秋本理佐(2)
「……どういうことですか? 祐介がそう言ったんですか?」
「ええ。まあ、でも。クリスマス・イブに結婚を控えた彼氏を差し置いて女友達と会うなんて、疑われても仕方がないですけどね」
「バカみたい。それなら、言ってくれればよかったのに」
「本当、そうですよね。でも、心配になる気持ちもわからないでもないでしょう?」
「そりゃ、私も悪かったと思いますけど。でも、海外から帰ってきた友達で、滅多に会う機会もなかったですから」
「会ったんですか?」
「会いましたよ。中里さんが彼女の証言も取ってるはずですけど」
「確かにマスターもそう言ってましたね。篠原渚さんですよね」
「そうです」
「本人も第3者も証言している。それで、間違いなくアリバイ成立ですね。でも、ちょっとおかしいんですよ」
「……おかしい?」
「祐介さんの証言と違うんです。篠原渚さんの写真を見せたんですけど、この人じゃないって言うんですよ」
「そんなはずないです。それは、祐介の勘違いです」
「いや、そうですよね。いや、それで何でかなーって思って。何でだと思います?」
「知りませんよ。祐介が勘違いしてるんじゃないんですか?」
「いや、そういう次元じゃないですよ」
「……どう言うことですか?」
「理佐さん。これは、殺人事件なんですよ?」
「……」
「被害者の関係者が、当日に嘘の行動を証言して、更に嘘の証言をしたってなったら警察の関係者はどう思います? あなたはどう思います?」
「それは……」
「疑うでしょ? だから、はっきりとさせときたかったんです。あなたは、篠原渚さんと会ったんですよね?」
「会いました」
「では、なぜ祐介さんとの証言が食い違うんですか?」
「……わかりません」
「なるほど。では、祐介さんが嘘をついていたという線でお話しを進めさせてもらっていいんですね?」
「なんでそうなるんですか?」
「だって、そうなりますよね。あなたの浮気が気になって、わざわざ見に来たんですよ? 普通、顔、見間違えないでしょう」
「……」
「だから、あなたがそう言い張る以上、祐介さんが嘘をついたことになっちゃうんですよね。それでいいんですよね?」
「祐介の見間違いかも。だって、その店にいたって言ってるんですよね?」
「理佐さんの方は第3者の証言者もいる。信憑性のある方は断然あなたです」
「誰か祐介の顔を覚えてる人もいるんじゃないですか?」
「いませんね。と言うか、3年前ですよ? そんなもの証拠になんてなりもしません」
「……」
「何もあげないんですね」
「どう言うことですか?」
「このままいけば祐介さんは、第1容疑者として疑われます。他にいませんしね」
「そんな……祐介がやってるわけないです!」
「いや、難しいですよ。当時も偽証して、今も偽証してたら。何でってことになるじゃないですか」
「……」
「理佐さん。優しさって、試すことじゃないんですよ?」
「……何を言ってるんですか?」
「試してるんですよね? どれだけ祐介さんが優しいか。約束に遅刻しても、待ち合わせをすっぽかしても、クリスマス・イブに他の人と会っても」
「……」
「だって、あなたは優しい人が好きだから。誰よりも……海斗さんよりも優しい人が好きだから」
「そんな……違います」
「まあ、でも。許してくれると思いますよ? 祐介さんがあなたのことを愛しているのなら。たとえ、理佐さんが嘘をついて、祐介さんが罪に問われて刑務所の中に入っても、多分、笑って許してくれるんじゃないですか?」
「っと、もうこんな時間だな。長いこと失礼しました。じゃ、行こうか相沢」
「……はい」
松下が立ち上がり、相沢もそれに続いて立ちあがろうとした時。
「あの、私……警察に言ってないことがあるんです」
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