第14話 対話

 何とか冬を越し、まもなく春の訪れが来ようとしている。その証に、先日春一番も吹き荒れた所だ。そんな中ナーカシのさらに北、歩いて三日ほどの所にあるイワーキーという町から、とある行脚あんぎゃがやってきた。行脚はスイフに到着すると、通りすがりの人に道を聞き、すぐさま役所へと向かう。人の列を無視して窓口に割り込むと、大声を張り上げる。

「スイフ役所の長はいるか!? イワーキー役場からの速達じゃ!」

 一時騒然となる役所。警備に捕まり別室にて事情聴取をすることになったが、すぐに釈放された。彼が持っていた手紙は、イワーキー役場の長からのものである事が分かったからだ。スイフ役所の長に手紙が渡されると、長はそれを読む。やがては震えながら、口を開くのだった。

「スイフ自衛団および各市町村の組合員さ連絡……。ヤツが来る……!」

 その知らせは、その日の内にナーカシにまで届く。そして依頼書が依頼ボードに張り出された。内容は「オーウの進路変更」というものだ。

「おーう……ってなんですか?」

 最近エリやリュウに文字の読み書きを教わっている北上。なんとか依頼書を読めるまでに成長しているようだ。

「オーウっちゅうんは、この周辺を徘徊しとるデッカいバケモンじゃ。徘徊する時間もものっそい長いんじゃて。確か前回この辺さ徘徊しに来たのは、うちらが生まれる前の十七年前で、そん時はスイフの町さ蹂躙していったそうじゃ」

 経済的にも物質的にも栄えているスイフが蹂躙される程の化け物。それを想像するだけで天災のようなものだと理解できるだろう。

「んで、これの進路変更が主目的の依頼とな?」

「参加する団体は、スイフ自衛団と周辺組合員の参加希望者全員ですか……。ずいぶんと大所帯ですね」

「そんだけオーウの脅威ばあるちゅうことじゃ。うちらも参加すんべ」

「せやな。ナーカシを破壊されたら元も子もないっちゃ」

 こうして北上たちは、オーウ攻撃に参加することになった。数日後、オーウ攻撃に関する説明会がスイフにて開催される。

「本日はお集まりいただきありがとうございやす。本日はオーウ攻撃に関して説明をさせていただきやす」

 前回集まったときの会議室ではなく、より多くの人を集められるように大会議室で説明が行われる。

「さて、皆さんご存じかと思いやすが、超巨大不明生物オーウが接近しつつありやす。この中にはオーウを詳しく知らない方もいるかと思いやすので、簡単に説明させていただきやす。オーウとは、スイフ以北を彷徨する謎の超巨大不明生物のことでありやす。これまでに幾度となく討伐隊さ編成され、討伐しにいきやしたが、その全てにおいて失敗しとります。前回襲来時には、スイフの街中まで入られ、甚大な被害さもたらしやした。そのため、今回は討伐を目的さするのではなく、彷徨の進路さ変更することを目的としやす」

 それを聞いただけで、オーウの脅威を知らない人は想像を絶する光景を思い浮かべるだろう。それこそまさに地獄である。

「というわけで、組合員の皆さんにば申し訳ないんですが、前衛、つまり攻撃主体を組合員の皆さんにお願いしようと考えていやす」

 その言葉に、少しざわめきが入る。スイフ自衛団はどうするのかという声も聞こえた。

「スイフ自衛団は、スイフ周辺の町さ守ってもらう事になっとります。詳しく言えば、ナーカシ北部を基準とした防衛線を張り、そこを防衛するというものになりやす」

 さらにざわめきは大きくなる。組合員を捨て駒にしているようなものだからだ。

「皆さんの不平不安さ分かります。しかし、我々公務員さ守るべきもんは、民間人である事さ忘れんさいでください」

 こうして説明会は終了する。終了時に、このような説明会をあと数回程行うことがアナウンスされた。

「オーウ、実物を見ない限りはなんとも言い難いですね……」

「俺のおかんが言うには、それはもう災害の権化だったと言っとったな」

「うちもまだ生まれてなかったけんなぁ。どんな災害かよく分からんね」

「今日は攻撃の方法や動き方も聞かされませんでしたし、あとで説明するんですかね?」

「そうじゃろうな。とにかく、今日は宿に戻るべ」

 そういって北上たちは宿へと戻っていった。その後も二回にわたって説明会が開催される。その要点を摘まみだすと次の通りになる。まずオーウは超巨大であるため胴体や頭を狙うのは困難であること。また今回の攻撃は牽制兼進路妨害であるため、攻撃は脚部のみとすること。イワーキーからの情報で、ナーカシに最接近するのは一ヶ月後であること。その他諸注意などを受けて、説明会は終了した。あとは作戦日まで待機するだけである。

「さて、俺らも多少準備するか」

「何かありましたっけ? 靴でも新調します?」

「まぁ、服さ新調したいね」

 そんなことを言いつつ、時間は過ぎ去っていく。しかし、そう単純な話ではなかった。それはすぐに現れた。この日はフリーであった北上たちは、偶然スイフ役所の近くを歩いていた。すると、突然叫び声が聞こえてくる。

「スイフ自衛団はオーウの攻撃さ止めろー!」

『止めろー!』

「役所の横暴さ許さないぞー!」

『許さないぞー!』

 突如として始まる謎のデモ。野次馬に混じって北上たちも覗きに行く。

「何事です?」

「あぁ、いつも役所のやることに文句つける団体じゃ」

「いつものやつやねー。いっつも厄介なことしかせん面倒な団体じゃけぇ」

「はぁ……」

 いつどの世でも、このような団体はいるものなのだなと北上は思った。その時、北上たちの後ろから声をかけてくる人がいた。

「君んら、組合員のもんかね?」

「あぁそうじゃが、おまんは?」

「スイフ自衛団のもんじゃ。すぐにスイフ役所さ来てほしい。あの面倒な奴らが役所さ押し入ろうとしとるんじゃ」

「それは大変や。すぐに行くべ」

 エリがスイフ役所に向かって走りだす。北上とリュウは、エリの後ろを追いかける。スイフ役所の前に着くと、役所に押し入ろうとする民間人とスイフ自衛団が今にも叩き合いを始めそうな雰囲気を醸し出していた。いや正確に言えば、言いたい放題の民間人と、役所を守るために黙る自衛団という構図か。自衛団の前には、十数人の組合員が点々としている。北上たちも自衛団に加勢すべく、横から入った。その瞬間、民間人から罵詈雑言を受ける。

「おまんら、役所の味方さするんか!」

「役所は全てを知っとるんじゃ! 悪の親玉なんじゃ!」

「騙されたちゅう人もおるんじゃ! そんなヤツを放っておくわけにゃ行かんじゃろ!」

「疑惑は深まるばかりじゃ!」

 正直、聞くに堪えない言葉ばかりである。北上のいた元の世界だったら、一昔前にいたタイプの連中だろう。結局、怒号を浴びせるだけ浴びせて、そのまま帰っていった。

「耳が痛くなりそうじゃ……」

「ああいうのは厄介じゃからのぉ。もしかしたら明日も来るかもせんな」

「そうなると、僕たち明日も警備に出ないといけないんですかね?」

「ちょっと自衛団に聞いてくるわ」

 リュウが自衛団の人に話を聞いてくる。数分後に戻ってきた。

「明日以降も警備してくれたほうさありがたいと」

「んじゃ、明日も警備するべ」

 それから連日に渡って、オーウへの攻撃反対運動は続いた。ある日は警察まで出動し、一人が警官をぶん殴ったことで大暴動に発展する。これにより逮捕者が八人も出た。またある日は、罵倒によって頭にきた組合員が民間人に暴力を振るいそうになってひと悶着するなど、とにかく面倒という言葉では言い表せないことだらけである。

「なんなんあいつら。変な主張ばっかいいよってからに……」

「あれでも俺らが守らんといかん連中じゃ。文句の一つも言いたくなるがの」

 そういって、一週間ほど経過する。すると今度は、明らかに面倒な団体がスイフ役所にやってきた。

「オーウ教団じゃ! 教祖様のおなりじゃ!」

 謎の神輿の上には、ただのふくよかな老人がいた。無精ひげも生えており、正直清潔感のかけらもない。しかし周りの人からは、過酷な修行の成果などと囃し立てている。

「教祖様が役所の長と話をしたがっておん。中に入れろ」

「そういうことさ受け付けておりませぬ。急に来られても困ります」

「わざわざ教祖様さ足を運んでくださったちゅうのに、そういう態度さ取るんで? あなた方ば不幸さ起こりますど!」

「んと言われても……」

 役所の職員が困っている。役所の周りでは、自衛団と組合員に対して市民団体が衝突をしていた。正直カオスである。

「あーもうめちゃくちゃだよ……」

 北上は頭を抱える。やってることは民主的で先進的ではあるものの、完全に幼稚だ。

「明日出直す。そん時さ対話出来るようさしとき!」

 そういってオーウ教団の連中はそのまま帰っていった。

「結局なんだったんだ……?」

「自分の気に入らんことを言う子供の言い草じゃ。まともにせんほうがいい」

「オーウ信仰は少なからずある。そんだから、ああいいう連中は許容せんといかん」

「それでも限度というものはあるでしょう?」

「限度を知らん人間がやっとるんじゃ。少し我慢せい」

 そんな中、スイフ役所の近くにいた自衛団や組合員に集合がかかる。

「先ほど会議にて、オーウ教団と対話することさなった。しかし、本物の長さ出すことはしない。そこで、影武者さ用意して、対話の場さ用意することにした。誰か影武者をやっとくれる人さおるか?」

 しかし皆無であった。当然だろう。火を見るよりも明らかに面倒な役割なのは分かっている。誰がそんなことを進んでやるだろうか。

「んならこっちで勝手に決めやす。えー、スイフ自衛団のバソ大尉。長の影武者をやってもらいやす」

「自分ですか?」

 そういってバソ大尉が出てくる。

「頼む、我々のわがままを聞いてくれ」

「はぁ……。分かりやした。依頼さ受けます」

 その後は、警備という名目で証人を増やすために、組合員から何人か引き抜かれる。その中には北上たちもいた。

「んでは明日はよろしくおなしゃす」

 そして翌日。太陽が昇る前に、役者が集まった。小会議室にて長役と警備役が待機し、オーウ教団が来るのを待つ。しばらくすると、会議室に教祖と呼ばれる老人と数名の取り巻きが入ってきた。

「よくお越しさなりました。どうぞお座りくだせぇ」

 バソ大尉は上手く演技をする。教祖は無口のまま、取り巻きに介抱されるように座る。

「ほんで、今日は何用で来よったんですか?」

「――」

「はい?」

 教祖は何かをしゃべっているようだが、何も聞こえない。あまりにも声が小さすぎるのだ。その代わり、取り巻きが耳を近づける。

「教祖様は、オーウ神への攻撃を止めるようにおっしゃっています」

 取り巻きが教祖の代弁をする。

「オーウへの攻撃さ止めるようにおっしゃいやすが、それは何故でしょう?」

 再び教祖が何か話すが、何も聞こえない。また取り巻きの人が話を代わりに聞く。

「オーウ神は、この世に存在する現つあきつかみであるからです」

「オーウさ神である証拠というものは存在しやすか? こちらとしては、そのような証拠さないのですが」

「こんは、我々の教典さ書かれているんです」

「そいは一方的な言いがかりというものでは? 我々さ証拠を重視するもんでね」

「教典ば真実を元に書かれているもんです」

 いつの間にか教祖の話を聞かずに、取り巻きの人が反論している。

「こちらでも色々調べやしたが、そんな証拠さありませんぞ?」

「当たり前です。教典ば神が直接託したもんです」

 バソ大尉は困ってしまった。話が通じないというのも、なかなか苦労するからだ。バソ大尉は思い切った決断をする。

「もう話になりやせん、帰ってください」

 その場にいた組合員は全員驚く。念のため会議室にいた役所の職員も驚いている。確かにクレーマーには、真面目に対処しないで追い出すのは最適解ではある。しかし、オーク教団側は帰るどころか、話を続ける。

「我々はオーウ神の名の元に、生き人さ与えんといけんのですよ」

「……何ですと?」

 バソ大尉は聞き返す。生き人を与えると言うことは、言い換えれば生贄を捧げると言うことに等しいからだ。

「生贄を捧げるというのか? そげなことは人道に反する」

「いえ、これば神の導きどす。誰にも覆せん決定事項どす」

 このままでは罪なき人間の一人が、多人数のエゴのために死ななくてはならなくなる。それだけはなんとしても阻止しなければならないだろう。そのために、バソ大尉は対話を開始する。

「そげはどうしても、教団の人でなければならんのですか?」

「はい。教団の教えを信じ、鍛錬を積んだ人間しかなることさ出来ません」

「それさすれば、何が起きるんで?」

「オーウ神は生贄を食らうことで、災いから我々さ守ってくれるんどす」

「何か、証拠のようなもんはありまっか? 例えば過去の文献なり――」

「教典にば、そのことも書かれとります。これさ何よりの証拠さなるでしょう」

 そういって取り巻きの人が、教典であろう本を見せびらかしてくる。

「しかしですな。その教典さ我々の認知外の本でして、確たる証拠というもんにさならないんでして……」

「教典さ信用せんと言うんですか?」

 そういって取り巻きたちは急に怒り出した。

「我々オーウ教団ば全ての人間を救うべく活動しとる団体じゃ! この世さ産まれた全ての人間が救われるまで活動を続ける! オーウ神こそ我々人間が崇拝するべき唯一の神じゃ!」

 すでに会議室の中はオーウ教団メンバーが叫ぶ、うるさいライブ会場と化した。会議室にいたスイフ職員が止めるように指示を出す。それを合図に、組合員は穏便に事を収めようと、オーウ教団のメンバーに近づく。北上も何とかメンバーをなだめようと、そのうちの一人に接近した。

「ちょっと落ち着きましょうか……」

「何じゃ! お前さんもオーウ様のことさ馬鹿にしよるんか!?」

「いや、そういうわけではないんですが……」

「じゃかしいわ! この不届きものめ!」

 場は静かになるどころか、どんどんエスカレートしていく始末である。このような状態になってしまっては、手の施しようがない。しかし、何か対策を行わなければ何かしらの被害が出ることだろう。現に、簡易椅子の一部が破壊されている。

 その時、北上にある考えを思いついた。しかし、これをすると最悪の場合被害者が出る可能性がある。だが、それほどまでに状況は逼迫しているとも言えるだろう。北上は叫ぶ。

『天にまします我らの神よ、我に力を授けよ!』

『空気拡散!』

 その瞬間、会議室の空気圧が二割ほど減少した。それと同時に、急な減圧による頭痛や吐き気、その他様々な体調不調を訴える人が続出した。それは、オーウ教団のメンバーもスイフ側の人間も等しくだ。もちろん北上も多少気持ち悪くなり、耳鳴りが起きた。だが、これによって、会議室に怒号は響かなくなった。

「皆さん、一度落ち着きましょう? せっかくの対話の途中なんですから、もっと建設的に生きましょうよ」

 北上は吐き気を飲み込んで、説得に入る。

「ここは話し合いの場です。言い争いをする場所ではありません。言葉の暴力を振るいたければ、そこらへんの路地裏にでも行って適当な人を捕まえてやってください」

 かなりキツい言い方をしたかもしれないが、こうでもしないと明確な意図は伝わらない。しかし、意図を勘違いして聞く人もいる。

「んだと!? ワシらは裏道のホームレスがお似合いっちゅうわけか!」

「そこまでは言っていません。ただ、話し合いをするなら、対話というものをちゃんと理解してからしてくださいと言ってるだけです」

「嘘つけ! おまんがワシらの事を目の敵にしとるんば知っとるぞ!」

 こうなるととにかく面倒である。北上が何か言い返そうとしたが、そこに役所職員が割って入ってきた。

「落ち着いてくだせぇ。我々さそこまであなた方さ否定するもんではなか」

「そこの若いもんが悪いんじゃ! あいつさとっとと追い出せ!」

「いいから落ち着いて」

 なんとかなだめる職員。一方、北上の元に別の職員がやってきて、小声で話す。

「あんちゃんも言葉には気ぃつけな。それと、魔法さ解除してくれ。頭痛がひどくて敵わん」

「あ、すいません」

 魔法を解除すると、急激な気圧変化でまた気持ち悪くなる。結局、体調不良なのは変わらないのであった

 そんな中、教祖の後ろに何者かが立った。修道女という言葉にピッタリな女性だ。顔のしわから、かなりの歳を取っていることが分かる。

「役所の長様、どうか教祖様ん話を聞いてくだせぇ」

「あなたは?」

 バソ大尉はあくまでも演技を続ける。

「私さオーウ教団のシスターです。教祖様ん言葉は絶対です。言うことさ聞かんと、大変なことさなります」

「大変なこと……。例えばどういうことで?」

「数ヶ月前、食料危機さあったことは記憶に新しいと思んます。あれは、オーウ様んによる神託なんです」

「……まさか」

 バソ大尉は信じられないという声を上げる。しかし、シスターの顔からは本当のような雰囲気を感じ取れるだろう。

「教祖様さこの危機に対して警告ばなされてました。それが何よりの証拠でしょう」

「そんなことさ後からいくらでも言える。問題は彼の言葉さどこまで信用できるかです」

「それはこれまでの説明から分かっているでしょう。オーウ様さスイフの近くまで来とります。今すぐ生き人さ捧げんと、大変なことさなるでしょう」

 その話を聞いた北上は思った。これは出来レースであると。もともとオーウは超巨大不明生物であるが故に、広範囲にわたって被害が出ることは百も承知である。ここでオーウに対して攻撃を行わなかったら、以前のようにスイフや周辺市町村に多大な被害を被る可能性は否定できない。

 おそらくオーウ教団はそれを知って、このような茶番劇を繰り広げているのではないだろうか。そんなことを北上は思う。

 バソ大尉とオーウ教団の対話は続く。

「教祖様さ言うには、オーウ様に生き人さ捧げんと、十七年前と同じことさ起きると仰られております」

「それを阻止すんためにも、我々は行動すると言っとるんです。そもそもそれは、教祖による予言ですか? そんとも戯言ですか?」

「真実さ言葉です。教祖様ん言葉は全て予定調和であるんです」

 結局、バソ大尉とオーウ教団との意見は平行線のままであった。

「しかしですな。我々としてんも、周辺市町村からオーウに対する攻撃要請さ来とるんです。要請さあったら、我々は動かざるば得ないんですよ」

「そんはオーウ様への冒涜です」

「あなた方さオーウのことを神としていやすが、あれはそもそも神ではありませぬ。どうも認識に食い違いさ起きとるようで」

「オーウ様が神であるかどうかさ役所が決めることではありやせぬ。オーウ様自身さお決めになるもんです」

「んでしたら、オーウが神でなかった場合さどうするつもりで?」

「それば絶対にありえません。我々ば神のおぼしめしで存在するのです」

 両者共に意見が平行線を辿り、交わることはなかった。このままにらみ合いが続くと思われたその時、教祖が急にうめき出す。

「教祖様!」

 取り巻きの信者たちが教祖の安否を心配する。教祖は椅子から崩れ落ちると、ありったけの力を振り絞って声を発した。

「天罰が下る……!」

 そして教祖は、そのまま地に伏す。教祖の死を悟った取り巻きの信者たちは、その場で泣き崩れた。その光景を見た北上は一言。

「何これ……」

 壮大な茶番劇を見せられたような感覚に陥る。信者たちの泣き崩れ方は、とある北の国を思い起こさせてくれるだろう。結局、信者たちが教祖を背負って役所を出るという形で、対話は終了した。

 しかしその後も、オーウ教団や市民団体はたびたび役所を襲撃する。オーウ教団は投石などで役所に被害を出して警察が出動。市民団体は生物愛護団体と共に結託して、オーウ攻撃反対署名を提出して抵抗を図る。しかし、それらにスイフ役所はまともに取り合うことはせず、結局は徒労に終わるのだった。もちろん、反対署名が提出されたからには再検討の場を設ける。しかし、再検討の会議は結論ありきの既定路線であった。つまり、オーウ攻撃は実施するという方向性は変わらない。

 それどころかスイフ役所と周辺市町村は、この反対署名回答期日より早めることで、実質無回答とする暴挙に出る。これには若干現場も混乱し、一日程度様子を見ることとなった。

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