第2話
「ほんっとうにごめん!」
「え……えっ!?」
私より少しだけ年上だろうと思われる人にそんな事をされて、わからない事だらけすぎて混乱して挙動不審になってしまう。というかパニックだ。
半分泣きそうになりながらも脳が処理速度に追いついていないせいか、どこか冷静な部分が自分にもあるようで、でも活動は停止しているようで自分自身わけのわからない中、ただ一言だけ何とか言葉を絞り出す事が出来た。
「……説明」
「喜んで!」
元気な飲食店を彷彿させる即答された返事に、まずは落ち着こうと膝を抱えて座りなおす。
ずっと……ずっと、自分を抱きしめるのは自分だけで、こうやって自分の人肌で温めて落ち着く事を覚えてきていた名残とも癖とも言える行動。
話を聞く気がありますよという意思表示的に男の人の目を見ると、前髪の隙間からチラチラと見える素顔がそれなりに整っている事に気が付いて、思わずドキッとしてしまい視線をそらしてしまうが、相手はそんな事に気が付いていないかのように話し出した。
「間違えて魂を取り出しちゃいました」
軽く、とても簡潔に。
「……」
「……」
耳に入った言葉が意味を持たないものとして、理解する事なく頭を横切っていく。
しばらく、その言葉の意味を考えに考え………………。
「え?じゃあ私、死んだの?」
真っ先に脳内を駆け巡った疑問を口にした。
「いや、生きてますよ?生きてるうちに身体へ戻ってください!」
「あ…………はぁ…………」
色々と不思議な事は多々あるものの、とりあえず簡単に理解できた事といえば、間違えて魂を取り出されたから、生きてるうちに身体へ戻れと言う事。
まだまだ処理活動が追い付かない脳内で、言われたままに頷こうとして……まるでフラッシュバックか走馬灯のように、私の頭の中で駆け巡ったのは、誕生日の出来事だった。
「…………あ……」
「どうしたの?おねーさん」
完全に停止した私の顔を覗き込むかのように、男の人の顔が目の前にくるが、それに焦ったりするより前に涙が溢れた。
頷く前に思い出したという事は、余程私は戻りたくないのか。生に未練がないのか。とさえ思えてしまう。
壊れた家族。
愛情に飢えて。
私はここに居ると心は叫び続け、枯れ果てた。
男の人が言うには霊体である今の状態で、まだ涙が溢れるのかと自分自身が驚く程に。
――どうせ死ぬつもりだった。
戻って何になる?
――生きる意味が見いだせない。
生きてるのか死んでるのか分からない毎日。
痛みなんてなかった。
あっという間に、気が付いたら、こんな状態になってた。本当は痛かったのかもしれない。けれど一切覚えていない。
ただただ目の前に広がったのは夜空から舞い散る美しい雪の光景で、最後の記憶がそれなんて、悪くないんじゃないかなと思う。
「戻りたくない」
「え?」
「身体に戻らない」
「えぇええええ!!!????」
はっきり言い放った私の言葉に、男の人は驚き顔を上げたかと思ったら慌てたように顔や手を動かす。
「それは絶対だめ!まだ死ぬ時じゃないんだから!間違ってしまっただけ!」
「間違ったのは私のせいじゃないし。むしろそっちの問題だし。私は戻らない」
「うっ」
そっちの過失だと暗に伝えたら、流石に言葉に詰まったようだ。そりゃそうだろう。間違えましたから戻って下さい、なんて虫が良すぎると思わないのかな。
私的には、むしろ間違ってくれてありがとうと感謝の気持ちさえ沸き起こる。だって私は目標を叶える事が出来たのだから。
「一週間だけだから!」
しばらく考えていただろう男の人が何か言うが、私はそれを無視した。
「一週間を超えると………………」
期限付きなんて冗談じゃない、私に戻る気はさらさらなくて、話を聞く事なくキョロキョロと辺りを見回した。
「ねぇ、ここはどこ?天国とか地獄って呼ばれるところ?川はないけど三途の川は??」
「おねーさん、話聞いて……」
「年上に見える人に、お姉さんって呼ばれるの、何か嫌だ……」
いきなり放った私の言葉に、呆れたように返されるが、呼び方に違和感を感じる。
「見た目とは違うんだけどね……じゃあ奈美さん?」
「私の名前知ってるんだ……さすが死神?」
「死神……」
私の言葉に少し歪んだ表情を見せる男の人だが、確かにその通りだと肩をすくめた。
魂を取り出したり、寿命を知っていたりなんて、物語上には死神として描かれているのは、書物の共通事項だと思う。だからこそ迷いなく死神だと思ったし、神とついている以上は、神に等しいものだと思うから。私の事をある程度知っていても理解できると答えると、男の人は更に苦笑してある程度はね、と答えた。
その言葉に私の表情が影ったのを悟ったのか、男の人は話題を変えてくれた。
「勇だよ。僕の名前」
「じゃあ勇さん。話は戻すけど、ここは?」
「現世と冥府の境目かな」
勇さん曰く、この何もない空間は魂に説明を行う為に作られた空間らしく、現世でもなく、冥府でもない一時的な場所らしい。
だからこんなに果てしなく、ただただ白いだけの空間なのかと、どこか納得してしまう。
「冥府へはどう行くの?」
「行かないから」
私の質問に少し食い気味のように返された。
更に念押しのように一週間だけだと更に言われる。一週間たって戻ったとして、何がどうなると言うのだろうか。今となっては親に愛された記憶すら薄らいでいて、本当に愛されていたのかさえも疑問に思える。
幼い日々の幸せな記憶は、ただ私が作り出した妄想なのではないのだろうかとさえ思ってしまうのだ。
何て後ろ向きでネガティブなんだろうと思うけど、幼い頃からの七年は長いと思う。
「一週間か……寝る?」
「魂は寝ないよ」
「美味しいものを食べる……?」
「食事も必要ない」
ここで一週間……というか冥府に行くまでの過ごし方を考えて口に出すと、悉く勇さんに却下される。
「じゃあ現世ツアーしたい!!」
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