画面に大きく表示される現在の日時。

『西暦二四三九年六月二十三日』

 その西暦は、北上の知っていた西暦よりも四百年も増加していた。

 北上は確信してしまう。自分は異世界に転移したのではなく、未来の地球に飛ばされていたのだと。

 そのまま地面に顔を伏せ、北上は叫んだ。

「嘘だそんなことー!」

 その声は、まさに天高く響き、大気圏外に存在する全球減少観測装置、「母なる包囲網処女懐胎」は緻密に観測しているのだった。

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紡言治世の絶対神 紫 和春 @purple45

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