第5話
「あははははは!!!恋人同士ってこんな事をささやきあってるんだ!」
勇さんはため息をついてるが、私はこっぱずかしくなる言葉を聞きながら、カップルの目の前で大声で笑う。
そんな中、真剣にプロポーズをしている男性を見つけ、そちらに向かうと、何故か女性の顔が引きつっている。
嫌なのかな?
そんな事を思いながら、真っ赤になって結婚して下さいと言う男性の横で変顔をして遊ぶと……。
「いやぁあああ!女の子のお化け!?あなた一体何したの!?」
女性はそんな事を叫び逃げ出し、残された男性はポカンとした表情の後、慌てて追いかけていった。
「……奈美さん……」
「……やっちゃった?」
あの女性は、どうやら霊感というものがあったのだろうか……。
勇さんは頭を抑えて俯いているけれど、止めなかったから同罪だと思う。とりあえず、この遊びは封印しようと心に決めた。
「遊びは封印したんじゃなかったか!?」
「これは遊びじゃない!興味!!」
「屁理屈!!!」
勇さんとそんな事を言い合いながら向かっているのは、私が生前気になっていた男の人の所だ。
一つ年上の先輩で、かっこよくてサッカーも上手で、爽やかでイケメンで笑顔が素敵で、文句なしすぎて皆から人気のあった人だ。美人なギャル先輩が周囲を囲っていたので、こっそりファンクラブまで出来たくらいだった。
先輩が卒業してしまい学校が別になったからこそ見る事も出来なくなったんだけど、むしろこんな時こそ普段見せない姿が見れるのでは!?なんて思う。
「先輩の部屋!どんなんだろ~?」
「痴女か変態か」
「失礼な!」
憧れがあっても当然だと思う。気になる人の部屋とか、やっぱ気になるじゃん!!
「確かここら辺だった筈」
「住所を知ってる理由……は、聞かない」
断じてストーカーではない、という意思を込めて勇さんを睨む。ストーカーだったら、とっくに家を知ってる筈だ。今こんな風に探していたりはしないだろう。
そもそも住所だって、そのファンクラブの子達が入手していただけにすぎない……私は入っていなかったけど、こっそり写真画像とかは流通していたし、情報も多少流通していた程だ。
あれ?そう考えると、プライバシーって何だろう?
人気者はつらいね!芸能人並みだね!で終わる問題ではないような……。
「ま、死んでるからいいか」
「生きてるから」
色々考えてしまったけれど、その一言に尽きる!と思えば突っ込みを入れられた。
生き返るというか、身体に戻る気は皆無なんですけどね。
「あ、あった!」
マンションのポストに表札を見つけて、私は歓喜の声を上げるが、勇さんはため息を付いて諦める気はないのかと呟いているが聞かなかった事にする。諦めるとか何よ。
今は色々な問題で表札をつけない人も居るけれど、ここはオートロックマンションの中だからか、表札はしっかりつけられてる。幽体からしたらオートロックは無意味です、ありがとうございます!
そんな感謝の気持ちを持って手を合わせて拝んだ後、部屋番号を確認して私は向かう。
「躊躇いが一切ない」
「わくわく感しかない」
勇さんの言葉に、そう返す。
部屋の前に着いた時、思わず一礼して、お邪魔しますと呟いた後に扉をすり抜ける。
中は暗く、リビングだろう場所には誰も居ないけれど、とある部屋から先輩の話声が聞こえる。電話でもしてるのだろうか?
――いや、親が居るから部屋は無理かな
――僕の事を信じてくれないの?
そんな声が聞こえて、電話の相手は彼女かなと思えた。高校に入って彼女が出来た可能性は高いだろうけど、それならファンクラブの子達が悲壮な顔つきで生活してそうなんだけど、と思いながら扉からニュっと顔だけ通り抜ける。
「げ」
思わず漏れた声。嫌なものを見たかのように眉間に皺が寄ったのを自分でも理解できた。
足の踏み場がなく、物が散乱していて、それはゴミなのかどうかさえも区別がつかない。肉体を持っていたら異臭を感じるんじゃないかと思える程の散らかりで、幽体なのについ鼻をつまんでしまった。
――汚部屋――
まさにその言葉がピッタリで、爽やかな先輩からは想像もつかない。
「これ、白い靴下だよな?」
勇さんも何故か鼻をつまんだ状態で、指さした先には足の裏部分だけが茶色を通り越して黒くなった靴下が何足もあちらこちらに散乱している。いや、洗濯機に入れようよ!?サッカーで汚れたんだとは思うけどさ!
ドン引きしている私達をよそに、電話を終えただろう先輩は、えーっと次は……なんて言いながらパソコンを弄ると、また電話をかけ始めた。
――デート?その日は部活があるんだ、ごめんね
――その日なら大丈夫かな。そうだね、ホテルでも行く?
「うわ」
勇さんが更に引いたかのように一歩下がって声を出した。うん、わかる。私も内心、は?ってなった。
先ほどまで先輩が眺めていたパソコンを見ていると、女の名前がたくさん書いてあり、特徴や性格、当たりとか外れとかまで書いてある。
「サイッテー」
思わず低い声を出してしまう程だった。女を何だと思ってるんだろう。私の怒りに呼応するかのように、周囲の物がガタガタと揺れだした。
「あ!奈美さ……」
「うわぁあ!?お前、誰だ!?」
勇さんの言葉に覆いかぶさるように先輩が怯えた声を上げる。視線はバッチリと私に向いていて……私は怒りのまま、睨みつけて……。
「恨んでやる……」
「ひぃいいいいい!!!!!???????」
悲鳴を上げながら部屋を飛び出した先輩は、そのまま家からも出て行ったのだろう。ドアの音が聞こえたかと思うと、部屋に静けさが戻った。
「奈美さん……」
「後悔はしてないし反省もしない」
乙女心を踏みにじってる奴に、ちょっとしたお仕置きをしただけじゃないか。
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