第5話 事件現場

           *


 信号を曲がると、急に細い道になった。対向車とすれ違うにはギリギリな割に、トラックがよく通るので、相沢は一度左に寄せて、対向車が通り過ぎるのを待つ。


 その間、本当にこの場所でいいのか不安だったが、なんとかナビの指す目的地に到着した。警視庁から30分ほど走らせた場所で、周囲には田んぼや畑が目立つ。どうも、昔は服飾メーカーの製紙工場だったらしい。廃屋は正方形に近かった。大きさは30坪ほどくらいだろうか。


「なんだか、寂しいところですね」

「……ここがよかったんだろうな」

「まあ、人目ににつかなさそうですしね」

「そういう意味じゃない」

「じゃ、どういう意味なんですか?」

「……」


 無視かよ、と相沢は心の中でつぶやく。


「ここが殺人現場ですか」


 二人は『KEEP OUT』と書かれたテープをくぐり抜ける。中は閑散としていた。物が一つも置かれていない。地面には被害者が寝転がっていただろう、死体の型でテープが敷かれている。八芒星もそのままだ。

 松下は、おもむろにスマホを取り出して、なにやら上下左右に動かしている。


「何やってんですか?」

「今って便利だな。定規とかなくても計測できるんだから」

 計測できるスマホのアプリを使っているようだ。

「で? なにを測ってるんですか?」

「八芒星。どれくらいの大きさかなって思って」

「……」


 それ、意味あんのかよ、と相沢はもう質問することすらやめた。それから、松下は色々な場所にスマホを向け始めた。しかし、痕跡を探していると言うよりは、先ほどみたいになにかを測定しているという感じだった。


「即死じゃなかったんですよね? 後頭部を殴打されて、しばらく、生きてたって」

「ああ。そう書いてあったな」

「……」


 相沢は被害者の目線に立って、天井を眺めた。確か、死亡推定日時は7月6日の夜だ。明日は七夕。被害者の誕生日だったはずだ。もしかしたら、ケーキとろうそくに囲まれた日が遭ったのかもしれない。彼女は、この無機質な天井を眺めながら、なにを考えていたのだろうか。


「じゃ、行くか」

「なにか、痕跡があったんですか?」

「いや。そのために来たんじゃないし」

「なんで来たんですか?」

「雰囲気。どんなもんかなって思って」

「それが、捜査の参考になるんですか?」

「気になったから来たんだ。それじゃ、駄目か?」

「まだ、新人なんで右も左もわかりませんが、絶対に駄目だと思いますけど」


 相沢は呆れるようにため息をつく。


「あと、場所。遺体は別の場所で殺されて、ここに運び込まれたって、資料にあった。どんな所に置かれてるかなって」

「まあ。ど真ん中でしたよね」

「うん」

「……」


 今の一連のやり取り、意味ある? と相沢は怪訝な表情を浮かべた。

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