第6話 被害者宅
*
20分ほどパトカーを走らせ、被害者宅に到着した。インターホンを鳴らすと、男が出て来た。被害者の夫、大山英昌だ。白髪がやけに目立つ。
資料の載っていた46歳という年齢よりも、かなり老けて見えた。元々の輪郭もほっそりとしているので、衰弱した表情がいっそう弱々しく感じる。
「このたび捜査を担当させて頂くことになりました松下です。現状の説明と、お線香をあげさせて頂きたく参りました」
「……ご丁寧に。どうぞ」
英昌は力無さそうに頷き、家の中へと戻った。二人は続いて玄関へと入る。廊下は白が基調の壁で、一切のものが置かれていない。掃除はされているらしく、ホコリ一つない。
どうやら、相当な綺麗好きらしい。写真立てが、下駄箱の上に二つ飾ってある。どちらも身を寄せ合っている笑顔の夫婦が映っていた。
靴を脱いで進むと、英昌がこちらに戻ってきた。相沢の横を通り過ぎて、松下の散らかった靴を整え始める。
「あっ、すいません。がさつでね」
「いえ。いいんですよ」
「……」
靴ぐらい、揃えろよ。なぜか相沢が恥ずかしくて、うつむく。一方で、英昌は煩わしい表情も見せずに、松下と相沢の靴、二足を下駄箱へと入れた。
なんてキチンとした人なんだろうと感心する。そして、なんてだらしいない人なんだろうと、相沢は松下を睨みつけた。
「あっ、ごめんなさい。その前にトイレ借りていいですか?」
「どうぞ」
「……」
コンビニで借りておけよ。この時、この瞬間、松下へのリスペクトゲージがゼロになった。
リビング。12畳ほどの間取りで、スペースに余裕がある。真ん中には机が置かれテレビ、ソファが等ピッチで置かれている。掃除もされており、角にもホコリ一つ見当たらない。もし、自分が結婚して、住むなら理想的な家と言ってもいい。
「どうぞ。座ってください」
英昌はそう言いながら、キッチンでお茶の準備を始める。
「あっ、お構いなく」
相沢はそう言いながら、松下を待つ。が、なかなかこない。また、なんか余計なことをしてるんじゃないかと、コソッと席を立ってリビングを出た。
「なにしてるんですか? さっさと来てくださいよ」
案の上、トイレ横の洗面台に、松下はいた。
「いや、これ」
松下が指さした場所には、歯ブラシが二つ。それを各々のコップに入れていた。
「本当に仲がよかったんですね。色もおそろいじゃないですか」
「妻がね。アジサイが好きだって言うんで。合わせたんです」
背後から声がして振り向くと、そこには英昌がいた。
「こっちが奥さん用で、こっちがあなた用ですか?」
松下の質問に、英昌が頷く。なんで、わかったのか相沢は思わず首を傾げた。同じ色。同じ大きさ。同じ種類。はっきり言って、どっちがどっちだか見分けがつかない。歯磨き粉も、同じ銘柄だ。
「妻は、こだわりが激しくて。買う種類も色もほぼ決まってました」
「なるほど。行動パターンにルーティーンが多かったわけですね」
松下が大山美幸の歯ブラシを手に持ちながらつぶやく。
「ええ」
「よく行っていた喫茶店とかあります? 交友関係ももっと知りたいですね」
「あの、立ち話もなんですから。お茶の準備ができましたので」
「ああ。そうですね、失礼しました」
松下はへラッと笑みを浮かべて、リビングへと向かった。忙しない人だなと、相沢は思う。
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