南雲康一(2)



「なんだ? これは、僕のものだぞ」

「ぼ、僕のものって。事件はみんなで解決するものでしょ?」

「事件? 僕はアリバイ崩しを指示されたのであって、事件の解決を指示されたのではない。そんなことは君たちで勝手にやってくれ」

「……は?」


 相沢が本日3回目のキレ声を出す。


「聞こえなかったのか? 頭だけじゃなくて、耳も悪いのか? 松下さん、この小娘、本当に大丈夫なんですか?」

「……っ」


 思わず殴りかかろうとした所を、松下にはがい締めされる。


「落ち着け、吉原。こいつの口と性格の悪さは折り紙つきだ。我慢しろ。南雲、こいつは期待の新人だ。ほどほどにしといてくれ」


 そう言われて、なんとか感情が落ち着いてきた。フン、とこれみよがしに聞こえるような声を出して、そっぽを向く。


「松下さん、誰の資料を渡したんですか?」

「教えない」

「な、なんでですか!?」

「まだ、お前の立てた犯人の目星を聞いてない」

「……松下さんが立てたんだからいいじゃないですか」

「よくない。いいか、現時点でのお前の実力には全然期待してない」

「ひ、酷い」

「だが、未来のお前の実力には少しだけ期待している」

「……」

「だから、相沢。お前はお前なりに犯人に当たりをつけろ」

「事件はゲームじゃありませんよ」

「ゲームだよ」


 松下はそう言い切って、相沢の瞳を見つめる。


「……」

「事件は、ゲームだ。ゲームなんだよ。少なくとも俺は、そう認識して結果を出してきた。否定したいか?」

「……はい」

「だったら、磨け。実力を磨いて、お前の主張を通せるくらいに」

「うー、わかりましたよ。わかりました、やればいいんでしょやれば」

「じゃ、早速コーヒー買ってこい」

「そんなこと言っておいて、いきなり雑用ですか!?」

「新人だろ? 当たり前だ」

「くっ……じゃ、先輩らしく奢ってくださいよ」

「あいにく、俺は役に立つヤツにしか奢らないと決めている」

「な、なんて自分勝手な決意」

「相沢さん、申し訳ないけど、これで買ってきて」


 吉原が千円札を出して、手渡す。


「さっすが。どっかのケチな誰かさんとは違いますね」

「微糖な、微糖」

「はい、ブラックですね。わかりましたー」


 と嬉しそうに相沢が走っていく。そんな後ろ姿を南雲はチラッと眺めて、松下の方を向く。


「役に立つんですか、アイツ?」

「もう少ししたらな。きっと俺の想像できないくらいに大きく育つよ」

「松下さんより? ちょっと考えられないな」

「目と直感がいいんだよ、アイツは。自分じゃ気づいてないけど。まあ、あとは実戦を100回ほどこなせば、立派な戦力になる」

「……そんなもんですか。そんな体育会系な育て方、今どき流行らないと思いますけど」

「野生の獣は、座学じゃ育たないんだよ。それより、新堂君。ちょっと、これ調べてくれ」


 松下はそう言って資料を手渡した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る