第2話
ざまあみろ!
エイコは今にも泣きそうな顔をしている。
アンタは何も変わっていない。
そうやって物わかりがいいフリをして、自分の気持ちをひた隠すから、本当に欲しいものが手に入らないんだ。
エイコはいつも「自分で選んだ道だ」って顔をするけど、実際は逆。
生徒会は担任に押し付けられただけだし、勉強を頑張るのだって自分のためじゃなく先生に褒められたかったから。
今日の門限は21時だっけ?20歳にもなって、まだ親の言いなりなの?
エイコは、自分を良識と他責で縛り上げている。
エイコの第一印象は、「あぁ、なんか可愛い子がいるなぁ」。
性格を一言でいうなら、【手枷足枷】。
どんなに体調が悪くても絶対に学校は休まないし、校則の服装規定はきっちり遵守するし、ザ・大和撫子って髪型だし、いつも雑用を頼まれているし。教師陣は手のかからない、都合のいい生徒だと思っていたに違いない。
「
間接的にあたしを持ち上げる魂胆なのだろうが、この先生は知らないだろう。
あたしがエイコに恋してるということを。
あたしはエイコが好きだった。
エイコがあたしを好きになる前から、ずっと。
声をかけたのはあたしからだった。エイコは引っ込み思案な子だったら、強引で気ままなキャラを演じた。
この手の子は一度ボーダーを超えてしまえば、すぐに懐いてくれる。
エイコはいつも楚々としていて、控えめで、女の子らしくて、誰よりも黒髪が似合っていて、垂れ目が可愛くて。
大嫌いな勉強を頑張って、エイコと同じ進学先を希望した。放課後の図書室、あるいはファミレスで、勉強を教えてもらう時間があたしは大好きだった。エイコを独り占めしたかった。
でもあたしが気持ちを伝えたところで、エイコは決して受け入れてくれなかっただろう。
だってエイコは、いい子ちゃんだから。
自分の欲望よりも、世間一般の“正しさ”を優先する、臆病者。
だから言ってやった。
――あたしね、今、女の人と付き合ってるんだ。
彼女なんていないよ。だって今も、エイコのことが好きなんだもん。
でも、教えてあげない。
これからは、月に一度くらい遊びの誘いのメッセージを送ってあげる。
きっとエイコは、文面ではそっけない風を装いつつも、いざ顔を合わせたらしっぽを振る犬みたいな態度を見せるんだ。
それを想像するだけで、あたしは満たされる。
エイコは知らないよね。好きな人に避けられて、あたしがどれだけ傷ついたか。
あの時もエイコは、自分の気持ちばかり優先してたよね。
今度はあたしがエイコを振り回す番。
いつかエイコは、本心を抑えられなくなる日が来るのかな。
良識を飛び越えて、あたしを受け入れてくれるかな。
ねえ、これからはいっぱい悪いことしようね。
「彼女」に隠れて、2人で会おうね。
ウチに泊まらせてあげる。お酒も教えてあげる。
その時もエイコは、いい子ちゃんのままでいられるのかな。
「またよろしくね、親友」
そう強がるエイコに、あたしは笑いかけた。
「とりあえず今度、会わせてあげるよ。自慢の彼女に」
その泣き顔が愛しくて。
あたしはもう一度、嘘をつく。
私はもう一度、嘘をつく。 及川 輝新 @oikawa01
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