第15話 決戦

 場所は移り変わり、スイフから北に三十キロほど離れた場所にある町。この町が決戦の舞台となった。スイフ自衛団のほとんどは、スイフ周辺防衛のためにスイフに残り、精鋭だけが前線にやってきた。そのほか、周辺市町村の組合員、地元自警団の諸兄らなど、約一万人が集結した。

「数こそは立派じゃが、練度が足りてるとは思わん。実質、戦えるんは自衛団と組合員だけじゃろう」

 リュウがそんなことを言う。確かに有志の参加ではあるが、一定以上の戦力がないと他人の足を引っ張るだけである。そうなれば作戦の遂行は困難となり、やがては敗走と言う形になるだろう。

「んでも、よくこんなに人さ集められたなぁ」

「十七年前の事さよく知ってるからじゃろう。あの時に失ったものば大きいからな」

 そんなことを話していると、海岸線の方から何かが音が聞こえてくるだろう。崖上に立っている北上たちは、その姿を見ようと身を乗り出す。やがて海岸線を南下する形で、超巨大不明生物オーウが姿を現した。

「これは……」

 北上は絶句した。崖の上からでも分かる通り、とにかくデカい。目測で全高百メートル、全長五百メートルを優に超える、ブラキオサウルスのような姿をしていた。表面をよく見れば、何か金属のようなもので覆われており、生物のような感じは一切見当たらないだろう。

「あれが……オーウ……?」

「せや。資料では見たことあるが、俺も実際に目にするんは初めてじゃ」

「なんつうか、とんでもなく大きいのぉ……」

 そんなことを言っていると、自衛団が準備を始める。

「組合員! 今からオーウの進行方向を変化させんぞ!」

 この辺は事前の説明会で聞いた話だ。まずは脚部に攻撃。進路を妨害し、スイフから遠ざけることが目的である。そうなれば取れる戦術は限られてくるだろう。

「一斉攻撃さ大事だ。とにかく接近し、各々の最大火力さ叩き込むんじゃ」

 組合員たちの準備が整う。それを確認した自衛団精鋭部隊長は、手を上げた。

「総員……。突撃!」

 手を勢いよく下げて合図する。それと同時に、組合員たちが突撃を始めた。もちろん、北上たちも一緒になって突撃する。オーウまでの距離は約一キロメートル。そこまで全力で走る。しかし北上はすでに魔法を発動していた。

『圧縮空気砲!』

 空気で作ったポケット状の空間に石を置き、圧縮した空気を解放する。これだけで立派な大砲として機能するだろう。実際、三百気圧まで圧縮した空気で石を投射すると、一瞬で音速を突破した。そのまま数秒後にオーウへと命中するものの、攻撃はまったく効いているようには見えない。

「あげな魔法でもまったく効果なしか……」

「そんに、攻撃さまったく気にしてる様子もなきじゃ」

 エリとリュウは、北上の攻撃を冷静に分析する。確かに金属の体表を持っているせいなのか、攻撃のほとんどは無力化されるだろう。しかし、それでもオーウの進行を妨害しない理由にはならない。自衛団の精鋭部隊と組合員たちは、もうすぐでオーウの足元に到着する。その時だった。彼らの目の前に、突如として人の群れが飛び出してきたのである。

「何じゃ……?」

 自衛団と組合員たちは立ち止まる。人の群れをよくよく見てみると、彼らが何者であるか分かった。

「ありゃ、オーウ教団の連中じゃなか?」

 確かによく見れば、オーウ教団が着用しているマントだと分かる。オーウ教団は、オーウに向かって何か叫んでいるようだった。

「何しとるんじゃ?」

「さぁ……。そもそもこの辺ば民間人の立ち入り禁止じゃなかったか?」

 オーウの予測進路に合わせて、その周辺の民間人は総員退去という措置を取っている。そのため、この周辺には民間人はいないはずなのだ。

「普通に禁止行為しとるやないかい」

「誰か回収に行かんといけんちゃう?」

 エリがそんなことを言うと、自衛団の隊長が指示を出す。

「総員、ここから攻撃開始! 誰かあの民間人さ救出してくれ!」

「では俺らがいきやす」

 リュウが答える。リュウは、エリと北上にアイコンタクトした。二人とも頷く。北上たちは、そのまま民間人のいる方向へと走る。その頃オーウ教団のメンバーは、生贄を捧げるための儀式を執り行っていた。

『……こんたるはオーウ神の名において、我々の願いを叶えたまえ、認めたまえ、聞き届けたまえ。今ここに生き人さ捧げんとする者共に生きる道ば与えたまえ……』

 呪文のような言葉を並べて、オーウ信者たちは生贄を差し出す。生贄に選ばれたのは、十代後半に見える少女であった。彼女はオーウへ命を捧げるために、オーウ教団の教典を全て暗記し、その真理を頭に叩き込み、そして今ここにいる。

「あぁ、オーウ神よ。私の命を以って、世の混乱を収めたもう」

 そして一人でオーウの方向へと歩いていく。彼女の命をオーウが奪うことによって契約は更新され、しばらくの間安寧の時間が与えられるのだ。そう教え込まれている彼女は、自分の使命を果たすべく、命を散らそうとしている。

「私ば大丈夫、私ば大丈夫、私ば大丈夫……」

 しかし、彼女の足はかなり震えている。一歩進むごとに、自分の命が消えていく感覚を覚えるだろう。だが今ここで儀式を止めてしまったら、自分の教団に顔向け出来ない上に、何千人に迷惑をかける。それだけは絶対に避けなければならない。その使命感だけが、彼女の歩みを手助けしていた。

 やがて、オーウの前足が接近してくる。このままでは、彼女はオーウの足に押しつぶされるだろう。オーウの足が地面と接触する度に、地震のような縦揺れが起こる。この足に踏まれれば、教団の使命は果たされるだろう。しかしそれ以上に、彼女の中で変化が起きる。

「いやじゃ、死にとうない……」

 生への執着。死にたくないという生物の根幹にある感情。それが彼女の頭の中を埋めつくす。しかしそれ以上に教団への忠誠心が優っているのか、彼女は涙を流しながら歩みを止めなかった。そして彼女の直上に、オーウの足がやってくる。

「死ぬ……」

 彼女は願った。助けて、と。

 その瞬間、彼女の体は横方向に動いた。彼女は一瞬何が起きたのか分からなかった。だがすぐに、誰かに抱えられていることが分かるだろう。その誰かとは。

「大丈夫ですか!? しばらく動かないでください!」

 北上であった。得意の空気操作によって、高速で彼女のことを回収したのである。一方、エリとリュウは、オーウの足の軌跡を変更するため、魔法を行使する。

『天にまします我らの神よ、我に力を与えよ!』

『流転!』

 まるで弾丸の軌道を歪曲させるように、オーウの足を移動させる。足の着地点を移動させられたオーウは、若干バランスを崩しながらも地面を踏みしめようとした。足が着地した地点には、不幸にも退避したオーウ教団の信者たちがいた。

「う、うわぁぁぁ!」

 このことに北上たちはもちろん、他の組合員や自衛団の団員も気づくことはなかった。北上は彼女を抱えたまま、高速でオーウの下を潜り抜け、エリたちと合流する。

「ユウ、生贄さ助けられたけ?」

「えぇ、何とか」

「……私、助けられたん?」

「そうじゃ。俺らがおらんかったら、おまんは死んどったで」

「……す」

「なんて?」

 彼女は声を荒げる。

「私ばあの場で死ななんといけなかったんどす! それをなんで……なんで邪魔したんだす!」

 彼女は怒り狂っていた。それもそうだろう。彼女にとってみれば自分の人生の全てを捧げたのだから。それを別の誰かによって邪魔されたのだ。怒り狂って当然だろう。

「でも君、ものすごく震えてるよ?」

 北上からの指摘を受けて、彼女は自分の体の状態を理解する。手足は小鹿のように震え、目からは涙が零れ落ちている。声も若干震えているようだ。

「そんな、そんなことはねぇどす! これはオーウ神に自分の身さ捧げられる喜びで振るえてるんだす!」

「んな言われても、説得力さなかよ?」

「そうですよ。オーウの足に踏まれそうになったときも、小声で死にたくないって言ってたでしょう?」

 空気を操る関係上、彼女の周辺の空気も使用する。その時、この言葉が北上の耳に入ったのだ。

「とにかく、今ば俺らに保護されとけ。その方が安全じゃ」

「そうですね。ところで、お名前はなんていうんです?」

「……アユムどす」

 そう彼女――アユムは言った。

「それじゃあアユムさんは安全な場所に退避してもらって、僕たちは前線に戻りますか」

「……いやどす。私ば使命さ果たさねばならんのです」

「そげなこと言ってもなぁ……。命さ張るんばまちがっちょる気がせんか?」

「そうや。こげな命の張り方して、本当に人さ救われるんと思う?」

 リュウとエリが、アユムのことを説得しようとする。

「んでも――」

「とにかく、おまんは一度後ろに下がれ」

 アユムが反論しようとしたところで、リュウが言葉を塞ぐ。リュウは北上に目くばせし、そのままアユムは、後方で待機している自警団らに預けられることになった。

 北上たちは再び前線に戻る。そこでは、地上から様々な攻撃を行う組合員と自衛団の姿があった。

「総員最大火力を叩き込め!」

 自衛団の精鋭部隊長が、組合員たちに指示を出す。しかし、そんな指示を受ける前から組合員たちは全力で攻撃している。そしてそれを無視するように、オーウはゆったりと散歩するように歩き続けていた。

「オーウの足って結構固いんですね……!」

 前線の組合員たちと合流した北上が、そんなことをぼやく。

「しゃーないじゃろ。この巨大じゃけぇ、体も固く出来とるんじゃろ」

「んでも、表面ば金属で出来てるようじゃけ、簡単にはいかんでは?」

「誰も彼もがユウのように強い魔法さ使えるわけではなか」

「えぇ……? 僕は規格外ってヤツですか?」

「まぁ、そうとも言える」

 そんなことを言いながら、北上たちはオーウの脚部に向けて攻撃をする。しかし、金属のような表面をしているためか、簡単には攻撃は通らない。

「このままじゃ、攻撃さ通らんぞ!」

 組合員の誰かが叫ぶ。確かに、金属質のような表面に魔法攻撃をしていても、いつまでも攻撃は通用しない。その間にも、オーウはどんどん南下を続けている。やがて海岸線に立っていた民家を通過してしまう。

「不味い、こんままでは民間人に被害さでてまう!」

 一応民間人の退避は済んでいるはずだが、もしものことも考えられる。そのためには、一刻も早くオーウの進路を変更させなければならない。だが、ここまでの攻撃を見て、北上はある疑問を感じた。

「何故オーウは反撃してこないんだ……?」

 普通の動物なら身を守るために反撃をするだろうし、機械の体をしていても攻撃を受け続けることは得策ではない。反撃の意思を示さなければ、いつか自分の体を破壊されるからだ。それなのに、オーウはそういうことを一切しない。そうなると、前線にいる誰しもが思うだろう。

「もしかして、オーウは無害なのでは?」

 自衛団精鋭部隊が、組合員と共に後方待機していた自警団の元へ戻ったときのことだ。もしかしたら、穏便に事を済ませることができるかもしれない、と考えたのだ。

 しかし、それを確かめるすべはない。あるとすれば、身を呈した吶喊くらいなものだ。だがそれには、最悪の場合大きな犠牲が伴う。誰かが死ぬという、大きな犠牲が。それでも手を上げる者がいた。

「ワシにやらせてくだせぇ」

 ずいぶんと年老いた男性であった。自警団に所属しているようで、もう現役を引退していてもおかしくないほどである。

「ワシは老い先短い。んだら実験台なら十分役にさ立てるじゃろう」

 これに反対意見は出なかった。本来なら犠牲は出さないほうがいいのだろうが、それ以外には考えられないからだ。唯一、一人を除いては。

「ただ死ぬだけんでは駄目どす。私のように、オーウ教団の教えさ理解した人間でなけんば、オーウ神は止めることさできんです」

 アユムであった。彼女の目から見れば、男性のやろうとしていることは生贄を捧げるのとなんら変わりはないと言うことだろう。しかし、アユムの意見は取り入れられることはなく、男性はオーウの前へと行くのであった。

 男性がオーウの進む前方約一キロメートルの所で、男性は手を大きく広げ、叫ぶ。

「オーウよ、止まれ!」

 しかし、オーウはまったく反応しない。男性は少しずつ後ずさりしながら、オーウに止まるよう指示する

「止まれ! 止まれ!」

 しかしそんな言葉なんて聞こえないのか、平然と前進を続けるオーウ。男性の近くに足が接地する。その衝撃で、男性は尻もちをついてしまう。腰を打ち付けてしまい、立つこともままならない男性の直上に、オーウの足が接近する。

「と、止まれ! 止まれ!」

 男性は何度も声をかけるものの、オーウの歩みは止まらない。やがて、オーウの足は男性を踏みつぶした。

「駄目みたいですたね?」

 アユムが北上たちの方を見ながら言う。まるで自分の行為を正当化しているようだ。

「まぁ、あの人ば貴重な経験さ積ませてくれたっちゅうわけでな。無駄にはせんね」

 その光景を見た組合員は、少しばかり躊躇している。仕方ないことだろう。相手は超巨大不明生物で、人間に従う様子も見られない。そうなれば、檻から脱走した象と変わらないだろう。人間に止めるすべは、もうないのかもしれない。

「人間は無力だ……」

 北上は自分の手を見る。この手で何が出来ただろうか。あの踏まれた男性のことを救えただろうか。それとも、オーウの進行を止めることが出来ただろうか。そんな考えが北上の頭をグルグル回っていた。それをエリが止める。北上の手を握り、安心させようとする。

「大丈夫じゃ。ユウばしっかりやっとる。それに、まだ時間さある。その間になんとかすんばえぇ」

「せや。俺らはまだ負けとらん」

 そういって、北上は周りを見る。悲観している人もいるが、多くはオーウを止めようと決意を新たにしていた。負けていない。その思いだけが彼らを突き進めようとしていた。

「総員、もう一度さ突撃す! 歯ぁ食いしばれ!」

『応!』

 意気消沈しているどころか、むしろ盛り上がっている。彼らはまだ負けていないのだ。

「総員突撃! 今度こそヤツさ仕留める!」

 そういって組合員たちと自衛団が突撃する。それに合わせて、エリとリュウもオーウに向かって走っていく。それを見て、北上は己を恥じる。自分は勝手に限界を決めていた。その限界を言い訳に、敵に立ち向かおうとはしなかったのだ。限界は誰かによって決められるものではない。限界は超えるものなのだ。北上は走り出した。皆の後ろを追いかけて。

 組合員たちはそれぞれ自分の得意魔法を使って、オーウに再度攻撃を仕掛ける。オーウは、海岸線に沿って立ち並ぶ市街地を破壊しながら進む。このままでは、ナーカシやスイフに到達するのも時間の問題だろう。今度は前方から攻撃するのではなく、横から攻撃をする。

「とにかく方向転換が目標じゃ! ガンガン攻撃せぇ!」

 自衛団精鋭部隊長が叫ぶ。それに合わせて、組合員たちは全力で攻撃を仕掛ける。しかしそれでも、オーウを止めるには至らない。

「どうすれば……、どうすれば止まるんだ……?」

 北上は得意の空気砲を使いながら、対策を考える。真正面からの攻撃も、横からの攻撃もいまいち効いているようには見えない。ならもっと接近して攻撃を加えるか。しかし、それでも金属質の表皮を貫通できるようには思えない。

「ん? 貫通?」

 その時、北上の脳裏にある考えがよぎった。北上は圧縮した空気を円錐状に変形させて石を投擲している。この圧縮空気を上手く使うことは出来ないか?

「成形炸薬弾……!」

 成形炸薬弾とは、モンロー/ノイマン効果を利用した弾頭である。この効果は、円錐状にくぼみを付けた火薬に同じような円錐形の金属を内張りにして、火薬を点火させると分厚いコンクリートすら貫通できる程の貫通力を持つ。理論上では、円錐形の底面の直径の十二倍くらいなら貫通することができるそうだ。もちろんこれは、火薬と金属を使用した場合だ。

 今から北上がやろうとしていることは、空気を円錐形に圧縮して、疑似的にモンロー/ノイマン効果を発動させようとしているのだ。だがこの効果は、あくまで金属板が変形することで起きる効果であって、塑性変形しない空気に適用するのは別の問題である。

 だが物は試しだ。実際にやってみないことには、全ての事象は不明なままである。

 しかし問題は、どうやってあの巨体に近づくのかだ。自分の体を飛ばしてオーウに近づくのは簡単だろうが、それを見た他の組合員たちが特攻だと間違われたら大惨事になりかねない。かといって、今から全ての組合員に許諾を取りに行くのも非現実的だ。

 そんなことを考えていると、前進する数名の組合員を見かける。

「あの人たち、何をしようと……?」

「さぁ? 攻撃さ通りやすいように近くまで行こうとしとるんかね?」

 しかし、攻撃をする様子はなく、オーウの後ろ側に向かって走っていた。北上はその先を見る。そして気が付いた。

「まさか……、しっぽの方からオーウに乗ろうとしているのか……!」

「そげなこと、本気でするんか……?」

 だがその組合員たちは、地面スレスレを動いているしっぽに向かって走っていた。

「本気のようじゃな」

「ならうちらはそんの援護さするだけね!」

 組合員たちは彼らに希望を託し、それの援護のために攻撃を繰り出す。攻撃はオーウの横腹辺りに集中していたが、だんだんとしっぽのほうへと移動していく。そして、しっぽの動きを止めるような攻撃へと変化していった。

「とにかくあ奴らさ飛び移れるようにするんじゃ!」

 精鋭部隊長が指示を出す。もともとあまり動きのないしっぽであったが、攻撃が集中したことで、その動きは活発になっていた。

「……駄目じゃ! 総員攻撃止め!」

 精鋭部隊長が攻撃を止めるように指示を出した。これにより、しっぽへの攻撃は止む。それと同時に、しっぽの動きも緩慢になる。乗り移ろうとしている組合員たちは、この機を逃さずにしっぽへと飛び移った。これは成功し、そのままよじ登っていく。

「よし、彼らさ上まで昇るまで攻撃は止めじゃ」

 状況を静観するように指示を出す精鋭部隊長。そのおかげか、オーウに飛び乗った彼らはスムーズに上へと昇っていく。

 しかしオーウの背中まで、高さが五十メートルはあるように見えるだろう。これを昇るだけで一苦労だ。それでも表皮はゴツゴツしているのか、意外と早く昇っているように見える。そして数十分後、無事にオーウの背中へと昇ることが出来た。

「何かオーウの行動を止める事ができるヒントがあればいいんだけど……」

 北上は願う。オーウ攻略の鍵が見つかることを。

 一方、オーウに飛び乗った組合員は、背中にあたる部分を慎重に歩く。

「何かオーウん弱点になるやつ探せ!」

「んでもリーダー! こいつほんまに生物なんか!?」

「なんじゃ!?」

「こいつん皮膚、すんげぇ鉄っぽいど!」

「そげな生物もおるじゃろ!」

「そうかんもしれんけどなぁ!」

 そのまま組合員は背中を進んでいく。オーウの歩く速度は速くはないものの、金属同士のこすれる音がかなりうるさい。その時、班の一人があるものを発見した。

「なんじゃあ、ありゃ?」

 発見したのは、何か突起のようなものである。棒状と言えばそれまでであるが、少しばかり複雑であるだろう。それにその突起は数本あり、さらに平たい皿のような物までついている。

「リーダー! 何かあるど!」

「どれじゃ!?」

 班のリーダーがその突起を確認する。まずは遠くからの観測。印象は先ほどの通りである。次に触れてみて問題がないかどうか。触ってみた感触では、オーウの表皮と同じ金属で出来ているようだ。しかし、一部では金属とは異なる物質で出来ているものもある。大きさは、人の背丈よりやや小さめ、百二十センチメートルくらいだろうか。

「どうど?」

「せやなぁ……。なんか見たことさあるような感じさするんよなぁ……」

 班のリーダーが必死に思い出そうとする。

「リーダー! あっちにも、こっちにも同じようなものさあるど!」

 班の一人が、オーウの背中に生えているような突起を見つける。

 その時だった。オーウから発せられる音とは異なる、何か別の音を組合員たちは感じ取るだろう。その音は、何か虫の羽音に近いものであった。

「何ば、この音!?」

「全員構え! 何か来る……」

 班のリーダーは何かに備えて、班員に攻撃ができるような姿勢を取らせる。次第に振動も起こりだした。そして、それは急に現れる。

 動いたのは、先ほどまで観察していた突起物であった。それらはオーウの背中からせり出し、わずかに変形する。その様子の一部始終を遠くから見ていた北上なら、その突起が何であったのか分かるだろう。

「あれは……、まさか機銃!?」

 次の瞬間だった。機銃は、背中に乗った組合員たちに向かって一斉に射撃を開始した。状況を一切理解出来なかった組合員たちは、一瞬の内にしてミンチと化す。肉の一片も残すことなく、まるで消失したかのような状況だ。

「あぁ、そんな……」

 遠くから傍観していた組合員たちは言葉を失う。彼らに攻撃が当たらないように攻撃を控えていたが、結果的にはあまり変わらなかったようだ。

 そんなことよりも、オーウの背中に機銃があった事が問題だ。

「なんでオーウの背中に機銃なんか乗ってるんだ……?」

「ユウ、アレがなんなんか分かるんか?」

「銃火器の事ですか?」

 もしかしたらこの世界では、過去に超古代文明が繁栄していた可能性がある。そうでなければ、銃のようなものなんて一切出てこないだろう。

「とにかくアレを止めないと、本当にどうしようもないですよ……!」

 しかし、時間は無常に過ぎ去っていく。本来なら避難しなくてもよかった住宅街の近くまでオーウが接近し、住民に危機が迫っていた。本来ならこの時点でオーウの進行を変更、ないしは鈍行させる作戦ではあったが、まったくその通りには進んでいない。

 そのためスイフ役所の長は、この計画の変更をしなければならないという状況に陥っていた。長の目の前には、作戦変更のための命令書と、避難すべき住宅区域の拡大を承認するための紙が置かれる。

「長。残念ながら、今回の作戦は失敗さなりました」

「お手数ではありやすが、ここに承認のサインさお願いします」

「……どうしてもやらんといかんのかね?」

「そうでなけんば、収まりさつきません」

「長、市民の支持率んも必要ですが、その市民さいなくなってしまったら立ち行きさいかなくなります。どうか、ご判断を」

「分かっとる、分かっとるが……」

 長は渋っている。当然だろう。これにサインをしてしまえば、自分の評価が下がってしまう。ここまで大きな失態なく行政を執行してきた人間にとっては、非常に耐えがたいものだ。

 それでも、長は決断した。

「作戦変更と、住民避難を、承認す……!」

 そういって、二つの書類にサインをする。これで行政は動ける。早速、手の空いているスイフ自衛団の兵を動員し、住民の安全確保と避難、そしてスイフにおける重要財産などを持ち出す作業に移る。それと同時に、前線にいる自衛団と組合員たちに命令書が届けられることだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る