梶雄介
午後7時20分。パトカーを、走らせて5分。梶雄介のアパートに着いた。インターホンのボタンを鳴らすと出てきたのでホッとした。一人暮らしなので、残業とかであれば空振りだった。相沢は丁寧に事情を説明する。
「ああ。海斗のことですか」
「お話伺ってもいいですか?」
「もう全部話しましたけどね。中里さんでしたっけ? その刑事さんに」
雄介が面倒くさそうに答える。さすがは昔ながらの捜査員。抑えるところは抑えているんだなと相沢は中里を見直した。
「あらためて、事件を見直したいと思いまして」
「……そんなの、そっちでやって欲しいんですけどね」
と至極当然なことを梶は言う。これも当然で、被害者側からしたら思い出したくもない過去を何度も思い出さなければいけない。彼らの時間を使うという意識があれば、当然、中里から聞くのが正解だ。
しかし、松下はそうしない。それが、私情であるのか、他に理由があるのかは相沢には判断ができなかった。
「ごもっとも。ですが、一度取りこぼしがないか確認させてください」
「はぁ……。わかりました。俺も、犯人は絶対に捕まえて欲しいと思ってますから」
「ありがとうございます。では、お伺いします。雄介さんと海斗さんはかなり仲がよかったんですよね?」
「はい。それこそ、幼稚園から高校までずっと一緒だったので」
「モテましたか?」
「ですね。バレンタインデーとかは結構もらってましたし、サッカー部で運動もできましたから」
「大学に入ってからは?」
「モテてたと思いますよ。いいヤツだったし。とにかく、優しいんですよ。それで、勘違いして泣いてる女もチラホラいたって聞きますけど」
「浮気とかは?」
「うーん。ないと思います。中、高で彼女もいましたけど、浮気は絶対しないって断言してましたから」
「実際に彼女の名前とかは聞いてましたか?」
「いや。こっちも別の大学行ってたし、そこからは結構疎遠になっちゃってたんですよ。それは、大学生の友達に聞いた方がいいんじゃないですかね?」
「そうですか。他に気になったこととかありますか?」
「うーん。悩んでる様子は見せなかったですけど。大学生活も楽しくやってるって言ってましたし」
「そうですか。ちなみに、高校の彼女の方とは連絡取れたりしますか?」
「……いや。それが」
雄介がバツの悪そうな表情を浮かべる。
「どうかしました?」
「俺の彼女なんです」
「えっ?」
「だから、元カノ。海斗の元カノは、今の俺の彼女なんです」
「なるほど」
松下は思わず苦笑いを浮かべる。
「ちなみに、連絡してもらえたりします?」
「……まあ、いいんですけど。でも、理佐は……彼女の名前は秋本理佐って言うんですけど、別にモメてないですよ? 別れた後も普通に話してましたし。俺と付き合うことにした時も、キチッと話しもして、祝ってもらったし」
「ちなみになんですけど、海斗君と別れた理由わかります?」
「……好きな人ができたって言われたって。あいつ、泣きながら俺に電話してきましたよ」
「そうですか。ありがとうございます」
松下はそれ以上なにも言わなかった。それから、秋本理佐という女性に連絡を取ってもらって、そこに行くことにした。
パトカーに乗り込んだ相沢は、瞳を輝かせながらエンジンをかける。
「いや、びっくりしましたね。略奪愛ですよ、略奪愛」
「そんなに興奮するな。はい、バナナ」
「さ、サル扱いしないでくださいよ」
といいつつも、先ほどコンビニで買ったバナナを受け取りながら不満を言う。
「略奪愛ってほどでもないだろう。ただ、疎遠になった理由はなんとなく頷けるな」
「まあ、元カレが親友とか気まずいですもんね」
「なんだ、結構マトモだな。お前の年代だと年中乱交パーティが開かれてると思ってたが」
「どんだけ偏見持ってるんですか!? 都会ならともかく、田舎なんで。宮崎のど田舎なんでそんなこと全然なかったですよ。都会なら、ともかく」
「……こっちの台詞だ。都会でもねーよ。冗談だ。でも、秋本理佐って子に繋がったからよかったな」
「嫉妬して殺しちゃったってことですか? 彼氏いるのに?」
「まあ、そう言う可能性もあるだろうな」
にわかには信じがたい話だが、動機というものはそう言うものだと松下は続ける。
「絶対に犯人を捕まえて欲しいってのも、怪しいもんだな。
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