第18話 理由
*
「それがあなたが殺した理由ですか?」
相沢は調書を書きながら尋ねる。
「ええ」
「本当ですか?」
責めるような眼差しを向けるが、英昌は下を向いたままだ。
「はい。すみません」
「信じられない。奥さんになんの恨みもないじゃないですか。会社で嫌なことがあったことばかりなのに、なんで奥さんを殺したんですか?」
「それは」
「だから、わかってないな。相沢」
松下がスマホをいじりながらつぶやく。
「だって、今の英昌さんの話、吉村って後輩の人と、松添って係長の話ばかりだったじゃないですか」
「弱いからだよ」
「弱い?」
「ほら、その二人はさ。怖かったんだよ。ほら、聞いてるの後輩は若々しくてエネルギッシュ。係長は有能で威圧的。そりゃ、いけないですよね」
「……」
「だから、奥さんに当たったって言うんですか? そんなの、卑怯ですよ。八つ当たりもいいところじゃないですか」
「違うよ」
「違う?」
「誕生日だからでしょ?」
松下は英昌に笑いかける。
「……それで、奥さんが喜ぶと思ったってことですか?」
「違うって。お前、誕生日だぞ?」
「誕生日……ですよね? なんか、間違ったこと言いました?」
「喜ぶか喜ばないかなんて、関係ない。ケーキがあって、ロウソクがあって、夫がいて妻がいる。それが英昌さんの誕生日なんだから」
「なんですか、それは? 見てくれだけじゃないですか」
「そうだよ。見てくれが大事なんですよね?」
「大事じゃないですよ。大事なのは、中身ですよ」
「違う」
英昌はボソッとつぶやく。
「何が違うんですか?」
「吉村も松添もあなたも、全然わかってない。大事にしているものは、人それぞれだ」
「ですよね? ほら」
松下は勝ち誇ったように言う。
「あなたが一番こだわってるのは、対象性。シンメトリーであること。そうやって、生きてきたんですよね。そのために会社も結婚生活も送ってきた」
「……」
あれから。英昌は松下の言葉を無視し続けている。
RRRRRRR……
その時、松下の携帯音が鳴る。
「あっ、新藤君? 出た。さすが。英昌さん、出たって。包丁」
「……」
初めて、英昌は松下に視線を合わせた。
「ほら、包丁ですよ。結構時間掛かりましたよー。奥深く掘ったんですね」
「……なにを言っている? あんたが持ってたのがそれじゃないのか?」
「いや、偽物ですよ。偽物。超能力者じゃないんですから。あんな少しの情報で探せる訳ないじゃないですか。キチンと人員割いて、やらせてもらいましたよ」
「あんた……私を騙したのか?」
「騙すって、人聞きの悪い。可愛い嘘でしょ? 人殺すことに比べれば」
松下は、英昌の瞳を覗き込んで笑った。
「ひっ……」
「ずっと、俺のこと見下してましたね? あんたみたいなのがね。一番、簡単なんですよ」
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