遠藤栞子(2)


 栞子は、お茶を出しながら尋ねる。


「それで。捜査に何か進展があったんですか?」

「ええ。海斗さんの親友の梶祐介さんてわかります?」


 松下が、アルバムを見ながら答える。


「はい。彼がどうかしたんですか?」

「いや、新事実がわかりまして。実は、海斗さんが殺された夜に、外に出歩いていたらしいんですよ」

「……本当ですか?」

「ええ。恋人の秋本理佐さんて方が飲んでいたお店に行ったんですって」

「……」

「結構前から浮気を疑っていたらしくて。最近は便利ですね。GPSなんかで情報が把握できるんですって」

「……」

「浮気……ですか。あの、誰との」

「誰だと思います?」

「わかりません」

「それが、実は海斗さんじゃないかって思ってたんですって」

「あり得ないです」

「……なぜ、そう思うんですか?」

「なぜって……そんな素振り全然なかったし」

「でも、それで『あり得ない』ってなります? ないとくらいじゃないですか?」

「私はそう信じてます」

「なるほど。それは、素晴らしいですね。梶祐介さんにも聞かせてやりたいです」

「そもそも、死んでしまった海斗を疑って何になるんですか?」

「ですよね、すいません。でも、そういう仕事なんです。最悪でしょ?」

「……それで。梶祐介さんは、結果、理佐さんのところに行ってたんですか?」

「本人はそう言ってます。でも、信憑性は高いなって思ってます。レシートを持ってましたし。でも……」

「でも?」

「理佐さんと会っていた女性。その証言が異なってたんですよね」

「どう言うことですか?」

「髪型と身長と服装。それが、理佐さんの証言と一致しない」

「……理佐さんには確認したんですか?」

「これからです」

「早く確認して下さい。何で、嘘をついたのか聞いてください」

「そうなんですけどね。でも、何で嘘をついたと思います?」

「わからないですよ、私は理佐さんじゃありませんから」

「ですよね、俺もなんですよ。別に女性と会ってたんだったら、隠す必要ないじゃないですか。そう思いません?」

「……何が言いたいんですか?」

「いや、言ってるじゃないですか。なんでかなーって思って」

「だから、『早く聞いてください』って言ってるじゃないですか」

「まだ、仕事中なんですよね。残念ながら。だから、その間に栞子さんに確認しとこうと思って」

「何をですか?」

「海斗さんって本当に浮気したことなかったんですか?」

「ないって言ってるじゃないですか」

「本当に? そんな気配もなかったですか?」

「……いい加減にしてくださいよ。なんでそんなにしつこく聞くんですか?」


 栞子の声に不機嫌さが徐々に混ざる。


「いや、理佐さんが言ってたんですよ。一度、海斗さんの恋人に会ったそうなんですけど、あなたじゃなかったんですって」

「……」

「確か、栞子さんが海斗さんと付き合った期間は半年でしたよね?」

「それがどうかしたんですか?」

「いや、短いなと思って。結婚の約束してたんですよね?」

「してました。悪いですか?」

「全然。でも、理佐さんと別れてから、あんまり期間がないうちにその恋人に会ってるから。時系列を並べてみると、1、2ヶ月くらいしか時間ないじゃですか? そんな短い交際期間だったのかなって思いました」

「男女ですから、会わなきゃ数日ってのもありますよ」

「なるほどなるほど。まあ、大学生だから、それもあり得ますよね。でも、二股の方が可能性高くないですか?」

「でしたら、理佐さんが、その人と二股をかけられてたんじゃ? 私の時は私だけでした」

「うわ。結構辛辣ですね」

「私は彼女のことを知りませんから」

「海斗さんから聞いてもない?」

「聞きませんよ。前の彼女のことを話すと思います? 刑事さんって女性と付き合ったことないんですか?」

「えっと……そりゃ痛いところ突かれちゃいましたね。まあ、100人くらいは付き合ってるんですけどね」

「……」

「あれ、面白くなかったですか?」

「もういいですか?」

「いや、でも。今、外、雨じゃないですか」

「それがどうかしたんですか?」

「傘持ってなくて」

「貸しますよ。だから、もう早く帰ってもらえませんか?」


 栞子が玄関に行きビニール傘を差し出す。


「ありがとうございます。では、またわかりましたら、すぐにお伝えしますね」

「次は、必ず中里さんを連れて来てくださいね」

「ええ。もちろん」


 松下は笑顔で答えて、栞子の部屋を後にした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る