クリスマス・イブ(1)
「事件が起こったのは、3年前のクリスマス・イブです。梶祐介さん。あなたは、秋本理佐さんの浮気を疑い、GPSを駆使して様子を見に行った。で、いいですね?」
「……」
「祐介さん。もう、お互いに知ってるんですから、観念しましょうよ」
「……はい。でも」
「でも?」
「不安だったんです。いつも不安だった。理佐が自分のことを本当に好きでいてくれるのか。もしかしたら、まだ……海斗のことを好きでいるんじゃないかって」
「……」
「気が済みました?」
松下は、祐介の方をジッと見つめる。
「……っ、あんたねぇ!」
「要するに、『理佐さんのせい』だって言いたいんですよね?」
「違う! 俺は、本当に……」
「違う? でも、そう聞こえますよ。ねえ、理佐さん」
「……ごめんなさい、祐介」
「いや、謝ることないですよ。あなたは別に友達と会うと言うことをキチンと告げた。その時に、祐介さんが『嫌だ』って言えばよかっただけの話じゃないですか」
「……」
「……」
「話、続けますね。そして、あなたは理佐さんと女性がバーで飲んでいるところを目撃した。そうですね?」
「……はい」
「わかりました。では、理佐さん。あなたは、クリスマス・イブの日、海外から帰って来たと言う親友の篠原渚さんと会いました。そうですね?」
「はい」
「ですが、祐介さんが見た人は、別の女性でした。なぜか」
「……」
「理佐さんは同じ日に別の人と会ってたんです。あくまで、篠原渚さんは、カモフラージュに過ぎなかった。何のためにそんなことをしたんですか、理佐さん?」
「……」
「理佐さんもその女性を尾行していた。そうですね?」
「……」
松下の問いに、理佐はコクリと頷く。
「確かめたかったんです。クリスマス・イブに幸せそうにしている海斗と彼女を見て、私の中に、まだわだかまりが残っているのか」
「なるほど。女心ってやつは、複雑怪奇ですよね。ハッキリ言って、全然わからない。ですよね、祐介さん」
「……」
「未練タラタラで嫌いになっちゃいました?」
「いや、ならないですよ。仕方ないです、海斗はいいヤツだったんで」
「また、そんなこと言うから。ハッキリと言ってやればいいんですよ。『面倒くさい女』って」
「そんな言い方……」
「祐介さん。言わなきゃ、わからないですよ。思ってることは口に出さなきゃ伝わらないです。それとも、そうやって偽りの自分を見せて生きていくんですか?」
「……」
「続けますね。理佐さんは、その女性を尾行して店の中に入った。そして、海斗さんが来るまで、ずっと篠原渚さんと話をしてお酒を飲んだ」
「……はい」
「でも、海斗さんは来なかった。お酒の力もあって、理佐さんはその女性に声を掛けたんですね」
「はい。お互いに初対面だったんですけど、結構話が盛り上がって。その時に、渚は別の男の人と話してたので、それを祐介が見たんだと思います」
「なるほど。やっと、事実が合致しました……あれ? でも、おかしくないですかね。それ」
松下が尋ねる。
「何がですか?」
「だって、尾行してた女性が海斗さんの彼女ってことになると、婚約者の栞子さんは?」
「……それは、私に聞かれても」
理佐がチラリと栞子を見ながら、気まずそうにつぶやく。
「やはり、2股を掛けてた……いや、でも海斗さんの性格上『あり得ない』って、みんな言うじゃないですか」
「考えにくいと思います。小さい頃から知ってますけど、海斗ってかなり不器用なんですよね」
「なるほど。だから、他の可能性も考えてみたんです」
「なんですか? 他の可能性って」
理佐が尋ねる。
「海斗さんは一途だった。一途に彼女のことを愛していた。栞子さんも海斗に一途だった。一途に海斗さんのことを愛していた。でも、違うのは互いに思い合っているか、そうでないか」
「……それって」
「ええ」
松下は振り返って笑いかける。
「栞子さんは、海斗さんのストーカーだったんです」
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