遠藤栞子(1)


           *


 遠藤栞子は混乱していた。

 この男は、いったい、何を言っているのだろうか。さっきから、証拠もないことをペラペラと。

 ただ……この黒い目。

 さっきから、妙に言い当てられていることもあって、イライラする。発言がいちいち、勘に触る。だが、落ち着かなくてはいけない。苛立てば、あちらの思う壺だ。

 栞子は、泣きそうな表情を浮かべて振り返る。

「……中里さん」

「おい、ふざけんな! 栞子ちゃんに即刻土下座しろ! 何を言ってるのか、わかってるのか!? 離せ離せおい! 新堂、離さねえとぶっ殺すぞ!」

「……」

 わめき散らすだけの中里に、栞子は小さくため息をつく。

 ダメだ。

 この短足豚、本当に、使えない。

「ねっ? あると思うんですよ。彼女の死体が。だから、案内してくれませんか?」

「本当に頭大丈夫ですか? あるわけないです。あなたの妄想上の私は、なんでそんなことしたんですか? する意味がないでしょ」

「ないですね。でも、優越感あるでしょ?」

「……」

「ほら、あなたって、女優じゃないですか。この前、『容姿に自信ない』って言ってましたけど、あれ、本当ですか?」

「本当です。顔も好きじゃないし、スタイルだってーー」

「違いますよ。そこじゃないです」

「は?」

 なんだ、本当に、こいつは。

 イライラする。

「ほら、前に……なんでしたっけ? コンプレックスの塊、そう言ってましたよね。スタイルに自信ない? マッチ棒のような足? 自分から言わないですよね、あなたみたいな自己顕示欲強い女優タイプは。でも、自信がないのは本当だ。面倒ですよね、女ってやつは」

「あなたが言ったことの文脈上、そんな意味に捉えられないですよ。日本語喋ってもらえますか?」

「そうですか。なら、率直に言います。本当は、栞子さん。あなた、内藤皐月さんの姿。違いますか?」

「……」

 なんなんだ、コイツは。本当に殺してやろうか。決めた、次はコイツを殺してやる。バラバラのグチョグチョにして、あのクソ女と同じところに埋めてやる。

「あの……松下さん」

 そんな中、理佐がオズオズと声をかける。

「どうしました?」

「その……私の印象ですけど、外見的に内藤皐月さんて、そんな人が羨むような美人じゃなかったですけど」

「なるほど。栞子さん、そうですか?」

「会ったことないからわかりません」

 ああ、ウザい。苦し紛れに、いちいち、誘導質問をかけてくる。早く、この会話を終わらせて、懲戒免職クビにでもなればいいのに。

「じゃ、俺の印象を言いますね。皐月さんは栞子さんより綺麗ですよ。少なくとも、

「……」

 松下の瞳が、絡みつくように、まとわりつく。

「そりゃ、人によってタイプが違いますけど」

「そう言うことじゃないです。俺の目から見ても、栞子さんよりも、皐月さんの方が遥かに綺麗なところがある」

「……」

「理佐さん。女優ってのはね? 自分よりも綺麗な人に嫉妬するんですよ。まだ、皐月さんが不細工であった方が栞子さんは救われたかもしれませんね。言ってもいいですか?」

「……傘のある部屋、案内しましょうか?」

「あれ? いいんですか?」

「あなたが、あまりにもしつこいから。もう、本当にいい加減にして欲しいんです。でも、そこに彼女の死体がなかったら、もう、あきらめてくださいね」

「わかりました」

「……傘は、備品室にあります」

 そう言いながら。

 栞子は心の中で笑った。この男の推理は間違っている。傘は確かに海斗に貰ったものだ。だが、死体など、そんな場所にある訳がない。実際には、山の中だ。

 それを、どう言い訳するのか、本当に楽しみだ。あとは、中里でも焚き付けて、気が済むまで殴らせよう。懲戒免職になった後、夜道をつけて、あの女の時みたいに処分すればいい。

「案内します。こっちです」

 殺す。

 殺す殺す。

 殺す殺す殺す殺す殺す。

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……



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