ワンルーム

「水が足りなかったんでしょうか」

「ああ」

「ごめんなさい。まだ生きていた」

「危うく捨ててしまうところだった。良かった」

「でも結局同じなんですよ」

「同じ」

「だって生まれてから死なない命なんて無い」

「個々の寿命に限界があるのはもちろん、あの太陽もいずれ消滅しますし、そうしたらこの星も無くなりますし」

「至極当たり前のことですから」

「意味なんてないと嘆く人もいる。意味は必ずあると奮起する人もいるけれども」

「同じなんですよ」

「結果は同じ」

「意味をみつけられなかった人も死にます。みつけられた人も死にます」

「最期に抱く感情が失意であれ、充足であれ、死んだらなにも残りません」

「なにか他に残せたものがあったとしても、永遠に残るものなんてない。この星に寿命がある限りは」

「死んだ後に残った何かが、他人の中に在って、それが人様の人生を左右するなんて奇跡は」

「怖ろしい、怖ろしくて堪らない」

「そうやって連綿と受け継がれて、続いて、細切れの現在の中で辛うじて息をして。少しずつ部分は変わっても根幹は不変のままでなんとかあろうとして、時を越えて、永遠に近い有限の終わりに辿り着こうとして」

「死んだまま肉が腐るのも、ひょっとしたら何かのはずみで意識が戻ってしまうかもと思いながら、眼球に蛆が這うのは、確かに気分の良くない想像ですね」

「死んだあとも体裁を気にしようとする、人間の高潔さと申しますか」

「私の言葉にひとつでも新しい言葉や知見はありましたか?」

「そんなはずはないんですよ」

「私は私が知りうる範囲でしか話せないはずなのだから」

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